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ラスト・エンジェル  作者: yukke
第7章 今日の後に今日なし ~ 3日間の出来事 ~
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たとえこの命つきても

 私の目の前にたたずむこの屈強な男、顔は厳ついのにニコニコスマイル100%です。でも、よく見たらあごも結構長くて大きいですね。

笑顔だと、余計にそれが強調されて気持ち悪いかも。

逆に不信感が募るその笑顔のせいで、私はジリジリと後ずさりをしている。

でも、こいつがミカエルさんの言っていたソロモンの悪魔、序列18位のバティンなのは間違いないないね。


「おやおや、どうされました? せっかく、ルシファー様が手籠めにした天使の羽根を持つ者達、不詳ながらこの私バティンがお手伝いさせて頂いていたのですが。お気に召しませんでしたか? この様なやり方は」


 やっぱり、私の中にルシファーの転生したウイルスがあるから、ルシファーと接しているに等しい態度になっている。

だったら、私がルシファーの振りをすれば……。


「そ、そう。ご苦労さま。でもね、申し訳ないけれども。この2人は私が直接汚したいのよ」


 精一杯頭の中で悪いことを考えて、精一杯悪ぶった顔で目でバティンに返した。

でも、何でかな。すごくやりやすかった。

抵抗もないし、普通に言葉が出てきたよ。


「そうですか。勝手をし、申し訳ありませんでした。では、2人はルシファー様に任せます」


 心臓が痛い、それだけ緊張しているの。ドキドキするなんて通り過ぎているよ。

手には変な汗も掻くし、呼吸も深くなっている。

2人に近いのに、手が届く距離なのに。何故か遠く感じてしまう。

威圧感? とにかく油断が出来ない。


 ゆっくりと2人に近づいていく私の足は、多分震えているはず。

震えないでお願い。それだけでバレちゃいそう。


「お、お姉ちゃん……」


 美奈ちゃんも、この異常な空気のせいなのか今にも泣き出しそう。

私は、大丈夫と言わんばかりに口元を少しだけ緩ませた。

朋美ちゃんは、気づいている見たい。美奈ちゃんの手前、毅然とした態度をとっている。

でも、さっきまで涙でぐしゃぐしゃの顔だっからね。


 そして、私が2人が縛られているロープを、屈んでほどこうとした瞬間。

バティンが私の後ろに瞬時に移動した。

は、早いよ。しかも、後頭部に何か冷たい物が押し付けられている。


「ふふ、先程のはあなたが完全にルシファー様だったらの話ですよ。忌々しい、ミカエルの転生したウイルスも持っているあなたは、私達にとっては中途半端な存在でしかないですよ」


 やっぱり、分かっていたんじゃん。

そして、頭に押し付けられているのは多分銃だよね。


「おねぇちゃっ……」


「大丈夫だよ、美奈ちゃん。朋美ちゃんも、ちょっと待っててね」


 私は、2人を落ち着かせるためにそう言った。

すぐにでも帰れると信じさせるために。

もう迷っている場合じゃない、怖がっている場合じゃない。


「バティンさん、私をそんな事しても良いの?」


「大丈夫です。死体からウイルスを採取すれば、私達にとって都合のいい人物を選び、あなたの代わりに感染させれば良い。あなた、自分がルシファーの転生したウイルスを持っているからって、殺されないとでも思っていましたか?」


 う~ん。でも、不自然だね。

それなら、私はとっくにダンタリオンやシャックスに殺されてるよね?

でも、良いか。私が言いたいのはそういう事じゃないからね。


「そっか。でもね、そうじゃなくってね。ちょっと下見てくれるかな?」


「うん? あぁ、なるほど。そういう事ですか」


 そう、私はさっきこの家に突撃する前に、ダイスを振りナイフを出していたの。もちろん、退魔能力の付いたね。

それを私は隠し持っていて、さっき銃を押し付けられた瞬間、咄嗟に取り出して左手に逆手で持ち、 バティンの足元に突き出していた。


「撃った瞬間、突き刺すからね」


「それでは、君は死んでしまうだろう?」


「構わないわ。後は、ミカエルさんが2人を日本に帰してくれるだろうしね」


 私は、何故かは分からないけれど、とても落ち着いていた。

死ぬ事への恐怖は多少はあったけれど、それでも2人を助ける為なら。この命を投げうってでも助けるんだ。


 そして、冷静な自分が居ることにも驚いているよ。

だって、さっきのバティンの言葉はやっぱり不自然だ。

私が死んでも、死体からウイルスを取り出す?

そんなことが出来たなら、私が最初に2人を助けようとしたとき、脚を狙うのではなくて頭を狙うはず。

やっぱり、こいつらは私を殺すことはできない!


 張り詰めた空気が流れる。時間が止まってしまったのかと思うくらいに、皆微動だにしなかった。

ただ、聞こえるのは外から聞こえる銃声のみ。


「君は今、ダンタリオンを魔界に返す時の反動で、記憶が消えているのだろう? シャックス君が、色々と君達の元から情報を盗んでいたよ。なのに、またその力を使うとなると、今度は何を失うか分からないだろう。記憶じゃないかもしれない」


 今、ここでそんなことを言うなんて、やっぱり私を殺せないって事でしょう?

尚更私は引かないよ。


「たとえ、何を失っても。私はこの2人を助けられるなら、腕でも脚でも全ての記憶でも良い。あなたを魔界に送り返してやるから」


 私の強い決意の籠もった言葉は、相手を後退させるには十分だったのかな? バティンは、咄嗟に私の後ろに飛び退いた。

おかげで刺しそこねたけれどね。


「やれやれ、危ないですね。脅しも通用しないとは」


「残念だけど、あなたは脅しに向いていないよ」


 私は、立ち上がりナイフを持ち直しバティンに向ける。

納得のいかない顔をしていたけれど、自分でもいくつかミスがあったのは分かっていたと思う。

手に持ったライフル銃を下ろすと、再び私に100%の笑顔を向けてくる。

いや、今度は120%だね。さっきよりもにこやかに、そして爽やかな笑顔にしている。

だから、その顔でその笑顔は気持ち悪いよ。


「はい、そこまで」


 すると、私達の間にミカエルさんが下りてきた。

何も出来ないのに、なんでこんな丁度良いタイミングで割って入るのかな。


「ミカエル君。君は、相変わらずくえないね」


「それは、こちらのセリフだよ。その悪魔らしからぬ、気持ち悪い愛想笑いは辞めてくれないかな?」


 えっ? それ愛想笑いなの?

てっきり私の事を舐めているのかと。


「さて、バティン君。このままでは君は魔界へトンボ返りする事になるよね? 2日前にこちらにやって来たのにね」


 そんなに最近なんですか。それは、ご苦労様です。

それなら今のうちに。と思ったのですが、ミカエルさんが私の前に手をやり制止してくる。


「悪いけど、君にもこれ以上のリスクを、背負わすわけにはいかないよ」


「だ、だけど! 今魔界に送り返さないと! 天使の羽根持ちの人が!」


 ソロモンの悪魔相手に、温情なんて考えてはいけないはずなのに。

私の事なんてどうでも良いから。そいつを……。


「今、君は天使から最も遠ざかっているよ」


 ミカエルさんにそう言われ、私は目を見開き驚いた。

天使から、遠ざかっている……?


「今の君の顔はとても醜いよ。天使とは思えないくらいにね」


「……」


 友達を助けたい、その一心だったのに。私は、ミカエルさんからの言葉になんて返したら良いか分からなかった。


「やれやれ、日本を選んだのは間違いだったのではないかな? ミカエル君」


「ちょっと、静にしていてくれないかな? ヨーロッパの国でも良かったけれど、あそこは経済が不安定で暴動も起きているからね。それに比べるとまだ日本はマシだっただけ。かろうじてだけどね」


 2人は、いったい何を言っているんだろう?

あぁ、そうか。そう言えば『天使の羽根症候群』の人は、日本にしか居ない。

でも、天使ならばヨーロッパとかアメリカ等外国の方が、宗教上の観点から見ても不自然では無いはず。

なんで、日本に天使ウイルスをばらまくようなことを?

でも、今はそれよりも。2人を助けないといけない。


 私は、バティンに気づかれないようにゆっくりと後ずさりをして、捕まっている2人に近づいていく。

すると、それに気づいたバティンが私に向かって声をかける。


「そんなに心配しなくても、今回は君の勝ちにしてあげる。君と一緒に、その2人を日本に帰してあげるよ。だが、次はこうはいかないよ?」


 バティンがそう言った瞬間。2人の姿が一瞬で消えた。


「へっ? なっ……」


 私が驚きの声を上げる間もなく、私の視界に映る景色が瞬時に縦に伸びた。

もし瞬間移動という技術があるならば、こうやって移動するんだろうなぁと、私の頭がそう認識していた。






「やれやれ、相変わらず手際の良い瞬間移動だね」


「残念だがミカエル君、君は逃がさないよ。ここで、完全に滅してあげるよ」


「言うと思ったよバティン君」

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