ルシファーの側近
私は、今ミカエルさんの後ろを飛んでいる。
どうやら、2人がいる国に入ったようです。
この先はミカエルさんが感じる、ソロモンの悪魔の気配を頼りに行くしか無いみたい。
そこで、私は今回のソロモンの悪魔の事を聞いてみる。
「そう言えば、今回のソロモンの悪魔は、私の協力が無いとって言っていたけれど、どんな奴なの?」
その言葉に、ミカエルさんは振り返らずに返してくる。
「今回のソロモンの悪魔は、序列18位のバティンだよ。こいつは、瞬間移動の使い手でね。国から国なんて、瞬時に移動出来るのさ」
そんな奴が相手なんて、私の退魔弾なんて絶対当たらないよね。
なんだか、急に不安になってきたよ。ミカエルさんはただの借り物の体を、思念体で動かしているだけだから、あんまり頼りにならないし。
不意打ちでもしないと無理だよね。
「それと、そいつはルシファーの側近なのさ。僕の言いたいこと、分かるかな?」
「側近って……じゃぁ、そいつは私に対して忠実な動きをするかもってこと?」
私のその言葉に、ミカエルは頷いた。相変わらず振り向かないけれどね。
でも、あなたの転生したウイルスも宿しているんだよ。それも分かっていたら、何をしてくるか分からないよ。
「とにかく、向こうは君に対して下手に手を出せない立場の悪魔だ。何とか交渉に持っていければ、あるいは……って感じだね」
そう言うことね。どちらにしても、相手が誰であろうと私はあの2人を助けるんだ。
その為ならこの体を失ってでも。
「君、今変な事考えてるでしょ?」
「へぁ?!」
あまりにもミカエルさんにドンピシャな事を言われて、私は声が裏返ってしまった。
なんで分かるのかなぁ?
「ダメだよ。君は、僕達にとっても大切な存在になっているんだよ。自分を犠牲にする考えが頭にあるなら、この先へは連れて行けないよ」
すると、ミカエルさんが急に止まって私の方に振り向いた。
そのミカエルさんの顔は真剣そのものです。
まさかと思って、私は眼下を眺める。
そこには、平和な日本で過ごす私にとって、衝撃的な光景が飛び込んできた。
道路の脇に転がる死体の数、銃を持った人達、その中には私よりも幼い子供が銃を持っている。
死体を見ても何の反応も示さない。
いつもの事だと言わんばかりに、普通に歩いている。
私が、あまりにもショックな光景に言葉を失っていると、ミカエルさんが続ける。
「ここは平和とはかけ離れた、戦争が日常の国。自分が生きる為に、死体を踏みつけ、人を殺し、それでも食べ物はろくに食べられない。そして、子供の中には性処理に使われるている子もいる。男女関係なくね。この国では、君みたいな自己犠牲の人は、すぐに殺されるよ。自分だけが全て。他人の為になんて考えない。そんな世界だよ」
ミカエルさんはきつい口調でそう言ってくる。
でもね、私はこの国をどうこうしたいわけじゃないよ。
無責任なんだけどね、私1人で何とか出来るレベルじゃない。
「ミカエルさん。今は、2人を助けないと。言いたい事は分かったから。自分の命にかけてなんて、ここではしないから」
「うん、分かった。それじゃぁ……」
「でも、無茶だけはさせて」
私のその言葉に、ミカエルさんは呆れたように、思っていた通りの事を言われたという感じの顔になっていた。
「君は、そう言うと思っていたよ。それじゃ、行こうか」
「うん」
そして、ミカエルさんは高度を下げていく。
私も、それに合わしてゆっくりと下りていく。
すると、徐々に分かってくる。この場所の異常さが。
空にまでは上がってこないもの。鼻を刺すような臭いと、硝煙の臭い、何かが焼け焦げた臭い。
とてもじゃないけれど、こんな場所に1分と居たくは無かった。
でも、ここの子供達にとってはそれが普通であり、当たり前の世界なんだろうね。
もちろん、私達は意識阻害の結果があるので、周りの人には見えていない。
「こっちだよ」
地面が近づき、何が落ちているのかが見える程の高度になったとき、ミカエルさんは急に前に進む。
私は慌てて後を追った。あっ、ゴミだと思っていたのって何かの肉片?
想像しないでおきます。今は、怖い想像しか出来ません。
「ここだね。ここから、ソロモンの悪魔の気配を感じるよ」
そう言うと、ミカエルさんは急に止まった。
そこは石造りの様な建物であり、道路に対して平行に伸びているけれど、途中で右に向かって垂直に曲がっている。
屋根は平坦で、所々に穴が空いているので上から覗く事が出来る。
すると、その中に私が求めていた人の姿を見つける。
間違いない朋美ちゃんと美奈ちゃんだ!
私は、咄嗟に急降下して2人の元に向かおうとした。
でも、踏みとどまった。何故なら、2人の前に現地人の人らしき人達が、ライフル銃を持ち2人の前に立っていたから。
嘘でしょう。完全に拉致した状態じゃない。
そして、2人とも猿ぐつわをされ手足を縛られている様子です。
酷い、何で関係ない人にそんな扱いができるの?
「さすがに、無闇に突撃するべきではないって分かったね」
「ど、どうしよう……」
私が困惑していると、ミカエルさんが笑顔で答えてくる。
「君は自分の力を信じていないのかな?」
あっ、そっか。この体なら、普通の人くらいなら軽く吹き飛ばせるんでした。
それでも向こうは銃を持っているし、一歩間違えればってことも。
うん、念には念を入れておきましょう。
そう考えた私はダイスを出して、手のひらの上で尖った部分を軸に回転させ、記した面を出す。
「君は、今“それ”を使った事で記憶を失っているんだよ。連続で使うと、次は何を忘れるか。いや、記憶じゃないかもしれないよ」
私が出現させた物を見て、ミカエルさんはまた呆れた顔をしている。
でも、こればっかりは譲れないよ。
私は、それだけこの2人を助けたいと思っているんだよ。
「大丈夫、この命は無駄にしないから安心して」
そう言ったけど、あんまりミカエルさんは納得していない様子です。
それでも、私はミカエルさんの返事を待たずに、建物に向かって飛んで下りていく。
見える限りでは2人。なら不意打ちで何とかなるかも。
私は、建物の天井の穴近くに下りると中の様子を眺める。
もちろん、その近くにミカエルさんも下りてくる。
「分かっているとは思うけれど、他人に対して何かしらの行動を起こすと、意識阻害の結果の効果は消えるからね」
「分かっているよ」
だからこそ、見張りは今見えている2人だけであって欲しいよ。
でも、行くしか無いよね。この状況だと、いつ2人が殺されてもおかしくないよ。
というか、戦争を行っている国の様子を見せて、恐怖で心を汚そうという算段かな?
「よし、行ってくるね」
私はミカエルさんにそう言ったけれど、なかなか下に飛び降りる事が出来ない自分に対して、気合いを入れるためでもあるかな。
意を決した私は下に飛び降りる。
だけど、見張り役の2人は気づいていない。意識阻害の結界が効いている。
だったら、慌てずにゆっくりと、見張り役の2人の前に行けば良い。
そして、上手くいくかは分からないけれどもあごに向けて、水平に手刀を2人に叩き込む。
うん、上手くいった。見張り役の2人は何が起こったかも理解出来ずに、脳が揺れて視界がぐらついた様に倒れ込む。
人をダウンさせるには、これが一番良いんだよ。
間違っても、首の後ろは殴らないように。気絶なんかしないからね。
後は死なない程度に、倒れ込んだ所を私の正義の拳を打ち込めば。
「!!!!」
うん、悲鳴なんか上げる間もなく終了。
ちょっと、床にヒビが入っちゃったけれどね。
「ん~!! んぅぅ! んぅ!」
2人とも猿ぐつわがあるから、何喋ってるか分からないよ。
私の姿が確認出来た瞬間、ボロボロ涙を流して必死になっている。
もう、2人とも顔がぐちゃぐちゃだよ。
私は、とにかく上手く行ったことに安堵し、笑顔で2人に近づくと美奈ちゃんの猿ぐつわを取る。
「お姉ちゃん、右!!」
美奈ちゃんのその言葉の後、右手にある部屋の奥から銃声が聞こえ、それと同時に銃弾が飛んでくる。
「っ!!」
美奈ちゃんが叫んでいなかったら、危なかったよ。
ギリギリで、銃弾は私の足を掠めていく。
体を咄嗟に後ろにずらしていなかったら、足に直撃していました。
でも、脚を狙ったという事は私の命を狙ってはいない。
「ようやく来ましたか。待ちくたびれましたよ。それと、手荒な歓迎で失礼致しました。みすぼらしい所ですが、ゆっくりしていって下さい」
いきなり部屋の奥から、丁寧な言葉が飛んできたから、私はそちらを振り向いた。
行動とは裏腹に、その言葉には少し愛想の良さか感じられる。
私が、ルシファーの転生したウイルスを持っているからかな?
でも、前言撤回。暗い部屋の奥からは、軍服を着た屈強そうな男が現れた。
戦闘力いくつですか? この人は。
私はその時、昔読んだ漫画のシーンが頭に浮かんでしまいました。何だったかは、忘れたけれどね。
「あぁ、安心してください。あなたにも、そちらの2人にも危害を加えるつもりはないですよ」
そう言ってその男が奥の部屋から完全に出ると、その男がソロモンの悪魔だと瞬時に理解した。
だって、蛇みたいな尻尾がお尻から生えてますよ!
私の驚いた表情を見ると、その男はにっこりと爽やかな笑顔になる。
屈強そうな体つきに、厳つい顔なのに。スマイル100%はギャップありまくりです。




