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ラスト・エンジェル  作者: yukke
第7章 今日の後に今日なし ~ 3日間の出来事 ~
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ルシファーの側近

 私は、今ミカエルさんの後ろを飛んでいる。

どうやら、2人がいる国に入ったようです。

この先はミカエルさんが感じる、ソロモンの悪魔の気配を頼りに行くしか無いみたい。

そこで、私は今回のソロモンの悪魔の事を聞いてみる。


「そう言えば、今回のソロモンの悪魔は、私の協力が無いとって言っていたけれど、どんな奴なの?」


 その言葉に、ミカエルさんは振り返らずに返してくる。


「今回のソロモンの悪魔は、序列18位のバティンだよ。こいつは、瞬間移動の使い手でね。国から国なんて、瞬時に移動出来るのさ」


 そんな奴が相手なんて、私の退魔弾なんて絶対当たらないよね。

なんだか、急に不安になってきたよ。ミカエルさんはただの借り物の体を、思念体で動かしているだけだから、あんまり頼りにならないし。

不意打ちでもしないと無理だよね。


「それと、そいつはルシファーの側近なのさ。僕の言いたいこと、分かるかな?」


「側近って……じゃぁ、そいつは私に対して忠実な動きをするかもってこと?」


 私のその言葉に、ミカエルは頷いた。相変わらず振り向かないけれどね。

でも、あなたの転生したウイルスも宿しているんだよ。それも分かっていたら、何をしてくるか分からないよ。


「とにかく、向こうは君に対して下手に手を出せない立場の悪魔だ。何とか交渉に持っていければ、あるいは……って感じだね」


 そう言うことね。どちらにしても、相手が誰であろうと私はあの2人を助けるんだ。

その為ならこの体を失ってでも。


「君、今変な事考えてるでしょ?」


「へぁ?!」


 あまりにもミカエルさんにドンピシャな事を言われて、私は声が裏返ってしまった。

なんで分かるのかなぁ?


「ダメだよ。君は、僕達にとっても大切な存在になっているんだよ。自分を犠牲にする考えが頭にあるなら、この先へは連れて行けないよ」


 すると、ミカエルさんが急に止まって私の方に振り向いた。

そのミカエルさんの顔は真剣そのものです。

まさかと思って、私は眼下を眺める。


 そこには、平和な日本で過ごす私にとって、衝撃的な光景が飛び込んできた。


 道路の脇に転がる死体の数、銃を持った人達、その中には私よりも幼い子供が銃を持っている。

死体を見ても何の反応も示さない。

いつもの事だと言わんばかりに、普通に歩いている。

私が、あまりにもショックな光景に言葉を失っていると、ミカエルさんが続ける。


「ここは平和とはかけ離れた、戦争が日常の国。自分が生きる為に、死体を踏みつけ、人を殺し、それでも食べ物はろくに食べられない。そして、子供の中には性処理に使われるている子もいる。男女関係なくね。この国では、君みたいな自己犠牲の人は、すぐに殺されるよ。自分だけが全て。他人の為になんて考えない。そんな世界だよ」


 ミカエルさんはきつい口調でそう言ってくる。

でもね、私はこの国をどうこうしたいわけじゃないよ。

無責任なんだけどね、私1人で何とか出来るレベルじゃない。


「ミカエルさん。今は、2人を助けないと。言いたい事は分かったから。自分の命にかけてなんて、ここではしないから」


「うん、分かった。それじゃぁ……」


「でも、無茶だけはさせて」


 私のその言葉に、ミカエルさんは呆れたように、思っていた通りの事を言われたという感じの顔になっていた。


「君は、そう言うと思っていたよ。それじゃ、行こうか」


「うん」


 そして、ミカエルさんは高度を下げていく。

私も、それに合わしてゆっくりと下りていく。

すると、徐々に分かってくる。この場所の異常さが。

空にまでは上がってこないもの。鼻を刺すような臭いと、硝煙の臭い、何かが焼け焦げた臭い。


 とてもじゃないけれど、こんな場所に1分と居たくは無かった。

でも、ここの子供達にとってはそれが普通であり、当たり前の世界なんだろうね。

もちろん、私達は意識阻害の結果があるので、周りの人には見えていない。


「こっちだよ」


 地面が近づき、何が落ちているのかが見える程の高度になったとき、ミカエルさんは急に前に進む。

私は慌てて後を追った。あっ、ゴミだと思っていたのって何かの肉片?

想像しないでおきます。今は、怖い想像しか出来ません。


「ここだね。ここから、ソロモンの悪魔の気配を感じるよ」


 そう言うと、ミカエルさんは急に止まった。

そこは石造りの様な建物であり、道路に対して平行に伸びているけれど、途中で右に向かって垂直に曲がっている。

屋根は平坦で、所々に穴が空いているので上から覗く事が出来る。

すると、その中に私が求めていた人の姿を見つける。

間違いない朋美ちゃんと美奈ちゃんだ!


 私は、咄嗟に急降下して2人の元に向かおうとした。

でも、踏みとどまった。何故なら、2人の前に現地人の人らしき人達が、ライフル銃を持ち2人の前に立っていたから。

嘘でしょう。完全に拉致した状態じゃない。


 そして、2人とも猿ぐつわをされ手足を縛られている様子です。

酷い、何で関係ない人にそんな扱いができるの?


「さすがに、無闇に突撃するべきではないって分かったね」


「ど、どうしよう……」


 私が困惑していると、ミカエルさんが笑顔で答えてくる。


「君は自分の力を信じていないのかな?」


 あっ、そっか。この体なら、普通の人くらいなら軽く吹き飛ばせるんでした。

それでも向こうは銃を持っているし、一歩間違えればってことも。

うん、念には念を入れておきましょう。


 そう考えた私はダイスを出して、手のひらの上で尖った部分を軸に回転させ、記した面を出す。


「君は、今“それ”を使った事で記憶を失っているんだよ。連続で使うと、次は何を忘れるか。いや、記憶じゃないかもしれないよ」


 私が出現させた物を見て、ミカエルさんはまた呆れた顔をしている。

でも、こればっかりは譲れないよ。

私は、それだけこの2人を助けたいと思っているんだよ。


「大丈夫、この命は無駄にしないから安心して」


 そう言ったけど、あんまりミカエルさんは納得していない様子です。

それでも、私はミカエルさんの返事を待たずに、建物に向かって飛んで下りていく。



 見える限りでは2人。なら不意打ちで何とかなるかも。

私は、建物の天井の穴近くに下りると中の様子を眺める。

もちろん、その近くにミカエルさんも下りてくる。


「分かっているとは思うけれど、他人に対して何かしらの行動を起こすと、意識阻害の結果の効果は消えるからね」


「分かっているよ」


 だからこそ、見張りは今見えている2人だけであって欲しいよ。

でも、行くしか無いよね。この状況だと、いつ2人が殺されてもおかしくないよ。

というか、戦争を行っている国の様子を見せて、恐怖で心を汚そうという算段かな?


「よし、行ってくるね」


 私はミカエルさんにそう言ったけれど、なかなか下に飛び降りる事が出来ない自分に対して、気合いを入れるためでもあるかな。

意を決した私は下に飛び降りる。

だけど、見張り役の2人は気づいていない。意識阻害の結界が効いている。


 だったら、慌てずにゆっくりと、見張り役の2人の前に行けば良い。

そして、上手くいくかは分からないけれどもあごに向けて、水平に手刀を2人に叩き込む。


 うん、上手くいった。見張り役の2人は何が起こったかも理解出来ずに、脳が揺れて視界がぐらついた様に倒れ込む。

人をダウンさせるには、これが一番良いんだよ。

間違っても、首の後ろは殴らないように。気絶なんかしないからね。

後は死なない程度に、倒れ込んだ所を私の正義の拳を打ち込めば。


「!!!!」


 うん、悲鳴なんか上げる間もなく終了。

ちょっと、床にヒビが入っちゃったけれどね。


「ん~!! んぅぅ! んぅ!」


 2人とも猿ぐつわがあるから、何喋ってるか分からないよ。

私の姿が確認出来た瞬間、ボロボロ涙を流して必死になっている。

もう、2人とも顔がぐちゃぐちゃだよ。

私は、とにかく上手く行ったことに安堵し、笑顔で2人に近づくと美奈ちゃんの猿ぐつわを取る。


「お姉ちゃん、右!!」


 美奈ちゃんのその言葉の後、右手にある部屋の奥から銃声が聞こえ、それと同時に銃弾が飛んでくる。


「っ!!」


 美奈ちゃんが叫んでいなかったら、危なかったよ。

ギリギリで、銃弾は私の足を掠めていく。

体を咄嗟に後ろにずらしていなかったら、足に直撃していました。

でも、脚を狙ったという事は私の命を狙ってはいない。


「ようやく来ましたか。待ちくたびれましたよ。それと、手荒な歓迎で失礼致しました。みすぼらしい所ですが、ゆっくりしていって下さい」


 いきなり部屋の奥から、丁寧な言葉が飛んできたから、私はそちらを振り向いた。

行動とは裏腹に、その言葉には少し愛想の良さか感じられる。

私が、ルシファーの転生したウイルスを持っているからかな?


 でも、前言撤回。暗い部屋の奥からは、軍服を着た屈強そうな男が現れた。

戦闘力いくつですか? この人は。

私はその時、昔読んだ漫画のシーンが頭に浮かんでしまいました。何だったかは、忘れたけれどね。


「あぁ、安心してください。あなたにも、そちらの2人にも危害を加えるつもりはないですよ」


 そう言ってその男が奥の部屋から完全に出ると、その男がソロモンの悪魔だと瞬時に理解した。

だって、蛇みたいな尻尾がお尻から生えてますよ!


 私の驚いた表情を見ると、その男はにっこりと爽やかな笑顔になる。

屈強そうな体つきに、厳つい顔なのに。スマイル100%はギャップありまくりです。

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