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ラスト・エンジェル  作者: yukke
第6章 決戦 ソロモン72柱『ダンタリオン』
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その代償は?

 その夜、俺は晩ごはんが出来るまでの間、足をプラプラさせて考え事をしている。

正直、皆にソロモンの悪魔の事を話しても良かったのだろうかと、ずっと悩んでいる。

もちろん、帰ってから両親にも説明はした。

目玉が飛び出すんじゃないかというくらいに驚いていたけれどね。


「こら、明奈。足をプラプラさせない、お行儀悪いわよ」


「む~、お母さん子供じゃないんだからそんな言い方は止めてよ」


「あら、今は子供でしょう」


 そんな屁理屈はいりません。


「あと、スプーンを口にくわえたままにしない」


 む~。色々とうるさいなぁ。


「ブヒヒ、でもやっぱり。明奈ちゃんはその方が可愛いよ」


 余計な事は言わないで、ブタお兄さん。

ん? ブタお兄さん?

あまりにも自然に会話に入って来たけれども、ブタお兄さんは今はこの家には居ないはず。

俺は、恐る恐る声のする方を向くと。

亀甲縛りでパンツ一丁の姿で、鼻息を荒くしながら、至近距離で俺を覗き込むブタお兄さんの姿が。


「って、くさ~い!!!」


「へぶら!! でも、ききましぇ~ん!」


 あまりにも驚いたために、咄嗟にひっぱたいけれど効いていない。


「明奈ちゃん~!! 久しぶりにペロペロさせて~!」


「一度もさせたことな~い! 近寄らないで~!!」


 必死に足でゲシゲシしても効かないよぉ!!


「あぁ、明奈ちゃんの足だぁ……クンクン」


 ひぃぃぃいい! 匂ぐなぁ! 何かこいつバワーアップしているよぉ!


ゴスッ!!


「ブッ!!」


 えっ? ブタお兄さんの頭に大きな分銅が。

そして望お姉ちゃんがその上で、自分の手の汚れを落とすようにはたいている。


「死んだ?」


「えっと、まだ生きてるかな?」


 俺が、汚れても良い棒みたいな物でツンツンしながら確認する。


「1トンにすれば良かったかな?」


「それは、ほんとに死にますよ。これで5キロだもん」


 でも、なんでこんな所にブタお兄さんが?


「あらあら、全く。マルちゃんはそんなに我慢出来なかったのですか? 良しとは言っていないのに、一目散に駆け出して行くなんて」


 そう言いながら、今度は宝条さんが家に入ってくる。

あの、すいません。今、ご飯時ですよ。


「あら、宝条さん。いらっしゃい。でも、申し訳ないけれども今は……」


 母さんが非常に申し訳なさそうに、突然の訪問を断ろうとしてくる。


「あら、明奈とディナーを楽しもうと思いましたのに。夕飯時におしかけることになるので、迷惑料と言いますか神戸牛を持ってきましたのよ」


「ようこそ、宝条さん。狭苦しい所で恐縮ですが、ゆっくりしていって下さい」


「そうね、早速神戸牛で何かもう少し作るわね! ちょっと待ってて!」


 両親2人が買収されました。

手際良すぎて怖いよ。というかお父さんが、綺麗に九十度でお辞儀していたのも怖かった。


「ふふ、本当はそんな体になった明奈が心配でしてね」


「えっ?」


 心配してくれたんだ。ほんとにこの人って素直過ぎる。

だから、素直に欲しい物は欲しいと言って買収したり、わがまま通したりするのかな?


「そうそう~それに、君にはこれからもっと大変な現象が起きるのだからね」


「なんで、ミカエルまで居るの!!」


 俺はリビングのソファーに、当然の様に座っているミカエルにドロップキックをかましてあげました。


「ちょっと、何するんだい?! 言い忘れていた事を言い来ただけなのに!」


「そうですか。だったら、私もやり忘れていた事をやっておきますね」


 そう言って俺はミカエルの額を掴むと、ハンマーを取り出しグルグル眼鏡をたたき割るために腕を振り上げる。


「わぁ!! 待って待って! 目がマジだよ! 君、四大天使を何だと思ってるの~?!」


「あれ? あなた、そうでしたっけ?」


 あまりにも好き勝手するもんだから全く別物かと。


「ミカエルだって、言ってるじゃん~!!」


「じゃぁ、ふざけないで真面目にやって下さい」


 すると、突然俺は何かに襟首を掴まれ空中にぶら下げられるようにされる。

何事かと思って振り向くと、お父さんでした。


「明奈、あんまり人様にそんな事をしてはダメだ。で、こちらの人は?」


 あの~その前に降ろして下さいお父さん。

何か、親猫にくわえられて移動される子猫みたいになっちゃってるよ。

だから、プラプラさせないで。簡単に説明するから。


「えっと、私をこんな体にした張本人です。本物の四大天使ミカエル。因みに、体はとっくに失っていて思念体らしいです。で、今は借り物の体を使っているらしいです」


「そうそう~死んだ直後の魂の抜けた体を使わせて貰ってるんだ。あっ、腐ってないし腐らせないようにしているから大丈夫だよ~」


 だから、さらっととんでもないことを言わないでよ。


「あらあら、私てっきり『スター・エンジェルズ』のミカエルかと思いましたわよ」


 宝条さん、グルグル眼鏡に髪型もまったく違うのによく分かったよね。

この人の前では変装なんて、意味を成さないね。


「あぁ、そのミカエルも僕だよ~驚いた? あ、サインは今のうちにね~」


「えっ?! 嘘?! ホ、ホントに?」


 望お姉ちゃんは、信じたいのか信じたくないのかどっちですか?

色紙を出したり引っ込めたり、悩んでいるのが丸わかりなんですよ。


「というか、それ言って良かったの? ミカエル」


「まぁ、君達の関係者にはそろそろ言っておこうと思ってね。味方は多い方が良いからね。特に、これからは」


 そう言いながら、ミカエルは半ば強引に望お姉ちゃんから色紙を取ると、慣れた手つきで颯爽と色紙にサインをする。


「ほら、これで信じてくれるかな?」


 そう言って望お姉ちゃんに、サインの入った色紙を返す。


「ほ、本物だ……うそぉ」


「わぁ! 望お姉ちゃん、大丈夫?! ちょっと、お父さん降ろして~」


 望お姉ちゃんが腰が抜ける様にへたって、泣き出す始末。

ついつい焦って、お父さんに降ろしてもらいお姉ちゃんの元に行くけれど、うれし泣きって分かってるのに、なんで焦っちゃったのかな?


「うぅ、ぐすっ。一生の宝物にする~!!」


 そんなにですか?!

いや、しなくて良いと思います。


「全くもう、望お姉ちゃんったらびっくりさせないでよ~」


「さてさて、そろそろ良いかな? あっ、そうだ。君、神戸牛まだある? 何なら、買い取るからもっと豪華な食事にしながら話をしよう!」


「あら、良いですわね~お待ちになって下さい。すぐに用意させますわ!」


 宝条さんが、急いで電話をしている。

良いのかな~? まぁ、本人達が良いって言っているなら良いんでしょう。


「いや~こうでもしないと、これから話す事は少し暗い話になるからね」


 ボソッと不吉な事を呟いたね。聞こえない様に言ったのだろうけれど、聞こえたからね。







 1時間後。

貧乏ではないけれど、決して裕福とは言えない我が家のテーブルには、もう一生並ぶことは無いであろう、高級食材を使った料理が目白押しとなっていた。

神戸牛だけでなく、黒毛和牛まで追加されたのだからね。

しかも、何故か一流のシェフ達が現れて料理していく始末。


 お金持ちのやることは、極端過ぎてついていけないよ。

軽くパーティーみたいになっちゃっている。

母さんは高級食材に舌鼓を打ち、父さんは1本何十万円の日本酒を飲み、できあがっている。


「うんうん、この雰囲気なら大丈夫だね~」


「いや、ミカエル。その為だけにいくら使ったの? これ」


 軽く見積もっても、百万は超えてるよねこれ。

あぁ、もう皆楽しそうに騒いでいます。


「こんなにしないと、出来ない話なの?」


 俺は、改めてミカエルに質問する。

こんなに明るくしないと、出来ないくらいに重い話なの?


「そりゃ、そうさ~だって、君は明日には数日間だけ、君の中の大切な何かを失うんだからね」


「えっ?!」


 ミカエルの言葉を皆聞いていたらしく、ピタッと騒がしい音が止んだ。

いきなりシーンとするから耳が痛いんだけど。


「ソロモンの悪魔を魔界に追い返す程の力を、体が縮むというリスクだけで済むと思ったのかい? それに追い返すと一言で言っても、君がいる限り二度と人間界には来られなくなる程だからね、よっぽどの力なんだよ。無意識にそうしたとしても、やはりリスクくらいは頭に入れておくべきだったよね」


 グルグル眼鏡を取ったミカエルが真剣な顔つきで話をする。


「そ、それって。命、とかですか?」


 一気に気分の下がった母さんが、真っ青な顔でミカエルに聞いている。

確かにそこは重要だよね。

あ、でも待ってそんな重要な話の時だけグルグル眼鏡外すなんて、卑怯だよね。ということで、グルグル眼鏡装着。


「ん~分からないね~命までは失わないとは思うけどね~あとさ、眼鏡付けないでくれるかな~?」


 そう言って、ミカエルはグルグル眼鏡を取った。


「良いかい、何が起こるか分からないから」


 だから、外して真剣に話さないでよ。怖いですよ。

ミカエルの手からグルグル眼鏡を奪って装着!


「僕も、今日は~」


 あっ、またグルグル眼鏡外すし。


「この家に泊まらせて貰おうと」


 グルグル眼鏡装着!


「思うんだ~」


 あっ、だから外さないで!


「だから、僕で遊ばないでって言ってるでしょう! 真剣な話をしているんだから!」


「む~。だって、怖いんだもん」


 俺は、ほっぺを膨らまして文句を言う。

我ながら中々、可愛いんじゃないかな?


「ブッ!!」


 ちょっと、望お姉ちゃん。膨らました、俺のほっぺを片手で挟むようにして押さないでよ、口の中の空気が漏れたよ。


「か~わいい~」


 それは、良かったですね。

はぁ、でも心配していてもしょうがないか。明日にならないと分からないんだし。


「とにかく、死ぬことは無いよね?」


「あぁ、恐らくはね」


 ミカエルの言葉を信じて良いのかな? う~ん。


「何だか、心配ですわね。私も泊まっていって宜しいでしょうか?」


「そ、そんな。宝条さんがこんな狭苦しい所でなど!」


 お父さん、いちいち反応が大げさだってば。

社会人は大変なのは分かるけれども、相手の娘さんにかしこまってもしょうがないでしょ?


「あら、私は気にしませんわ。それに、友達の家でお泊まりと言うのも、私やってみたかったのですわ」


 寛大ということなのかな? まぁ、お金持ちの人にも色んな人がいますからね。


「よ~し、そうと決まればパーティー再開だ~」


 ミカエルがグルグル眼鏡を再びかけて、はっちゃけた感じで皆を盛り上げ始める。

それは、良いですけどお隣さんに迷惑にならないようにした方が……って、宝条さん。それ、お酒だよダメ~!!


「痛!! えっ? ちょっと、誰? ハリセン投げたの?!」


 何でこんならんちき騒ぎになるんでしょうかね?

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