秘策? 卑怯?
もう手詰まりかな、これで俺が処刑でもされたら一環の終わりです。
この様子じゃ、1体の人狼も処刑出来ていないはず。
次で詰みじゃん。
「えっ?! あ、えっと明奈さん。ごめん、ゲーム終了なの」
鷹西先生が、退場になった人達のカードを見て驚きながらそう言ってきた。
なんだって?! もう終了?! ってことは……。
「そう、見事に村人側ばかり退場になってたわ。そして、今回の処刑者と犠牲者も村人で、これで村人と人狼の数が揃っちゃったの」
「そ、そんな……」
何なんだこれ。一方的過ぎるでしょう。
「ふふ、そんなにガッカリして。やはり妖狐の役でしたか。これは当たり前の結果だ。お前が、妖狐なんて変な役を紛れ込ませたのが原因です。それに、あなたが妖狐ではないかと言ったときに、あなたは目を逸らして焦りが見えていましたよ」
ダンタリオンは、俺がショックのあまりに落としたカードに目をやり、俺の役を確認して言ってきた。
でも、俺そんなに挙動不審だった?
「だから、あなたの友達ではない2年生達は、客観的に見てあなたが怪しいと思った。ならば、先にあなたを擁護した人物を消すのは、当然でしょう?」
くっ……。やっぱり最初から不利だった。2年生はダンタリオンである多田の手駒なんだ、ちょっとした言葉から、簡単に2年生全員を誘導可能なんだ。
俺は、イスに座りながらガックリと肩と頭をおとす。
そうまるで、真っ白にもえ……。
止めておこう。そんな気分じゃない。
「明奈。う、嘘でしょう」
「明奈ちゃん……」
望お姉ちゃんと、朋美がこの世の終わりみたいな顔をしている。
「明奈、あなた。昨日の夜に秘策があるって言っていたじゃない」
「ほぅ、その秘策はダイスの事だろう。なら、もうその秘策も破られた。『妖狐を紛れ込ませる』、そんな最悪な面が出たようですね」
多田が、ゲームセンターでやられた分を取り返したかのように、物凄い悪魔の様な笑みを浮かべている。
まぁ、悪魔ですからね。それは、いいですけどね。
そろそろ良いかな。
「はぁ、いいよ。ゲームが人狼って分かった瞬間。あなたのワンサイドゲームになるのは、分かっていたから。私は、最初からゲームで勝つ気はなかったの」
「ふん、負け惜しみを。でわ、どうやって俺の事を止めるつもりで……」
「バン」
「っ?!!」
最初から、これが秘策だったんだよ。
俺は、ダイスで手に天使の羽根をモチーフにした黒いピストルを出現させると、ダンタリオン目がけて引き金を引いた。そして、銃声が体育館内に響き渡る。
もちろん、余裕しまくっていたダンタリオンは俺の銃弾を、回避出来ずに直撃した。
「なっ……ぐぅ。そ、その弾は!」
「そっ、退魔弾よ。ダイスでそう言う弾と銃を出現させたの。意外と簡単だったわ、絵を記せばその絵の物が出現させられたからね。ぶっつけ本番だったけど、上手くいったわ」
しかも、最近気づいたのだけれど何も指を鳴らさなくても、念じればダイスを出現させることが出来たの様です。
最初に、指を鳴らして出したから、そうじゃないと出ないと思い込んでいました。
「がっ……。く、そ。この卑怯者が」
ダンタリオンは、弾が当たった場所から、徐々に煙となって消えていきそうになっている。
「あら? 悪魔相手に卑怯もクソもないでしょ? そもそもあなたみたいなメンタリストの悪魔なら、尚更正々堂々なんてしないでしょ? あの夜の暗闇の演出。あれに、思考を阻害する力をかけていたんでしょ?」
その言葉に、ダンタリオンの顔が徐々に変貌していき、凶悪な悪魔の顔そのものになっていく。図星だったようですね。
さすがに、この事態に周りの人も騒いでいない?!
ボケっとあらぬ方向を向いている、何故?
でも、その前に俺は悪魔を魔界に送り返す程の力を使ったんだ、どんどん体が縮んでいます。服がぁ、制服がダボダボになっていく。
裸を晒してたまるか。
「くっ、くくく。俺を送り返したくらいで、全て解決したと思うなよ。他にもソロモンの悪魔は居るんだからな」
そんなことくらいは分かっているよ。
いいから、あなたは魔界に帰りなさい。
「くくく、は~ははは!!」
ダンタリオンは、高笑いしながら黒いオーラと共に、煙の様に地面に吸い込まれていく。
どうやら、魔界に戻った様ですね。
上手くいって良かった。
「あっ、そうだ。今のうちに役が何だったか確認しないと」
そう言って、俺は服を抑えながらダンタリオンが落としたカードを拾いに行く。
あぁ、やっぱりね。ダンタリオンは狂人だったよ。
あれ、じゃぁ人狼は誰だろう?
洗脳が解けたかの様に惚けている2年生達から、俺はカードを取って確認していく。
ふむふむ、村人で。あっ、5番の2年生が騎士だったんだ。
で、9番の2年生が人狼だ、じゃぁ朋美が占い師なのは間違いなかったんだね。
「そいつが人狼だったんか。くそぉ」
わぁ! 谷口先輩いつの間に後ろに。
というか、他の皆も俺の所に集まっていた。
「ご、ごめん。明奈。私、完全に足ひっぱっていたね」
朋美が、今にも泣きそうな顔をしている。
これくらいで責任を感じなくても良いのに。
「朋美、こっちもごめん。自分だけが、生き残れる様な役を入れちゃって。あいつを油断させるために、二重の策を用意するしかなかったんだ」
そう言って、朋美の頭を撫でようとしたけれども。
はい、届きません。今、10歳くらいになっていたんだった。
「あはは、明奈ちゃん。今、可愛い小学生くらいになっちゃってるから、そんなことしたら笑っちゃうでしょ」
「うぐぐ。ふ~んだ。笑わせる為にやったんだもん」
でも、それが強がりだってのは皆にバレていた。皆、にやにやしているもん。
「あれ? じゃぁ、あと1人の人狼は?」
「あ、ごめん。私です。よく分からなかったし、適当に話合わせてたの。でも、明奈は選ばなかったよ私は」
理恵、それが一番恐ろしいよ。初心者程恐ろしいものはないとはこの事ですね。
「さてと。それより、僕が意識阻害結界かけていなければ、その姿どう説明するつもりだったんだい?」
すると、突然俺の後ろから知った声が聞こえる。
もう、驚きませんよ。俺はね。
「え?! ミカエルさん、来ていたのか」
谷口先輩は驚いた様な表情をしています。
それで、体育館の他の人達には今の俺の姿を不思議に思っていないのね。
「さて、明奈さん説明をお願いしようかしら?」
「あれ、ミカエル? この鷹西先生にはかけなかったの?」
「ごっめ~ん! 君の近くに居た人達は、意識阻害の結界に入れられないから~てへぺろ」
てへぺろじゃな~い!! ミカエル、グルグル眼鏡かけてるモードじゃんか!
他の人は巻き込みたくないのに、何やってんのこの人は!!
「その、グルグル眼鏡割ってやる!!」
「わぁ!! 待ってってば! 意識阻害の結界がもうすぐ解けそうだから、早く隠れなよ!」
その前に割るんだ。って、走りにくいよこの体。
ダメだ、追いつけないしすぐに息が切れる。
しょうがない、ここは皆に問い詰められる前に退散しよう。
「鷹西先生、後宜しく!」
「えぇ! ちょっと、明奈さん!! 後で説明してよね!」
それは約束出来ませ~ん。
一目散に退散しま……。
「へぶぅ!!」
しまった、ガボガボになった靴じゃ歩くのすら気をつけないと、引っかけて転んじゃう。というか、転びました。
「しょうがないなぁ、明奈」
「あ、待って。望お姉ちゃん、おんぶは恥ずかしいよ」
あれ、後皆も体育館に残ろうとしてる?
「俺達も残って、鷹西先生のフォローするわ、この人じゃ不安だからな」
谷口先輩がそう言うと、明らかに鷹西先生が不機嫌な顔をしていました。
年上の女性に、その言葉はダメですよ谷口先輩。
「分かりました、じゃぁ映画部の部室に居るんで、後で皆で来て下さい!」
そう皆に言うと、皆は了解と言わんばかりに手を振った。
「さぁ、僕達はレッツゴー!」
「お尻触んないで! ミカエル!」
「へぶぅ!! でも、痛くな~い!」
く、くそ。子供の体は色々不便で仕方ないよ。
でも、これで2年生達がまともになってくれたら良いけどね。
後で、様子を聞いておかないと。




