一抹の不安
クイズゲームを開始して数十分後。
クイズゲームの画面には順位が表示されていた。
1位は俺です。
次に、ダルタリオンこと多田先輩。
そして、朋美が続き理恵が最下位です。ここは予想通りだよ。
「ふっ、なるほど。その様にダイスを使うとはね。これは油断したよ」
そう、俺はこっそりダイスを使い多田先輩の台に細工をしたのだ。
そんな卑怯な細工はしていないよ。単にボタンを押した時の反応を変えただけ。
要するに、赤のボタンを押したら青のボタンが反応し、青のボタンを押したら赤が反応するようにしておいた。
他にも用意していて、この効果は当たりではなかったから正直負けるかなと思っていたけど、予想以上に気付くのに時間がかかっていたらしくて助かった。
後は、ジャンルをエンタメ問題ばかりに絞っていたのも功を奏した。
こいつは人間界に興味はないからね、芸能関係や、流行の事なんて知りもしなかった。
「良いだろう、だいたい君の力は分かった。次は、僕の土俵で戦ってもらうよ」
多田先輩はそう言いいながら、席を立つとバイキン悪魔を連れて去っていく。
やれやれ、今日はほんとに力を見に来ただけらしいですね。
すると、バイキン悪魔がダイスを握りしめ放り投げようとしてきた。
あっ、止めて。ショボくても地味に効くんだよそれ。
すると。出入り口に向かっていた多田先輩が、バイキン悪魔の行動に気づく。
「おい、君は僕の顔に泥を塗る気かい? そういう器の小ささが、何時までも出世出来ない原因だよ」
「ひっ……!!」
あまりの恐怖に、バイキン悪魔が硬直している。
さすがに、耳元でそんな怒りに満ちた声をささやかれたら誰でもそうなるよね。
そして、多田先輩はそのままバイキン悪魔を引きずる様にしてゲームセンターを後にした。
「明奈ちゃん。あの先輩、何してたの?」
さすがに一連の動きに不審に思った朋美が、俺に話しかけてきた。
俺も、ちょっと眺めすぎていたかもしれない。
「あ~何でもない何でもない! ちょっと、変わった人じゃないかな? あはは」
「そう……」
あぅ……誤魔化しきれていないかも。朋美は、まだ不審な目で俺を見ています。
「それに、明奈ちゃん。あの不思議なダイス使わなかった? そんなに、勝ちたかったの?」
はうぅぅ……しかも、見られていた。
ヤバい、どうしよう。えっと、なんて言い訳したら。
「あぁ~!! 納得いかない!! 朋美、明奈。もう一回だ、もう一回勝負だ!!」
ずっと頭を抱えてブツブツ言っていたから、どうしたのかと思ったけれど。そんなことで悩んでいたのね。
でも、助かりましたよ理恵。今ので、朋美も一旦諦めたようで理恵の方を向いた。
「しょうが無いな、理恵ちゃんは。でも、私も明奈ちゃんにリベンジしたいしね!」
あらら、朋美と理恵の目が闘志で燃えています。
「分かったよ。いくらでも相手してあげるよ」
そうと決まれば、お金を入れて。用意をして。
そして君達は得意ジャンルを連打しない!! 目がマジだ!!
スポーツと歴史問題のどっちかになっちゃったよ。もぉ~!!
「あ~、それでも負ける私達ってやっぱりバカなの?」
「理恵ちゃん、それを言わないで」
「あのねぇ、2人とも。ジャンルは何も歴史とスポーツだけじゃないからね。それに、1度選んだのはもう選択出来ないんだから考えなよ」
俺の前をトボトボ歩く2人を見ていて、何だか可哀想になってくる。
あれから、確かに2人は得意ジャンルではなかなかの正答率だったよ。
でも、他がボロボロだったから意味なしだったよね。
あのゲームは早押しクイズじゃなくて、全体の正答率での競争なんだからさ。
「仕方ない。なら、次はカラオケで勝負だ!」
いや、ちょっと待って。それは止めようよ楽しく歌おうよ。
俺は、カラオケで点数を競うのがあんまり好きではない。
だってさ、あれ判定微妙じゃない?
「いや、私はあんまりそういうの好きじゃないんだよね。だから、普通に点数無しで歌わない?」
「あ~明奈ちゃんってもしかして、音痴?」
朋美、煽らないでくれますか?
「そんなこと無いけどさ、なんかあの採点微妙じゃない?」
「はっは~ん。逃げるということは、やっぱり」
うるさいな、理恵。そうじゃないよ。
人の話を聞きなさいな。
「いや、だから……そうじゃないって」
「いやいや、明奈ともあろう者がこんなことで怖じ気づくとはね~」
「ちょっと、理恵ちゃん。それは言い過ぎ……」
かなり調子にのっているね理恵。よっぽど自信あるのかな。
良いでしょう。ここはその煽りにのってあげるとしましょう。
「ふふ。理恵はよっぽど自信あるんだね。宜しい、戦争だ」
「ほぉ、泣いて土下座するなら今のうちだからね!」
「理恵ちゃん、今してどうするのよ」
ツッコミ変わってくれてありがとう。朋美。
そして、決戦の舞台となるカラオケへと俺達は向かった。
因みに、カラオケはこのゲームセンターの上にあります。便利な場所です。
そして、1時間後。
そこには、うな垂れる理恵の姿があった。
「バ、バカな……全部、90点以上の高得点。そ、そんな」
「まぁ、言うだけあって理恵もなかなかだよ。でも、相手が悪かったね」
俺は、ふんぞり返るようにして真正目に座っている理恵を眺めている。
なかなか良い気分です。歌にはちょっと自信があったんですよね、ふふ。
「あ、あり得ない。こんなパーフェクトな美少女が……いる、はずが。ガクッ」
あっ、死んだ。
そんなに、ショックだったのかな? 確かに、理恵も全て80点以上だから上手い方だけどね。
「でも、びっくりしたな~明奈ちゃんがそんなに、歌が上手いなんて」
いきなり朋美から褒められるとは思わなかった。
「そ、そんな。誉めても何もでないよ! それよりも、朋美は歌わないの?」
そう、さっきからずっと俺と理恵だけで歌っていた。
なので、朋美にも歌わせようとマイクを渡した。でも、それが間違いだった。
「え~、じゃぁ。1曲だけでいい?」
そう言って、朋美はマイクを握りアニメ曲を歌い始める。
しかし、俺の記憶はそこで途切れる。
覚えているのは、朋美が1番最初の出だしで音を外した事、そして死神が唄っている様なそんな歌声だった。
「明奈ちゃん、明奈ちゃん。起きて、ごめんね!」
「はぅっ?! あ、あれ? 朋美?」
朋美が俺を揺すり起こしてくれる。どうやら、気絶していたようです。
でも、理恵がピクリとも動いてないけど?
「ごめんね、私音痴なんだね。皆で歌うことがなかったから分からなかったよ。いつも1人でアニソンを歌っていたから、恥ずかしくて歌わなかったのに。まさか、2人に迷惑かけるなんて……」
朋美が泣きそうである。ダメだ、こういう子は落ち込ませると立ち直るまで時間がかかるんだよ。
「大丈夫だよ。歌なんていくらでも上手くする事が出来るからさ、だから泣かないで朋美」
「ほんとに?」
「うん、なんなら練習に付き合うから」
「ありがとう、明奈ちゃん!」
そう言いながら朋美が俺に抱きついてくる。
男なら、嬉しいシチュエーションだと思うよ。だって胸がね。
でも、今は俺よりも大きいであろうその胸が少し羨ましく思えてしまう。
「はっ?! あれ? 私、何してたっけ?」
そこでようやく理恵も意識を取り戻した。
「あれぇ、確か。ようやく朋美も歌い出してそれから……?」
理恵が必死に思い出そうとしているが、忘れているならそのまま忘れていて欲しいらしく、朋美は理恵が思い出そうとしているのを必死で止めている。
その後、しばらく俺が歌のお手本を見せる。
理恵が何やら納得いかない顔で見ているけれども、無視無視。
ただの嫉妬ですからね。
そうしているうちに時間になったので、今日はここまでにすることにした。
「やっぱり、明奈ちゃん歌うまいよねぇ。いっぱい教えて貰おう!」
朋美がやる気になってはいるけれど、上達するまでの間は地獄かもしれない。
「はは、もつかなぁ……」
俺は、ボソッと気づかれないようにつぶやく。
すると、部屋を出てすぐに隣の部屋の異変に気づいた。
見たことあるバイキン悪魔達が数人倒れている。
というか、隣にいたんだね。そして、その部屋の入り口には多田先輩が座り込んでいる。
「ふ、ふふ。クイズゲームの敗北による精神攻撃の次は、怪音波攻撃とはやってくれるな。覚えていろよ」
そう言って多田先輩は、意識を失った。
今まで意識を保っていたのも凄いですけど、防音壁も意味をなさず、悪魔すら倒す朋美の歌声の方が怖かった。
そして、余計な反感を勝ってしまった様である。不安です。
あっ、朋美。助けようとしなくて良いから。
俺は、悪魔達をそのままにし2人を連れてカラオケ店を後にした。




