連休7日目 ~ 突然の家庭訪問 ~
「はぁ、どうしよう」
俺は、今自室の机の上でスマホを見ながらため息を付いている。
原因は、昨日の夜にきたSNSのグループチャットへの招待とあるメッセージである。招待は、おそらく鷹西先生がしたのであろう。正体がバレてから、鷹西先生とはID交換をしていたのだ。
そしてそのグループ内には柳田、鷹西、藤本がいた。
内容は以下の通りです。
『よう! 武だ! 元気か晃? 今精神状態どうだ? 急だが明日お前の様子を見に行かせてもらうからな。他にも英二と沙耶も連れて行く。引きこもってばっかじゃ腐っちまうからな! たまには外に出て俺達と遊ばないか?』
『いや、勝手に決めるなよ藤本。俺は、担任もってんだからお前等と違って暇じゃないんだよ』
『え? 明日は暇だって言ってなかった? 英二』
『ぐっ、いや。あ~分かったよ行けば良いんだろう』
『よし、決定だ! 沙耶も元気付けてやりたくてウズウズしてるみたいだしな』
『ちょっと、勝手に決めつけないで。それに、こういうのはゆっくりと時間をかけないといけないのよ? 急にお邪魔しても意味ないでしょう?』
『あれ? 沙耶どうした? 前は晃の事をもっと心配してたろう?』
『えっ? あっ、いや。あまりにも自分勝手過ぎたかな~と思ったから、ちょっと控えてるのよ』
『何言ってんだ、俺達が晃を立ち直らせないと他に誰がやるというんだ? 俺達が自分達の事ばかりで、あいつと距離をあけてしまったからこうなったんだろ? ならば、俺達で何とかしなければ!! 晃がどう言おうと、俺達は明日お前の家に行くからな!』
『あっ、いや……だから武。落ち着いてよ』
『相変わらずの熱血が……』
そこからは、何とか鷹西先生が止めようとしていたが段々と不自然になってきていた。
俺は、そこでそこから退出し鷹西先生に個別にチャットで文句を言っておいた。
鷹西先生は、ひたすら謝っていました。
でも、結局どうすることも出来ずに今日3人がやってくる。
「はぁ……柳田先生は良いとして、問題は藤本先生だよなぁ」
あの熱血っぷりでごり押しされたらさすがに不味い。
鷹西先生に協力してもらい、何とかバレずにするしかない。
あの2人にバレるのだけは避けたい。
あいつらは俺の事を親友と言っていたが、俺の中ではあいつらは親友でも何でも無かった。
そして、今では学校の先生という気持ちが強く出てしまっている。
今さら、晃として接する事は出来そうにないししたくも無かった。
できたら、このまま先生と生徒という関係で終わらせたい。
「とりあえず、格好はコレで良いよね」
俺は、机の椅子から降りると部屋の姿見に自分の姿を映し出す。
そして、くるっと1回転し再び鏡の中の自分を見つめる。とても、可愛らしいワンピースを着た俺を。
「うん、何処からどう見ても女の子。大丈夫。バレない」
そして、今日に限って父さんも母さんも朝から町内のカラオケ大会&ボーリング大会に参加している。
望お姉ちゃんは、友達と映画を見に行った。
つまり、家には俺1人である。
朝、両親に3人が来ることを告げ助けを求めたのだが、あまりにも急だった為に助けを得ることは出来なかった。
徐々に彼等がやってくる時間が近づいてくる。それに伴い、心臓も高鳴る。
大丈夫、大丈夫だ。今、俺は完全に女の子なんだ。
そして、インターホンが鳴り響く。
同時に、俺はビクッと飛び跳ねてしまった。
あぁ、心臓が痛い。早く、今日が終わって欲しい。そう思いながら、俺は下に降り玄関に向かいインターホンに出る。
「は、はい」
「おっ、橋田さんか? 体育教師の藤本だが、今日来ることはお兄さんから聞いてないかな?」
「あっ、聞いてます。どうぞ」
そう言うと、俺は玄関を開ける。
私服姿の3人が家の前に立っており、玄関から出てきた俺に笑顔を向けている。
すると、突然鷹西先生が俺に猛突進をしてくる。
「ちょっと、晃の様子見てくる!! 武のごり押しが逆効果になるといけないから!!」
「えっ、ちょ? ぐはぁっ」
そう言いながら、俺の腹にラリアットの様に左腕を当てると担ぎ上げて、真っ直ぐに階段を上っていった。
何してくれるんですか鷹西先生。危うく朝ごはんが胃から口へ飛び出るところでしたよ。
そして、そのまま俺の部屋に駆け込むと扉を閉め、俺をベッドに座らせると両手を前に合わせて謝ってきた。
「ご、ごめん晃。止められなかった!」
「あ~、そんなに思い詰めなくてもいいですよ、昨日は私も言いすぎましたから。鷹西先生」
すると、鷹西先生が顔を上げ目を丸くしながら俺を見つめている。
「あ、晃。あなた、何だかこの連休の間に雰囲気変わった?」
「そう、ですか?」
俺は、首を傾げて答える。
自分ではそこまで変わった様には思えない。女の体に完全に慣れたかなってだけかな。
「うん、完全に女の子よ。その服装も、後座り方も」
鷹西先生が、じろじろと俺の全身を眺めている。
女になった直後の俺なら、こんなに眺められていたら赤面していました。
でも、今は何故か平気ですね。
「うん、それなら明奈が晃だってバレる事は無いわね。でも、聞いて良いかしら? 何であの2人にはバレたくないの?」
「……なんだろう。あの2人は晃の事を親友だって言ってたけど、昔から晃は親友だとは思っていなかった。そして、今も先生と生徒。その関係のままでいたいと思っている。あの2人には、そこまでの事をさらけ出しても良いって思えないみたい」
「そ、そう……」
鷹西先生は、誰が見ても分かるくらいに肩を落としうなだれていた。
「でも、私はよかったの?」
「鷹西先生にもバラすつもりは無かったよ。でも、先生は鋭過ぎたのと自業自得があったからね」
俺は、にこやかにそう返した。鷹西先生をあまり思い詰めないようにするためにね。
「分かったわ。とにかく、今はあの2人よね。何とか理由を付けて今日は帰って貰いましょう。でも、ずっと家に引きこもっているという設定は長続きしないわよ。特に武にはね」
「うん。何か、もう絶対に会えないって理由を付けないと」
とにかく、玄関で何時までも渡せるわけにはいかないので下に降りていく。
「おっ、晃はどうだった?」
玄関の靴置き場から、武が声をかけてくる。
それに鷹西先生が反応すると、両手でバツ印を作り首を横に振る。
「はぁ……情けない奴だな」
悪かったね情けなくて。
そうだよ、あなた達から見たら晃は情けないだろうね。
上から目線だったのも、結局弱い自分を隠すための虚勢だったのだからね。
女になりきり、客観的に過去の自分を見つめ直してみると、何と情けない事だろうとそう感じてしまったよ。
でも、今もこうやってこの2人から正体を必死に隠してコソコソしてるのも、ある意味情けないのかな?
「はぁ……沙耶。お前もっと、愛の言葉を叫べ!! あいつを立ち直らせろよ!!」
「ちょっと、武!! さすがに、そんな事私ができるわけないでしょ?」
鷹西先生、顔真っ赤です。
隠してるつもりなのだろうけど、バレバレですよ。
「しょうがない!! こうなったら、俺が秘策を使って引きずり出してやる!!」
いったい何をする気ですか?!
そして藤本先生は、ズカズカと家の中に入っていくと階段に向かう。
「待って、ダメ!! お兄ちゃんは、今ほんとに重症なんだから。お医者さんからも、ゆっくり時間かけていかないといけないって言われてるんだよ!」
俺は、必死に言い訳を絞り出して藤本先生の肩を掴み止めようとする。
あぁ、でも悲しいかな。力が敵わなかった。俺はただズルズルと引きずられている。
「橋田。いや、明奈ちゃん。何でそんなにも必死に止めるんだい? それは、まるで部屋に行って欲しくない様な行動だぞ」
あっ、やばい。柳田先生も女に対しては勘が鋭いんだ。腕組みして、俺を睨んでいる。
「えっ、え~と……それは」
「ちょっと橋田さん。すごい力何だけど離してくれるかな?」
しまった。いつの間にか、羽根を出して超パワーで止めてました。
俺は慌てて羽根を消した。けど、この3人も俺の羽根の事は知っている。でも、力の事に関しては知らないから、それだけ必死に止めたかったんだと思わせておいた。
「しょうがない、そんなに兄思いなんだな。晃は」
「うん。……っえ?」
何やってんの俺? 同じ手に何度引っかかれば気が済むのかな。
とりあえず、まだ大丈夫のはず!
「えぅ、あ。違う違う。間違えた! 似てるんだもん! 晃お兄ちゃんと明奈って!!」
「そうか。まぁ、そう言うことにしておくか。俺だって英二じゃないにしろ、そんなことあり得ないと思ってるさ。だけど、沙耶と君を見ているとどうもね……」
「へっ? 私?!」
鷹西先生、驚きすぎ。この人基本的に嘘がつけない体質なんだな。
「まぁ、今日の所は帰るとするか。晃も会ってくれないようだしね。日を改めるよ。沙耶、英二行こうか」
「明奈ちゃん。宿題ちゃんとやってこいよ。あいつと違うんならな」
柳田先生も藤本先生も、意味深な言葉を残していく。
そして、2人が去ろうと後ろを向いた瞬間、鷹西先生がまた両手を合わせて謝ってきた。
多分、もう修復不可能かもしれないよ。
とりあえず、宿題はちゃんと出すとしよう。実は、晃の時は出してはいたけど、結構悲惨だっからね。そう、俺は勉強が苦手でした。
でも、そうも言ってられない状況だね。多少は出来るようにならなければ。
とにかく、色々あったゴールデンウィーク。明日からまた学校だ。




