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ラスト・エンジェル  作者: yukke
第4章 ゴールデンウィーク
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連休6日目 ~ ご令嬢は強かった ~

 雀さん、窓を突かないで下さい。餌はないですよ。


 朝の日差しの中、雀が鳴きながらこんこんとうるさく窓を突いている。

さながら天然の目覚まし時計です。


「明奈~望~何時まで寝てるの~もう、9時時よ~」


 下から母さんが叫んでいる。

もう、そんな時間ですか。結局、昨日も望お姉ちゃんがなかなか寝かしてくれなかった。

何されいてたかは言いたくないです。

私と望お姉ちゃんが裸である時点で気付くと思いますが。


「む~、今起きますよ。全く、望お姉ちゃんは幸せそうな顔して寝ちゃって……このっ」


 ほっぺ引っ張っても起きないです、この人。放っときましょう。

俺は、モゾモゾと起き出し羽根を消すと、白で揃えた子供用のショーツとブラを付け、花柄のTシャツにヒラヒラのフリルが付いたスカートをはくと、1階へと降りていく。

この体でのお着換えも慣れたものですよ。


「おはよう。あら? 望は?」


「おふぁよう。お姉ちゃんは、まだ寝ています」


 返事と同時にあくびが出てしまいました。

それでも、発言出来るなんて人間って起用だね。


「しょうが無いわね、後で起こしておくわ。あなた達の朝ごはんを用意するまで、少し眠気覚ましに散歩でもしてきなさい」


「ふぁ~い」


 また、あくびが出てしまった。そんなに眠いというわけでは無いんだけども、望お姉ちゃんのせいで少しくたくたです。


 俺は、コテージを出ると木漏れ日の中から照りつける日差しに目をしばたかせる。

でも、気持ち良い風が頬を撫でると気持ちが良く、大きく深呼吸をした。


「うん、森林浴は癒やされるな~」


 俺は、林の中を歩き出す。

小鳥のさえずりに、風に揺れる葉っぱの音。

日差しも丁度いい位置にいると、眩しく無くてポカポカと暖かい。

近くにある湖からは、水鳥達の鳴き声も聞こえてくる。


「ブゴブゴ」


 そうそう、足取りの重そうなブタの鳴き声も……ん?


「ほら、しっかり歩きなさい!!」


「ブゴブゴ、ブゴブゴ」


 湖の周りを、四つんばいでコルセット姿の宝条さんを乗せて歩くブタお兄さんに、宝条さんが鞭でお尻をしばいて……


 朝から嫌な物を見てしまいましたよ。コテージに戻りましょう。




 コテージに戻ると、望お姉ちゃんが起きていた。今日の望お姉ちゃんは、ショートパンツに、半袖の薄い水色のブラウス。後、ちょっとだけ髪を後ろで束ねてます。

そして、帰ってきた俺の元にダイブしてきましたが華麗に回避します。

思い切り閉めたドアに激突しております。


「そうそう、今日の昼過ぎにはここを出るわよ?」


「は~い」


 望とハモった……最近、望と息もよく合うようになってきたかな。体の相……だぁ! ストップストップ!

俺は、ぶんぶんと首を横に振って今の思考をかき消した。


「あれ? 守お兄ちゃん、ほんとにこのままにしとくの?」


 すると、望お姉ちゃんが突然にブタお兄さんの事を言ってきた。

完全に譲り渡した感じだったから、このままあげるのかと思ったよ。

だけど、法律上色々不味いでしょうね。

いくら財閥のご令嬢とは言え、法律をねじ曲げるのは無理でしょう。


「しょうがない、帰る前に少し様子を見てくるか」


 父さんが重い口調でそう言ってくる。

俺は、正直あまり行きたく無いのですが。朝にとんでもない光景を目にしたからね。

とりあえず、その事を父さんと母さんにも言っておこう。



「なるほど。そうなると、父さんは余計に行きたくなくなったかな」


「母さんも同じくよ」


「……」


「……」


 そして、俺と望はゆっくりと顔を合わせた。






「明奈~分かった~?」


 下から、望お姉ちゃんが声をかけてくる。

俺は今、他の人に見付からないように様に上空を旋回中です。飛ぶのも上達しましたよ。

とにかく、ブタお兄さんが何処に連れて行かれたか分からないんです。

だから、こうやって上から探っています。それにしても、相変わらずこの場所は広い。

湖がそもそも大きく、その周りを囲うように生えてる林が広大な面積になっている。

なので、コテージの数など50近くはあったのだ。


 その中から、大きめの別荘に使われそうなコテージを見つけるのも、また大変である。

それだけでも、2~30は存在しているからね。


「明奈~湖の向こう側は~?」


「今見るから~!」


 全く、大声出したら見つかるよ。

湖の上には、カップルが仲良くボートで愛を深めていますからね。

でも、その中に何か異様な物が……


 必死こいて丸い何かが、上に乗っている方を運んでいる?

あぁ、今にも沈みそう……な所を乗ってる人が鞭のような物で頭をしばいている。

あの醜さは間違いない。

俺は直ぐさま望の元に降り立つと、今見た風景を伝えた。


「うん、それで間違いないね。湖にいるなら直ぐに見つかるよね、行こ!」


 俺と望は、先程ブタお兄さんを発見した場所へと急ぐ。

すると、俺達のいる丁度反対側の対岸で何かが必死に上がっている姿が見えた。

間違いなく、ブタお兄さんだ。

何だか、肩で息しているのに上に乗ってる宝条さんは早く歩けと言わんばかりにお尻を引っぱたいている。

せめて、休ませてあげてよ。


 俺達がたどり着く前に、ブタお兄さんが宝条さんを乗せて四つんばいで再び歩きだす。


「もう、父さんも母さんも面倒くさい事押し付けて~」


「しょうが無いよ。父さんは、相手が相手だし頭上がらないだろうから強くは言えないし、母さんはその場のノリにのっちゃいそうで役に立たないのは目に見えてるよ。だったら、歳の近そうな私達で説得するしかないよね」


 走りながら文句を垂れる望をなだめながら、ブタお兄さん達を追いかける。

すると、割と大きめのコテージにたどり着いた。

俺達のコテージよりも、2~3個部屋が多そうな位かな。

別荘ならば、この程度で十分なのでしょう。


 そして、ブタお兄さんを外に繋ぐとそのまま宝条さんはコテージの中へと入っていった。


「うわっ! 外に出しっぱなし?!」


 俺は、あまりの事に声を上げてしまった。

しかも、良く見ると犬小屋ならぬ豚小屋まで。


「あ~これは、さすがに……ちょっと」


 珍しく望が、引いている。俺もドン引きですよ。

これは、かなりのレベルの高さだからね。さすがのブタお兄さんもこれは耐えられないよ。


「望お姉ちゃん、これはもう交渉の余地は無いから、とっとと救出して連れて帰ろう」


「ん~しょうが無いね。ここまでとは思わなかったよ」


 俺達は、隠れていた木の陰から出るとゆっくりと足音を立てない様に、ブタお兄さんに近づいていく。

因みに、ブタお兄さんは俯きながら嗚咽し泣いていた。

さすがにこれはちょっと、うん……


 そして、近くまで来るとブタお兄さんが気づき、喜びの周りに飛びつくこうとしてきた。


「ブゴブゴ!!」


 ボールギャグは付いたままか。でも外したらうるさそうだしね、そのままで……って、俺に抱きつこうとしないで!!


「ちょっ、鼻水と涎汚い!! 離れてブタ!!」


「ブゴォ!!」


 あっ、つい蹴ってしまった。ヤバい。


「何ですの? 騒がしいですわよ」


 俺達は、慌てて木の陰に隠れようとしたのだが。


「きゃぅっ?!」


「明奈!」


 しまった、体が縮んでいるから咄嗟の行動に体がついていけずに、足がもつれて転んでしまった。万事休す。


「あらっ? あなた達は、元飼い主様では? どうされたのでしょうか?」


 とりあえず、俺は咄嗟に羽根を消し起き上がった。

そして、望も覚悟を決めて俺の近くに戻ると宝条さんを睨み、話しかける。


「あの、守お兄ちゃんを迎えに来ました。さすがに、こんな仕打ちをされているとは思っていなかったので、昨日の事は無かった事にしてもらえませんか?」


 とりあえず、俺も望に合わせて宝条さんを睨みつける。

やっぱり、どんだけキモくても家族ですからね。こんな扱いされたら怒りますよ。


「まぁ、一度決めた事をを取り消せと? ですが、マルちゃんは望んでここに留まっているのですよ? ねぇ? マル、ちゃん。」


 その蔑んだ目で睨み付けられたら、誰でも頷くしかないでしょ。

やっぱ、この人一筋縄ではいかな……


「それに、昨日の夜と今日の朝のご飯。そして今丁度お昼なのですが、そのご飯代も、昨日の事を白紙にすると言われるのでしたら払って貰いませんと」


 そう言うと、宝条さんの手に『マルちゃん』と書かれた餌の容器をブタお兄さんの前に、持ってきた。

すると、そこには高級そうなお肉が大量に積まれていた。


「えっ……ちょっと待って、ブタお兄さん……まさかそれ」


 しかし、制止もむなしくブタお兄さんは目の前のお肉をたいらげてしまった。


「お察しの通りですわ。最高等級A5の黒毛和牛ですわ。これが、この子の餌ですわ」


「何してんの、ブタお兄さん~!!!」


 詰んだ。これは、完全に詰んだ。

そんなの払えないよ。さすがに望お姉ちゃんも分かっているらしく、呆然としている。


「うふふ、マルちゃんも私に飼われたいわよね~?」


 ブタお兄さんが縦に首を振っている。このタイミングで何という飴と鞭の飴ですか。


「望お姉ちゃん。これは、完全に負けたよ」


「そ、そうね」


 俺達は、呆然としながらその場を去ろうとした、その時。


「それにしても、あなた達も可愛いですわね。私のペットに……いえ。先程の目つき、あなた達も女王気質が有りそうね。いかが? 私と共に女王道を極めませんか?」


「そんな、道極めたくありませ~ん!!」


 俺達は、揃って声を張り上げ一斉に走り出す。


「あらあら、そんなに怖がらずに。お待ちになって下さい」


 一度狙った獲物逃がさない性格なのか、どこからともなく手に2本のロープを持ち、俺達に狙いを定めている。

不味い、このままではゾンビ取りがゾンビになる。


「お姉ちゃん、捕まって!!」


 俺はそう叫ぶと、黒い羽根を出しお姉ちゃんの手を掴んで空へと舞い上がる。


「えっ?! 何ですか? 今のは?!」


 ロープを投げ損ねた宝条さんが、目を丸くして驚いている。


「ちょっと、明奈。羽根!! 後、その体だと力出ないんでしょ? 大丈夫?」


「だい……じょうぶだから。このまま安全な所まで逃げるよ」


 とにかく、俺は必死で羽ばたきながら飛んだ。

見られるかもとか関係無かった。とにかく、あの人から逃げないと。


「まぁ、素敵ですわ」


 不吉な、言葉が聞こえた気がしたけど気にしない。

とにかく、ミッションは失敗。一度帰還しないと。

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