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ラスト・エンジェル  作者: yukke
第4章 ゴールデンウィーク
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連休1日目 ~ 異性を好きになるとは? ~ 

 その日の夜。いつもの食卓の中、俺だけは神妙な顔つきになっていた。

隣では、望が『スター・エンジェルズ』の限定グッズを手に入れた事によりほくほく顔をしている。

俺が買って来てやったからか、いつも以上にべったりとひっついている。


「明奈どうしたの? 何かさっきから難しい顔しているけど」


 さすがに近いとバレるか。まぁ、さっきから焼き魚さんとにらめっこしているからね、たまにツンツンしてはまたにらめっこ。はっきり言って食ってないからな。それも仕方が無いことなんだよ。

コンサートの帰りに、ミカエルからとんでもない事を言われたからだ。


「なぁ、望っていつから俺を意識してた?」


「ふぇっ?! な、何いきなり?」


 俺が、晃口調で言ったもんだから望はビックリして俺から離れた。でも、今はそんな気分なんだよ。

心は男。

でも、ミカエルのお膳立てでそれすら変えられてしまうかもしれない。最後の意地だよな、これは。


「明奈、いったいどうしたの? 口調戻したりして」


 さすがに、母さんも心配してくる。でも、今日あった事を言って良いのかどうかも分からなかった。

しかし、言った方が良いよなこれは。これだけ悩んでも1人では答えが出そうには無い。

俺はどうしたら良いのか。男を好きになれば、心も女になり違和感も無くなり、苦労する事も無くなるのだろう。

でも、男のプライドがそれを許さなかった。

とりあえず家族に心配はかけたくはない、悩みを打ち明けるとしよう。

以前の俺は、家族に相談などしなかった。これだけでも一歩前進だと思いたい。


「へえ~、『スター・エンジェルズ』のミカエルって、明奈が言ってたミカエル本人だったんだ~どうりでね~」


 望が、驚いていたと同時に妙に納得していた。確かに、『スター・エンジェルズ』のミカエルはもの凄い言動で世間に多大な影響を及ぼしていた。それこそ人間業では無かった為に、望が本物の天使だと知った時の納得ぶりはうなずける。


「それで、その人から。自ら完全な女の子になるためのお膳立てをしてあげると、そう言われたのね」


 母さんがその後に続いた。母さんはいつも、どんな話しでも顔色1つ変えずに冷静に対処してくれる。その対応が非常に助かる時が多かった。

因みに、父さんはずっとテレビを眺めている。しかし、ちゃんと聞いてはいるようで真剣な表情を……じゃなかった。株価のニュースを真剣に聞いていただけだった。


「ブヒヒ。僕としては、明奈ちゃんには完璧な女の子になって欲しいな~」


 黙れ、ブタ。元の太り具合に戻ったとしてもキモいだけだ。そして、ポテトチップスをバリバリ食っている。『焼き魚味』のポテトチップスを……って目の前に焼き魚あるのになにやってんの?


「守はちょっと黙っていなさい」


 母さん、こいつには晩ご飯を与えなくてもいいと思います。


「で、明奈はどうしたいの?」


 母さんにそう言われて、俺は俯き再度悩み始める。そして、頭が痛くなってくる。


「明奈、無理しなくてもいいよ。すぐに変わるものでも無いんだから、明奈は明奈のままで良いと思うよ?」


「ありがとう。望」


 俺は横にいる望に微笑む。何だろう、俺がこんな体になってから家族が優しいような。元からこうだったっけ。


「でね、明奈の最初の質問だけどね。アキにいを意識していたのは小学生の時からだよ。気づかなかった?」


 そんな前からとは気づかなかったな。


「きっかけは……多分、アキにいがいじめっ子達を成敗してからかな」


 そういえば、そんなこともあったな。

実は、望は小学生の頃はいじめられていたのだ。容姿が綺麗だったからなのか、性格がおとなしかったからなのかは分からないが、特に女子からの妬みが凄かった。

毎日毎日、泣いて帰ってくる妹を見て我慢出来なくなり、俺はそのいじめの現場を抑えて先生達や、いじめっこの両親達に報告しまくったのだ。

おかげで、ピタリといじめは止んだ。というより、この子には恐ろしい兄が居るというのが広まったからだろう。

それからかな。望がちょっとずつ変わっていき、今の明るさになったのは。


「そう言うこともあったね~今思えばやり過ぎだよね」


 俺は、苦笑いして答えた。すると、望が首を横に振る。


「ううん、あれくらいしないと止まらなかったよ。それから、私もこんな性格じゃアキにいに迷惑かけると思って頑張ったんだ。そして、私を変えてくれたアキにいを、特別な目で見るようになったんだ」


 顔を赤くして答える望が、何だか愛おしく見えてきた。

当然、家族としてだよ。


「だからさ、人を好きになるって理屈じゃないんだよね。もう兄妹とか関係なく、好きになっちゃう時はなっちゃうんだからね。そんなに意識しなくても、無理やり変えようとしなくても良いじゃん。それに、アキにいは十分変わったよ」


「そっか、ありがとう。望」


 こんなにも素直に教えてくれるとは思わなかったよ。母さんが、にこやか俺達を見ている。まるで、仲の良い姉妹を眺めるかの様に。


「母さんが言いたい事、全部言われちゃったわね。あなたはいつからそんな恋愛マスターになったのかしら?」


「ち、違うよ~アキにいしか好きになったこと無いのに~」


 望は、更に顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「明奈。母さんもね、父さんを好きになったのは理屈じゃないわ。そうね、私はこの人のいさ……この人の物になるんだって直感的に思ったわね」


 今、何か言おうとしたよね? なんだか、理屈満載の言葉が聞こえそうになったけど。


「そうか、母さんは俺の遺産が目当てだったのか……」


 あっ、父さん聞いてましたよ。これヤバいんじゃ……

父さんの生まれた家は地主だったらしく、結構土地を持っているのだ。


「あらら、違うわよ。私はあなたのち……じゃない。あなたの心に惹かれたから、猛アタックしたのよ~」


 母さんまた何か聞こえた気が……

意外と母さんはめざといのか?


「ふっ、構わないさ。今の男の魅力なんか、金と地位だけだからな。それがあり初めて、若き日の母さんの様な美人を嫁にする事ができるのさ。これが無ければ母さんとは出会っていないのだから、金と地位目当てでも、俺は一向に構わん」


「あ、あなた……素敵!!」


 いい歳して抱きついているよこの人。

というか、父さん太っ腹……じゃなくて、似た者同士かこの2人。

なるほどね、結ばれるべくして結ばれたのか。


「ちょっと、父さんと母さんは特殊だから参考にはならないかもね~」


 それでも、俺は肩の荷が下りた気がした。何が起こっても俺は俺のままで、俺の気持ちに素直になればいい。


 さて、ご飯を片付けるか……って、しまった。焼き魚さんと目が合っちゃったよ。食おうとして目が合うとね、食えなくなるんだよね。

そうやって俺がじっと固まっていると、その様子を見た望がまた心配してきた。


「ど、どうしたの? 明奈?」


「目が合っちゃったぁ~」


「もう~何言ってるの? 死んでるんだからさっさと食べなって~」


「うぅ、でもでもお魚さん可哀想~食べられる為だけに生まれるなんて、何の為の人生、いや魚生(ぎょせい)なの~」


「ぎょせいって何よ~もう、いきなり女の子ぶらないで~」


 すいません、望さん。だからほっぺをつねらないで~ちゃんと食べますから~

後、ブタはにやにやするな~そのポテチ何袋目? 『焼きホタテ味』ってそのポテチ、どんだけ種類が豊富なんだよ。





 そして、食事も終わり俺は風呂に入り体を洗っている。

体や羽根を洗うのも慣れてきた。自分の裸にもね。さすがにあれから2ヶ月近くもたつんだ、慣れないとおかしい。


「それにしても、相変わらず明奈の体は色白で綺麗だよね~ちょっと嫉妬しちゃうな~」


 望が湯船から俺の体をまじまじと見てくる。というか、何普通に入ってきているんだい?

まぁ、これで何回目かも分からないし断るのも疲れましたよ。


「そう言えば、ご飯の時の反応からして明奈にはまだ好きな人が居ないんだよね?」


「うん、そうだね。そう言うのはよく分からないからさ」


 俺は、髪を洗いながら返事をした。

あ、泡が目に入る。ヤバいヤバい。


「そっか。でもさ、私の気持ちに応えようとしなくても良いからね~明奈は明奈で好きな人を作ったら良いからね」


「う~ん、今はそんな気はないけどね~」


  男を好きにとか考えられないからね。じゃぁ、女の子が好きなのかと言われると、なんだかおかしな感覚に襲われてくる。

好きになれるのかと言われたら、違う。なんだか違う気がしてくる。

同性として意識している俺がいる。

これは、ミカエルが何かしやがったか? いや、そんな気配はなかった。

あ~どうなっているんだ。俺の心は何処に向かおうしているんだ。


「だ~か~ら~考え込まない!!」


 そう言って望が羽根を鷲づかみにしてきた。


「ふみゃあ!!」


 なんか、猫みたいな声が声が出てしまった。油断していたから余計に感じ……てないからな!!


「ちょっ、いきなり何するの~?!」


 すると、望が悪だくみをしようする子供の様な笑みを浮かべている。


「明奈の心がこってそうだからね、ちょっとほぐしてあげようかと思って~」


 そう言って、ゆっくりと羽根をしご……いや、違うよ。望さん、それは表現が危ないから止めてくれ~


「はっ、ひゃぁ。やめ……だめぇぇぇえ」


 ほんとに色んな意味でダメだ~!!


「そ~れ、イ……」


 ワ~!! ワ~!! その言葉はダメだ~止めろ望み~!!


「あはは、明奈可愛い~」


「わかった、ひぅっ。分かったから……んぅっ。もう、考えこまな……ひゃっ、いから。止めて……っあん」


 何だか、望の腕がレベルアップしているような。

いや違う、吉川さんにやられてから更に感じる様になっているんだ。この羽根が敏感過ぎるのがネックなんだよ。これさえ無ければこんな痴態晒さないのに……

あぁ、また遠くで犬の遠吠えが聞こえる。


 このままでは、女の子になる前に変態になってしまいます。だから、助けて下さい。

入り口で写真なんか撮らずに助けて下さいよ、お母様。

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