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ラスト・エンジェル  作者: yukke
第3章 暴かれる正体
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映画部にて

「さ~て、じゃぁ皆揃ったし。始めるわよ~」


 そう言って吉川さんが、皆に向かって話かける。

あの後、男女含めて4人やって来た。幽霊部員も居るらしいので実質これで全員と言うことらしい。

8人程で細々とやっていたわけか。というか、ほぼ全員3年だぞ。2年は山本さんだけだ。これ、3年生引退したらどうなるの。

でもそれは、今考えてもしょうがないな。

そして、皆それぞれ自己紹介を行った。

とにかく、1年の入部は俺達2人だけらしいのでやたら注目されましたよ。


「ね~ね~橋田さん。羽根自在に出せるのってすごくない? ちょっと見せてくれる?」


「えっと、良いですけど。あんまり触らないで下さいね」


 そう言って俺は羽根を出す。頼むから触らないでくれよ。と思ったが無駄だったよ。吉川さんがさっそうと俺の後ろに周りこみ、羽根を掴んでくる。ここにもう1人忍者がいた。


「ふにぁあああ?!」


「おほぉ、手触り最高。何これぇ。あと悶えてる姿可愛い~」


 止めろ止めろ!! あなたはやると思ったんだよ。

誰か助けてれ! 鼻血出してフリーズするんじゃなくて助けてくれ~


「ちょっ、吉川先輩だめ。私の羽根は皆と違って感覚が敏感なので。ひぁっ、そんな触ったらダメですっ、あぅ」


 だけど、吉川先輩は全然止めてくれない。そして、この人触り方がテクニシャン過ぎる。今まで触られた中では、1番きもちい……ヤバい! 何考えてるんだ俺は。何とか、逃げねば。


「やぁっ、助けてぇ。朋美~」


 隣の西澤さんに助けを求めてみたが、ダメだ! オロオロしていているだけだ。

なら神森さんは……って、頬を紅潮させて目を見開いてじっと見ているだけだ。何故だ、この人なら真っ先に止めてくれると思ったのに。

山本さんも、俯いてるし。性格上助けられる程の器量は無いみたいだし。

詰んだよ。他の男子とか鼻血の出し過ぎでピクピクしていて話にならないし。耐えなきゃいけないのですか? いやこれは無理だ。無理ですよ。




 10分後、ようやく神森さんが正気に戻り吉川さんの額に強烈なデコピンを放ち、俺は解放された。

でも、少し遅すぎです。俺はあまりの恥ずかしさに、肩で息をしながら机に突っ伏している。やっちゃいました。もう、お嫁にいけない。


「ご、ごめんなさい橋田さん。あまりにも可愛くて魅力的過ぎて、私までフリーズしちゃった」


 神森さんが隣に来て、必死で謝っている。

いや、あなたは悪くないです。悪いのは、そこで額をさすりながらも満足そうな笑みを浮かべる、吉川さんです。

もう、許さない。


「ふ、ふふふ。ゆ、許ひゃにゃい」


 あ、ダメだ。ろれつが回らない。やられすぎたようだ。

だけど、こういのはすぐにやり返さないと気が済まないよ。

そして、指を鳴らしてダイスを出現させる。


「さ~て、どんなのがいいかな~?」


「えっ、ちょっと。あ、明奈ちゃん大丈夫なの?」


 今、ここでこの力を詳しく知っているのは西澤さんだけだ。なので、他の人達は俺が突然出したこの透明のダイスに驚いて凝視している。


「え? 橋田さんそれは何?」


「見てのお楽しみ」


 よし、面を埋め終わった。そして、俺は吉川さんを睨む。

吉川さんは、まだほくほく顔をしている。その顔が、後悔の顔に変わることを願うよ。

そして、机に向かってダイスを振る。


 カラカラカラ


『吉川先輩、亀甲縛りになりどこからともなく現れる犬達に、体中ペロペロされまくる』


「ひえっ?! な、何これ!!」


 面が出た瞬間、吉川さんが亀甲縛りになり吊るされる。

そして、教室の入り口から大量の犬達が乱入してくる。

そして、舌を出し息を荒くして吉川さんを見上げている。


「えっ、えっ。ち、ちょっと待って。ごめんごめんなさい明奈ちゃん。許してぇ」


 吉川さんが、青ざめて涙目だぞ。どうしたんだろう?


「橋田さん、 素晴らしいわ。何てタイミングで素晴らしい物を出してくるの。昨日、グラウンドで見せたのもこれを使っていたのね。実は亜希子はね、犬が苦手なのよ。遠慮なくやっちゃって良いわ」


 そう言うことか。ならお言葉に甘えて遠慮はしない!!


有罪(ギルティ)


 俺が、そう言うと一斉に犬達が吉川さんに飛びかかる。


「きゃぁぁあああ!! あは、あははは。舐めないで止めて止めて~!!」


 吉川さん良かったね。わんちゃん達に懐かれて。

神森さんも満足そうな顔をしている。






 そして、10分後。

「さて、部長は再起不能になっていますので、ここからは私が変わって進行するわね」


 神森さんが、皆を見渡して言ってくる。吉川さんは、亀甲縛りのまま後ろでピクピクして動きません。そして、男子も鼻血の出し過ぎで気を失ってます。すると。


「ごめんなさい。会議が長引いちゃって~」


 そう言って、鷹西先生が入ってきた。

あれ、何で鷹西さんがここに。


「あ、鷹西先生。大丈夫です。色々あって今始まったところです。あ、1年生の2人には言っておきますね。私達の顧問は昨年度に定年退職されましたので、代わりにこの鷹西先生が映画部の顧問になったのです。そして、色々と忙しかったらしくて今日が初めての顔合わせになりますね。でも、確かに1年の数学を担当しているので2人は知ってますよね?」


 そう言って、神森さんが事情を説明し俺達に確認をとってきたので、2人揃って頷いた。もう、ぴったりタイミング一緒だっからビックリしたよ。

とにかくそうと分かっていれば、映画部に入るのは断っていただろうな。

あ、鷹西さんがこっち見て微笑んでるよ。


「えっと、皆さん今年からこの学校に赴任し、映画部の顧問をさせてもらいます鷹西と言います。映画を作る事に関しては、全く分からないので頑張って勉強しますね」


 そう言って、鷹西さんはペコリとお辞儀をした。


「大丈夫ですよ先生。ほとんど映画見てるだけですから。学園祭の時に、ちょっとした物を作ってるだけですよ」


 神森さんがそうフォローしてきた。


「ありがとう、神森さん。えっとあなたが部長?」


 鷹西さんは、何やら手帳の様な物をとりだした。どうやら、始めてみる人の名前を把握したいらしい。

神森さんが先生の横に行き、丁寧に皆の紹介をしていく。


「ほんとに、ありがとう」


「いえいえ、先生も覚える事が一杯で大変でしょうから。後、私は副部長です。部長はあそこで死んでいる子です」


 そう言って神森さんは、何とも危ない縛られ方をしぐったりしている吉川さんを指さした。


「えぇっ!! ちょっと、大丈夫? 何でこんな事に?」


「橋田さんにとんでもない事をしたので、お仕置きされたのです。先生も気をつけて下さい、根はおっさんなので」


 そうそう、まさかこんな人が部長だなんて。よっぽどやりたい人がいなかったのだろう。

ただ、気になったのはこんな賑やかな中でも山本さんは一度も笑っていなかった。

この人は何故こんな部にいるのだろう。そう考えるも、結局西澤さんと同じように吉川さんにごり押しされて断れなかったのだろう。

 

「あと、男子が1人を除き全員気を失ってるけど? 机も真っ赤だし」


 鷹西さんが、今更ながらな事を言ってきた。というか、必死過ぎて気づいていなかったのだろう。


「失血死です。安静にしていれば蘇るので」


 俺が、すかさず答えた。男子の事はふれないでほしいのだ。何故、男子がそんな状態かを説明するには、俺がやられたことを説明しなければならないからだ。

それこそ、もう自尊心なんか保てないんだよ。

2度目の人生と2度目の高校生。思っていたのと違っている。体と心が持つかな。

俺は、そんな不安を胸に抱きながら窓の向こうの夕焼けの空を眺めた。

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