悪魔登場?
ポカポカ陽気の良い天気の朝、お昼寝するには絶好だなと思う今日。
結局昨日はまたしても羽根を消し忘れてしまい、望の悶絶地獄を受けて起きたものだから顔が熱いです。
俺は電車の中で鞄から手鏡を出し、顔が赤くなってないか確認する。
「大丈夫だよ、赤くなってないから~」
「む~」
俺は不機嫌な顔で望を睨む。いったい誰のせいでしょうね。
「もう、うっかり羽根を消し忘れてた明奈も明奈だからね~」
「言い訳していいわけ?」
「冗談言うくらいなら、謝るんじゃなかったよ~この!」
反撃するかの如く、望が俺のほっぺをつねってきた。
「いふぁい、いふぁい。やめれ~」
と言うか、なんで皆ほっぺつねってくるんだ。
すると、俺の視界の端に変なのが見えた。
「んっ?」
「どうしたの? 明奈?」
望の声は聞き流し、俺はその場所を再度確認すると。
そこには、何だか奇っ怪な者がいる。
普通に高校生くらいの男子が席に座ってるんだが、前にはフラフラと危なっかしいおばあさんが立っている。
普通の人なら、基本席譲るよね。譲らない人は、人のレールを踏み外すした人達くらいでしょう。
その男子高校生は気弱そうだが、普通の高校生っぽい。
何だか、悩んでるのか凄く複雑な顔をしている。
問題はその横だ。
何か座ってる。何かとしか言いようがない。
だって、黒い全身タイツに頭には悪魔の触覚みたいなものが。
見た目完全にバイキンです。
「譲らんでええわい、お前は楽したいやろうが。ほら、楽したいやろ、だったら譲らんでええわい」
耳を澄ませば、ほら悪魔の囁きが聞こえてくる。
と言うか、悪魔しょぼ。そして、何故関西弁だ。全身タイツだからかな。安直過ぎる。
「ねぇ、明奈! 何見てんの?」
「あっ。ご、ごめん何でもないよ」
「ほんとに~?」
多少望が怪しんできたが、とりあえず何とか誤魔化す。
さて、アレをどうしよう。こうしよう。
俺は、こっそり指を鳴らしダイスを取り出す。すると。
「ちょっと、何ダイス出してんの?!」
望さん、鋭すぎです。いや、さすがにバレるか。
しょうがない問い詰められる前に、白状しますか。
「悪魔~~?!」
「しっ、静かにして」
俺は人差し指を口元に立て、望に静かにするように言った。ちょっと声大きかった。
「ど、どこにいるの?」
望がきょろきょろと辺りを見渡す。
「ちょっと、怪しまれるから。あそこ。でも見えないよね?」
そう言うと、俺は先程の男子の隣に向かい指を指す。
「う、うん。見えない。ほんとにいるの? あそこに座ってる子凄い悩んでそうだけどね」
「悪魔の囁きを受けてるみたいだし」
「それで、ダイスで何とかしようって事ね」
望は、納得したかのように俺の方に顔を向ける。
さて、じゃぁとっとと面を埋めますか。
しかし、ハズレも付けないと何だよな。
『おばあさんの前に座る男子、悪魔の誘惑に負ける』
完全なハズレだよな~
後は……
『おばあさんの前に座る男子、席を譲る』
『おばあさんの前に座る男子、座ってる所から横にずれる』
『おばあさんの前に座る男子、次の駅で降りてバスに乗り換える』
そうやって、残りも順調に埋めていく。
『おばあさんの前に座る男子、無言で立ち上がり電車の出入口に向かう』
『おばあさんの前に座る男子、「僕の膝にどうぞ」と言い座らせる』
「明奈、最後の何?」
ダイスの面を全て埋めた俺に、望が確認するかの様に言ってくる。
「ご、ごめん。思いつかなかった……」
「まぁ、良いわ。でも、ハズレ出たらきついね。後、数値が2になってるけど、どうするの?」
うわぉ、ほんとうだ。
「うん、2回投げたら良い」
「全くもう……」
呆れてる望を横目に、俺はとりあえずダイスを振る。
カラカラ
『おばあさんの前に座る男子、悪魔の誘惑に負ける』
すかさず、拾い。再び投げ直す。
「ちょっと……」
望がじと目で睨んでくる。
大丈夫、2回振れると言うことはこういうことなのだ。
周りの人達が変な目で見てるがそれどころではない。
カラカラカラ
『おばあさんの前に座る男子、席を譲る』
よし、最高の目が出た。
すると、突然その男子の目が決意の目に変わる。
「あ、あの。おばあさん、良ければどうぞ」
「あらぁ、すまないねぇ」
よし、勝ったぞ。
バイキン悪魔がビックリした目をしてやがる。
何だろう、良いことするとこんなにも清々しいんだな。
席を譲った男子もいい顔をしてるね。
しかし、5分後次の駅に着いた瞬間。
席を譲られて座っていたおばあさんが立ち上がり、なんと降りていったのだ。
おぉぉぉい。何してんだ、ばぁさん。
めっちゃくちゃ無駄な事をしてしまった。
あ~あ、席を譲った男子も呆然としてる。
「はぁ……」
「そんなあからさまにため息つかないでよ」
「ほんとに悪魔なんか居たの?」
「いたもん……」
俺は、自信なく呟いた。だってもう居なくなってたしね。
その後、高校の最寄り駅を降り例の坂道を登る。
「とりあえず、あんまり変な事には使わない方が良いわよ?」
望はあの後から、俺に注意をしてきている。
そうは言ってもあんなものが見えた以上ほっとけなかったけどさ、今にして思えば幻覚ではなかったのかと思えてくる。
すると、突然突風が吹き荒れる。
俺の所にだけ。
「うにゃぁあああ!!」
「えっ?! 明奈?!」
スカートめくれてパンツ丸見えです。ピンクのパンツがね。
慌てて、スカート押さえたけど遅かった。その場に居た全員に見られたよ。望もびっくり仰天って感じの顔をしてるし、恥ずかしい。
後で、全員ダイスで記憶消しておいてやる。
「ふははは! 先程邪魔をしてくれた仕返しや!」
その声に、振り向くと何とそこには電車で見たバイキン悪魔が立っていた。
手に真っ黒なダイスを持ち。
「貴様、俺の姿が見えるらしいな。そして、そのダイス。絶滅させたと思ったがまだ生きとったか、クソ天使」
「なっ、やっぱりあんたが悪魔か」
俺の、突然の行動と言葉に望は目をパチクリさせていた。
「ふっ、俺の姿が見えないんか。なら見せてやろう。さぁ、とくと恐怖せい!」
「あっ、おい!」
しかし、遅かった。バイキン悪魔は両手を上に上げ、高らかに叫ぶ。
すると、全員が一斉にそのバイキン悪魔に視線がいく。
「きゃぁぁああああ!! へんた~い!」
「あははは!! 何だあれ? 芸人か?!」
女子と男子とで意見分かれたが、こんなもんだろう。
そして、バイキン悪魔は顔を真っ赤にしてプルプルと震えている。
自分の格好に気づいてなかったのかな。
「あ、明奈。電車で見たのってまさか……」
「うん、こいつ」
望も呆然としている。こんなの誰が見てもこうなるよ。
「くっ。ゆ、許せん! 俺の力を見せてやるわ~このダイスは人に不幸を与える、デビルダイスや!」
そう言って、バイキン悪魔はダイスを格好良く俺の前に突き出してくる。すると、そこに書かれてる面が見えた。
『目の前のクソ天使、スカートめくれる』
『目の前のクソ天使、靴の紐が切れる』
『目の前のクソ天使、学校に遅刻する』
『目の前のクソ天使、つまずいて転ぶ』
『目の前のクソ天使、10円玉を落とす』
『目の前のクソ天使、扉で指を挟む』
「しょぼっ! で、ハズレないの?!」
あ、つい口に出してしまった。
「なっ……だ、誰がショボいって?! ふん、悪魔のダイスやからな、ハズレなんてないわ!」
カラカラカラ
まぁ、俺はその間にとっくにダイスの面を埋めてましたよ。
どんな天罰が出るかな。
「えっ、あっ?! 貴様卑怯だぞ! 天使と悪魔のダイス対決は同時に振りあうんやぞ。こら!」
「そんなの知りませ~ん」
俺は、とぼけ顔で知らん顔する。
悪魔の言葉に耳を傾けたらいけないからね。
そして、ダイスは止まり効果の目が出る。
『悪魔のダイスの重さが100キロになる』
「うぎゃぁぁぁああ! 痛い痛い! 刺さっとる刺さっとる!!」
バイキン悪魔の手に乗っていたダイスは、いきなり重くなったようで地面に突き刺さっている。手と一緒にね。
「あ、もう1回振れる」
カラカラ
「ひっ、ひいぃぃぃい!! 俺見習いやのに~!」
バイキン悪魔の悲痛な叫びは空へとかき消えた。




