表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラスト・エンジェル  作者: yukke
第2章 二度目の高校生
16/130

入学式

 4月のポカポカした陽気の中、俺は部屋で制服の最終確認をしていた。

紺色のブレザーに、赤と白のチェックのスカート。そして、胸元には赤色のリボンタイを付けていた。

このリボンタイは、1年は赤色、2年は黄色、3年は水色になっている。


「先に学校行っとくね~!」


 望が、階段を降りて玄関に向かうときに俺の部屋に向かって言ってきた。今日から高校3年生となる望は、早くに行って入学式の準備の手伝いをしなきゃならんそうだ。


「は~い、望……お姉ちゃん」


 

 俺は、この春休みの間に随分と女というものを仕込まれました。

話し方、歩き方、普段の仕草まで事細かにね。

後は、 外出中のトイレ何かは間違えなくなるまでに時間を要した。

今でも意識しないと、男子トイレに足を向けちゃうけどしょうがいよな、これは慣れないと。


 よし、制服はバッチリだな。

俺の部屋には、春休みの間に姿見用の鏡を買ってもらって部屋に置かれていた。

俺は、その鏡に自分を映し変な所はないか、髪に寝癖がないかチェックした。よし、バッチリ。

とっとと朝ごはん食べて行くか。


「おはよう、母さん」


 俺は、リビングに降りて、母さんに朝の挨拶をさた。

テーブルには、とっくに焼いたトーストとココアを置いていてくれた。

俺は、トーストにバターを塗ってかじりついた。


「今日は、お母さんも一緒に行くからね」


「ふぁ~い」


 俺が、トーストにかじりついたまま返事をした。


「こら、お行儀悪いから。口に物を入れたまま喋らない」


「む~~」


 母さんは、あれからずっとこの調子で俺に女の子指導をしてきている。

そのせいで春休みが、あっという間だったよ。


「あ、そうそう。昨日、あなた達が仲良く買い物に行っている間に中学と高校が一緒だった、柳田(やなぎだ)さんと、藤本(ふじもと)さんと、鷹西(たかにし)さんが来てたわよ」


「げっ、あいつらが? 何しに?」


 この3人は、俺の中学と高校が同じだった同級生だ。友達ではない。

なんせ、大学に進んでからは忙しくてなかなか会えず、結局どちらからでもなく連絡をしなくなった。

もう、10年以上も会ってないのに今更何の用があったんた。


「3人とも、今年度から転任であなたの通う高校の教師になったんだって」


「はいぃぃ~~??」


 バカな、あの3人教師になっていたのか。しかも、よりにもよって母校の高校で教師だと。

俺は、あまりの出来事に口からトーストを落としてしまった。








 電車に揺られること20分、電車は高校の最寄り駅に到着した。

俺は、母さんと改札口を出て高校へ向かう。


「まさか、同じ高校に2度通い直すことになるなんて……」


「そうぼやかないの、過ぎたことをグヂグチ言ってもしょうがないでしょ。それに、やるって決めたのは他でもないあなたよ?」


 そうでした。しかし、実際考えるともう一度定期試験や受験をしなければならない。

それを考えただけでも、少し億劫(おっくう)になってしまった。

改札を出てすぐ左に曲がり、駅に面した大通りを歩いていく。通りには、住宅や喫茶店、軽食屋があったりとどこにでもある平凡な街並みをしている。


 そして、しばらく歩くと、左手に小高い丘が見えてくる。

その丘の上に俺の母校、これから通う高校が見えてくる。

私立なので、校舎は割と綺麗な方である。


「この丘登るの結構キツいんだよね~また、ここを通らなきゃって考えたら憂鬱(ゆううつ)だよ」


「そうね、望は『あと1年でこの坂から解放される~』って言ってたわね」


「それは、良かったですね」


 俺は、ぶっきらぼうに答えた。


「あ、そうそう。学校では羽根の事は秘密にしなさいね? 隠せるなら隠した方が良いわ、減ったとは言え差別はなくなってないから」


「うん、分かった」


 そして校門から入ると、綺麗な桜並木が両脇から出迎える。

まっすぐ進むと、本校舎が見えてくる。ここに、職員室や食堂等がある。

左右から、それぞれ北校舎と南校舎に分かれている。教室は、主に北校舎になっている。南校舎は、特別教室や部室になっていた。

真ん中には中庭があり、生徒達の憩いの場になっている。主にカップルのだが。

グランドと体育館は校舎の奥になっている。


 本校舎に入ると、母さんは真っ直ぐ体育館に向かった。

俺は、本校舎の出入口入ってすぐの所にある掲示板で、自分のクラスを確認する。

つまり、保護者とは一旦ここで分かれるのだ。


「え~と、1年5組か。担任は……柳田」


 俺は絶句した。まさか、あいつが。担任だと。


「だ……だめだ。早くも逃げ出したい」


 俺は、周りに聞こえないようにつぶやいた。

でも、ここでガックリしてると怪しまれる。それに何より、今俺は女の子だ。変なことさえしなければバレないはずだ。

そこまで仲が良かったわけでは無いからな。


 俺は、クラスを確認すると北校舎の1階に向かった。

因みに、1階が1年、2階が2年、3階が3年とオーソドックスなシステムとなっている。


 1年5組の教室の前に立ち、入り口の札を眺める。

今日から、女子高生としてしっかりやっていかないといけないな。

怪しまれないか不安はあるが、大丈夫だ何より俺は立派な女の子だ。


 まぁ、ここに来るまでに沢山の人達にジロジロ見られてしまい、羽根を消し忘れたのかと不安になった。生えてなかったから良かったが余計に、ジロジロ見られてる原因が分からなかった。


 5組のクラスに入ると、黒板には紙が張り出されていた。

どうやら席順のようだ。と言っても、出席番号順だった。

とりあえず、その通りに俺の席の場所に目をやると、天使の羽根が生えた女子が前に座っていた。


「あっ……」


 うっかり声を出してしまった。

そして、聞こえてたのだろうか。その女子はビクッとなり、顔を思いっきり俯かせてしまった。

とりあえず、俺はその子の後ろの自分の席に座った。

『天使の羽根症候群』の人は増えてるとは言え、全国ではまだ1万人程度。街を歩いても見かけない時もあるし、見かけても1人か2人ぐらいのものだ。


 だから、減ったとは言え差別や偏見は未だに消えない。

現に、クラスの奴らもヒソヒソと羽根の生えた女子に対し何か言っていた。

俺も、男の時はこの性格のせいで割といじめられていた。と言っても、仲間はずれにされていたくらいでいじめと呼べるかは微妙だった。


 そして、ある程度人が集まりだしガヤガヤと賑やかになってきた。

だが、その女子には誰1人として近寄る者はいなかった。

大人より物わかりが悪いのか、それとも周りが何か良からぬ事を言っているのだろうか、くだらないな。ちゃんと、正しい情報を集めていればこんな事にはならないがな。しょうがない。


「あの、その羽根綺麗だね」


 俺は、前の女子に声をかけた。

すると、その女子は再びビクッとなり体を硬直させた、そして恐る恐る後ろを振り向いた。

その女子は、俯いていなければなかなか可愛らしかった。

パッチリしたたれ目。髪は、真っ直ぐのセミロングであった。

でも、目は泳ぎかなりおどおどしていた。


「私、橋田明奈。あなたは?」


 どうだ、この女の子っぷりは。


「え? あ、えっと。西澤……朋美です」


 その子はもじもじとしながら答えてきた。

うん、性格はやはりいじめられやすい性格なんだな。羽根が無くてもいじめられてたろうな。

すると、まわりの人達が変な目で見てきた。

そして、隣の女子がとんでもないことを言ってきた。


「ねぇ、橋田さんだっけ? やめときなって、羽根で前見えなくて迷惑でしょうが。それに感染するのよ、それ」


 ほんとに耳を疑った。俺はあれから『天使の羽根症候群』の事を調べまくった。

そして、感染することは100%ないと政府からも発表があったのだ。

にも関わらず、なんだこれは。


「えっと、それって誰から聞いたの? 政府の発表もあったしCMでもよくやってるよね?」


 俺はたまらず聞き返した。

この子らは情報収集とやらをしてないのだろうか。


「何言ってんの。あんなの嘘に決まってんじゃん! ネットとかでは、感染したって人の声もあるし、生物学者だって人が政府の発表が嘘だとして、その危険性をSNSで上げてるよ」


 そう言うことか、この子らはネット知識のみか。

あんな事実も嘘もごちゃごちゃになってるのを、この子らは信じていたのか。

いや、正確にはその社会の狭さからか。家族も、ネットばかり信じる世代なんだろう。

なんとも世知辛い世の中になったものだ。

どっちにしても、それが事実ならおかしなことがある。


「ほんとに感染するんだったら、この子隔離されるでしょ? それに私達もとっくに感染してるし、もっと天使の羽根が生える人が増えてるでしょう」


「あっ、う……」


 俺は、キッと睨みその子の言い分を論破した。

でたらめに作られた噂に、未だ振り回されてるなんて。

クラス中も皆ざわめいていた。

そして、その直後。


「皆、おはよう~集まってるか~? よ~し、席付けよ~さっそくだが、俺がこのクラスの担任を務める柳田英二(やなぎだえいじ)だ~英ちゃんと呼んでくれてもかまないぞ~」


 入るなり自己紹介を始めたこの男は、俺の中学と高校の同級生。

10年以上ぶりになるけど雰囲気は変わらないようだ。

昔は茶髪だったが、さすがに先生をしてるんだし黒く染め直していたが、ワックスで髪を固めたホスト風の髪型は相変わらずだった。

二重でたれ目。背もすらっと高い、いわゆるイケメンという部類だ。

しかし、柳田は目を丸くしてクラスを眺めていた。

多分、期待していた反応じゃなかったからだ。


「あれあれ~どうした? 皆、入学式だというのに変な空気だな~」


 柳田は、後頭部を手でポリポリとかき困っていた。


「あ~そう言えば、天使の羽根の子が居たんだっけ。皆何か変な噂を聞いてようだけど、その子の言うとおり政府の発表された事の方が事実だからね」


 柳田が俺に顔を向けて言ってきた。というか、聞いてたんならその時点で入って来いよ。


「さ、先生はこんな嫌悪なムードでスタートさせたくは無いからね。しっかり、謝りな」


 そう言って、皆に謝罪をするように促した。

クラスの皆はほんとに申し訳なさそうに、西澤さんに謝って来た。

西澤さんは、こんな事は初めてなんだろう。どう対応したらいいか分からず慌てふためいていた。


 そうして、一騒動あったが何とか和やかな空気のまま入学式の会場である、体育館へと向かった。


 式では、妹の望が在校生の席から入場してくる俺の姿を見つけると、にこやかに手を振ってきた。

いや、恥ずかしいから止めてくれ。俺は、少し顔を赤くしそのまま流れにそって歩く。

またしても、ヒソヒソ声が聞こえる。


「ねぇ、橋田さん。あれ、妹さん?」


「うん、そう!」


「可愛いわね~」


「え? 橋田の妹? うわっ、可愛いなんだあれ!」


 あれ、なんか俺の方に視線が集中している。天使の羽根の子に集中するかと思ったのだが。

すると、2年の席の中に天使の羽根が生えてる女子がいた。

なるほど、そう言うことか。俺は納得して、1年の席に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ