閑話 アーサー驚く。
野営に来た、叔父上に絞られた、この1年程はまともに身体を動かしていなかったから効いた。
森へ入った、更に絞られた、俺と同じ立場、王太子の兄を持つ弟としての大先輩だ、効いた・・・。
森を出て野営地に戻る、騒がしい
「リリアン?」
「叔父上?」
騒がしい元へ向かう、人集り、いや騎士集り、あれだけの体格を誇る騎士達の山に叔父上は苦戦しつつも分け入って行く、凄い、俺には無理だ・・・
そこには
「えい、えい」
何とも迫力のない掛け声で鞭を振るう少女が1人
だが掛け声とは裏腹に、その腕前は凄まじいの一言だった
鞭が速くて動きが追えない、多分同年代くらいの少女だが騎士と言うには体格が華奢だ、かと言って貴族と言うには質素・・・、いや野営に即した格好をしている、何者?
「・・・、リリー、何してる・・・」
ん?叔父上の知り合いか?
「えっ?あっ、ヴィー帰って来たのね、おかえりなさい!」
は?叔父上を「ヴィー」と呼んだか?この娘は、父上しか呼んだのを見た事ないのだが!?
と、驚いて黙っていると少女は俺に気付き
「あら?ご機嫌ようアーサー様」
「あ、ああ、初めまして・・・」
「えっ」
「え?」
うん?
「・・・」ぴく
「あっ」
少女がやってしまったわ、と顔に出している、なんだ?
叔父上に絞られた・・・
過去最高に絞られた気がする、面識のある相手に無礼を働いてしまった、王族には有り得ない失態だ・・・
「おかえりなさい、準備は出来てますよ」
先程の失礼を気にすることもなく笑顔で向かい入れてくれる少女。
「ただいまリリー、美味しそうだ・・・」
「一応手作りよ、召し上がれ」
「アーサーも来い、俺だけでは食べきれん」
「で、でも・・・」
躊躇するアーサー、流石に気が引ける
「どうぞー、最初から3人分用意して来たの」
「流石だなリリー、良い読みだ」
「あ、あの・・・」
「ん?」
「先程は失礼しました、どうかもう一度ご紹介を・・・」
無礼は謝らなければ話が進まない、少女は気にしていないと自己紹介をしてくれる、が次の瞬間また無礼を働いてしまうアーサー。
「改めて、リリアン・クロイツェル公爵夫人です、よろし」
「は?」
しまった、挨拶の途中で遮ってしまうなど!だが、クロイツェル?家名をクロイツェルと名乗ったか?夫人!?
「え?」
「ん?」
「・・・、し、失礼、リリアンじょ、、夫人?・・」
「はい」
「今、家名をクロイツェルと?」
「はい」
「叔父上の家に養子にでも?」
「・・・」
公爵夫人と名乗ったのは聞こえていたが、流石に聞き間違いだと確認する
「アーサー・・・」
ふと、影が落ちる、叔父上が近くに来、
ゴンッ!
アーサーの頭に拳骨が落ちた
「ぐはっ、っ叔父上!」
「リリーは俺の妻だ!馬鹿者」
「がっ、は、っ、妻!?、え、だって俺と同級生って、」
「お前と同級生で、俺の妻、何か反する所でもあるか?」
「いえっ、ないですが、えっ?では去年結婚したっ!?」
「はい」
「最近、3つ子を出産した?」
「はい」
「うっそー・・・、ど、、え、同級生・・・?」
「はい」
は?同じクラス?同級生?叔父上の妻?公爵夫人で子持ち?
あまりの情報の多さと信じ難さに動揺したまま口走る
「え、っと、本当に失礼しました・・・、おば、」
「おばは止めてください」
「・・・」
この顔は知っている!母上、お祖母様に通じる逆らってはいけない時の顔だ!
「アル兄様には」
「あ、アル兄様っ!?」
兄上に妹が!?いや俺に妹は居ない、のか?
情報過多についていけないアーサー。
「兄と呼ぶように言われましたので、アル兄様の妹という扱いで、ルーク義兄様とエリザ義姉様は承知しています」
「義兄・・・、義姉・・・」
そう、だよな叔父上の妻なら義理の叔母上、いや兄上がややこしい事にしたのが悪いのでは!?
「でも、アーサー様は兄という感じはしませんので、私の弟としましょうかヴィー?」
「は、、えっ、姉!?、ヴィーって!」
「そうだな、なんかそんな感じはする」
叔父上!?何を!
「では、アーサー、お姉ちゃん、と」
この段階でアーサーは思考を放棄しつつあった
「お、ねえ、ちゃん?」
ポロっと口を滑らせてしまうアーサー
「きゃー!可愛い弟が出来ました!」
「・・・リリー、酔ってないか?」
「酔ってません!1口だけです!」
「・・・酔っているな」
今後の呼び方と立場が決まった瞬間である。
同級生の姉上が出来て、その人は叔父上の妻で、子持ちだ・・・
何者なんだ・・・
叔母、いや姉上が帰って行った、俺は叔父上に剣の稽古をつけられている、キツい・・・
多分、人の顔を忘れていた事、それが自分の妻であった事、無礼に無礼を重ねた事でこんな事になっている、俺の自己責任だ。
それにしても凄い力のある姉だった、勢いと言うか、いや叔父上の微妙な立場を考えるとアレくらいの方がきっと良いのだろう。
「気を抜くな!」
ギィンッ!剣を思い切り弾かれ、手が痺れる
「っ」
こっちは両手持ち、叔父上は片手持ちなのにこの差、力の差は圧倒的だが簡単に諦められない。
斬りかかっては受け止められ、いなされ、弾かれる
片手持ちで止められると言う事は叔父上は片手が空いているので
「ふっ」
「っ、げほ」
隙をついて殴られる、革鎧を着ていてもかなりの力だ
「実力と体格に劣る相手に真正面から来るな、時間を稼ぐか、隙を探れ」
「はい!」
ギィンッ、ゴッ、ガンッ!
「迂闊に斬りかかるから隙を晒すんだ、じっくり動かないで居た方が相手もやりにくい」
その後もボコボコに負けた。
剣の稽古を1時間程、休憩していると馬が単騎野営地に飛び込んで来た
「誰か!クロイツェル公爵家護衛のセキトである!」
姉上の護衛か?
「どうした!」
叔父上が近くに居たので話を聞く、護衛が単騎来たという事は嫌な予感がする。
「帰りの道中、賊が」
「っ!」
賊と言った瞬間、周囲の空気が張り詰める、叔父上の顔が恐ろしい形相になる・・・
「、賊が居たので、奥様一行は野営地に引き返しています、賊には気付かれておりません、賊は5人、此処から馬車で1時間程の場所です!」
「マイク!」
「はいよ」
「聞いていたな?騎馬は」
「50、いや、70は出せる、他は周囲の見回りに行ってるが」
「70で出る!他は呼び戻して待機」
「うっす」
「俺の」
「馬はいつでも!」
「アーサー!」
「はい!」
「行くか?リリーを迎えに」
「行きます!」
俺の返事に叔父上は嬉しそうに
「よく言った、マイク、20は馬車の護衛、50は・・・」
「賊の制圧ですね、任せて下さい」
普段軽薄だと思っていた騎士が叔父上とやり取りして、あっという間に段取りと準備を済ませている、顔の様子は軽いものではない。
「マイク、気を付けなよ!」
女性騎士に言われて騎士は
「お前こそ、嬢ちゃんが来るから準備を整えておけ、多分泊まる事になるぞ」
「任せな」
「行くぞ、全力で走れ」
ポンと背中を叩かれる
「はい!」
馬に跨り、野営地を出る、が、叔父上と騎士団達からどんどん遅れて行く
「くっ」
速いっ、馬に差はない筈、いや馬だけなら多分1番良い馬の筈だ、つまり俺が未熟な証明、これ以上の速度は俺には乗りこなせない。
「はーい、別に来なくても良いよ、おーじさま」
横に先程の野営地に飛び込んで来た護衛
「自分で行くと答えた!」
「そう?まあ良いけど、あまり遅れると騎士も足並み揃えないといけなくなるから、分かるよね?」
俺が足を引っ張る事で姉上の元に騎士が着くのが遅れる、引き返して来ていると言ってもそれだけ危険に晒す時間が増えると言う事だ。
「分かってる!」
今でも限界だと思われる速度だが、少しずつ上げていく
前を行く騎士団との距離が離れなくなった速度を維持して何とか馬に食らいつく。
「くっ・・・」
「へえー、やるじゃんおーじ様にしては、ま、がんばってよ」
軽薄な口調だが、この速度の騎馬で声が聞こえる距離まで詰めて並走、平然とした顔をしているが並の腕ではない事が分かる。
必至に食らいつき公爵家の馬車まで何とか辿り着いたアーサーだが、その後姉(義叔母)の乗った馬に千切られるなど夢にも思わなかった。
姉上はええーっ!!




