モブ、ボブと2
「よっ、と」
御者台、ボブ爺の横に座ります
「奥様?」
「話、したくて」
「御者台は埃がつきますぞ」
「良いの、洗えば落ちるわ」
「はっはっは、奥様は変わり者ですな、わざわざ御者台にまで、この爺めと話したいとは」
「気になったことはすぐにでも確かめたいのよ、ボブ爺なんで騎士団長やっていたのに御者なんてやってるの?」
騎士団長になったくらいです、召し抱える所はいくらでもありますし、騎士爵・・・、いいえ騎士団長になる程なら叙爵されてもおかしくありません。
「儂は単に剣と馬が好きで、それが高じて騎士団長になりましてね」
いや、なんか間がすっぱり抜けているけど!
「最初は引退して厩舎係になるつもりが、王家では受けてくれませんで」
なんか王家が断ったみたいに言ってるけど、騎士団長までやっていた人物をそのまま厩舎係になんてさせられないわよね!?
「丁度ヴィル坊ちゃんが家を出る所に押し掛けました」
押し掛け!凄い!いえヴィルヘルム様を坊ちゃん!
「坊ちゃんも厩舎係などさせられないと言いまして」
それはそうよね!
「最初は護衛を、あとはこっそり厩舎に入り馬の世話をして、護衛兼御者に落ち着きました」
それ落ち着いたと言うより、もう居座ったと言っても良いくらいですね!
「そうなの・・・」
ボブ爺が割と我が道をゆく剛の者という事がわかりました・・・
「ええ、坊ちゃんが奥様の護衛をやるならもう全て好きにしていい、と言ったので」
諦めたのねヴィルヘルム様・・・
その後は色々ヴィルヘルム様の事を聞きました
ヴィルヘルム様ったら、私の子供の頃は知っているのに自分の子供の頃の話はしませんから。
「え、そんな事が・・・」
「ええ、実は・・・」
「まあ・・・」
「坊ちゃんは・・・」
「ふふふ・・・」
話すボブ爺も懐かしそうに話してくれます、30分程経ちましたか地平線の彼方に土煙が
「騎士団と坊ちゃんですな」
「え、見えるの?」
「目には自信があります」
地平線の米粒くらいの大きさなんですけど・・・
「奥様」
それまで朗らかに話をしていたボブ爺は一変、真面目な顔になり
「何か?」
「坊ちゃんと結婚してくれてありがとうございます」
「うん・・・」
「それどころか赤子も産んで頂けるなど・・・」
「なあに、その言い方だと私がイヤイヤ来たみたいじゃない、好きで結婚して、好きでウィル達を産んだのよ」
「ええ、ええ・・・、坊ちゃんは幸せ者です」
「私の方こそ幸せよ、ボブ爺帰ったら子供達を抱いてあげてね」
「そんな、こんな爺めが抱くなど・・・」
「良いの、ね」
「はい、ありがとうございます・・・」
私が来て10年と少しですが、それ以上に見守って来た人も居ます、ボブ爺もその1人でしょう。
おもいたった時は即行動!
ヴィルヘルム様ったら肝心な事が抜けてるんだから。
こんなに大切な人が近くに居るのに・・・
ドドドドドド・・・
そんな話をしている内に騎士団が近くまで来ました
「リリーっ!」
先頭はヴィルヘルム様、あんな険しい顔は初めてですね
「ヴィー、大丈夫よ」
ひらひらと手を振って応える私を見て、ホッとしたのか顔を崩して
「そうか、良かった・・・」
「嬢ちゃん、あとは任せろ!6、7部隊は馬車の護衛、他は着いて来い!」
人懐っこい感じの印象のマルクさんが、別れた時とは打って変わった様子で声を張り上げて指揮をしています。
「ありがとうございます、気を付けて」
声を掛けると、チラリと視線だけよこして、いつもの親しい笑顔を浮かべ駆け抜けて行きました。
彼女欲しいとか言っていたけど、今の様子だったらスグ出来そうなものですが、有事の時に近くに女性はほぼ居ませんね・・・
20人程の騎士が護衛に加わり、残りの騎士、・・・50は居るでしょうか、マルクさんを先頭に賊の方へと駆けて行きました、大人数の騎士団の移動は迫力ありますね、地響きとかお腹に響きます。
そして、数拍おいてからの凄い土煙!
「奥様こちらを」
「わっ!?」
頭からボブ爺が羽織っていたマントを被せられます
土煙凄くて視界0ですね、声だけが・・・
「ボブ爺、ありがとう」
ヴィルヘルム様?
「なあに奥様の判断です、儂はここに座っていただけで、坊ちゃん」
口調からニヤリと笑うボブ爺の顔が浮かびます
「・・・、、坊ちゃんは止めろ・・・」
拗ねてますね!ふふっ
土煙が晴れると、ポクポクとぐったりしたアーサー様とセキト君が
「叔父上、速すぎ・・・」
「爺ちゃん、どうだい!」
「アーサー、馬の扱いには慣れておけ、何かと儀式で乗るからな」
「おせぇ、リョフに乗ってんだから、もっと早く来い」
「「はい・・・」」
口々に厳しい言葉を返される2人
て、リョフにセキト、バ!?でも馬がリョフって!
凄い馬(人?)が身近に居たわね・・・
「ボブ爺ボブ爺!あの馬リョフって言うの?」
「はい、良い馬なのですが乗り手がヘッポコでまだまだですが」
「ひでえ!」
「・・・気になりますか?」
「え、ええ、先行させたのなら1番早い馬なの?」
「はい、乗り手が持て余してますがね、・・・、乗ってみますか?」
「良いの?」
「爺ちゃん?」
「セキト、降りろ」
「マジか、マジかっ」
悲しげなセキト君、ごめんね!
ポクポク・・・
空の馬車に御者台に乗るセキト君とボブ爺
護衛10人に騎士20人、ヴィルヘルム様にアーサー様
リョフに乗る私。
うーん、ポクポク歩いているだけではイマイチ分かりませんね、こう全力で駆けてみたい・・・
ソワソワしている私に気付いたのか、ボブ爺が
「奥様、走りたいですか?」
にや、と言う
「・・・、うん」
「坊ちゃん」
「分かった、護衛達は任せたぞボブ爺」
ん?
「アーサー着いて来い、遅れたら分かるな?」
げ、と言わんばかりの苦い顔を浮かべるアーサー様
「これより早駆けを行う、皆遅れるな」
「「「「おう!」」」」
騎士様慣れてません?日常ですか?
「リリー行くぞ」
「はい!」
そして始まる競走
この子速いわ!凄い凄い!きゃーっ!
周りの騎士様は当然の如く着いてきます、ヴィルヘルム様も。
ちらり、アーサー様は少し遅れてます?
「リリー!」
ヴィルヘルム様が大きな声できます
「何!?」
「全力で行け!」
いいの?首を傾げると、コクリと頷くヴィルヘルム様、では久し振りに!
見えなくなった騎馬集団の背を見て
「爺ちゃん・・・」
「何だ」
「公爵夫人てのは、普通あんな馬乗れんのか?」
「知らん、が、坊ちゃんの嫁だ、乗ってんだから乗れるんだろ」
「爺ちゃん適当過ぎんだろ!普通の夫人は、いや貴族の女は乗らないだろ!」
「んな事言ったって、乗ってんじゃねえか」
「王子が遅れる程の速度で?」
「王子がへっぽこなんだろ、セキトと同じだな」
「流石にあんな腕前と一緒にして欲しくねーんですけど!?」
「儂からしたら大差ねえよ、お前のは馬のお陰だ」
「ぐ、くそっ・・・」
ガックリ肩を落とすセキト、まだまだ道のりは遠い
「無駄に力があるから馬を振り回そうとしてダメなんだ、嬢ちゃ・・・奥様は全部馬に任せてる、あっちの方が馬も気持ちいいだろうなあ、なあセキト?」
「力と体力がないだけだろ奥様のは!」
「それが良いと言ってんだよ、未熟者め」
「ちぇっ」
「騎士団長やらんかね奥様・・・」
突然呟くボブ爺
「は?ボケたか爺ちゃん」
ゴン、鈍い音が響き渡る
「ボケてねえよ、騎士団長やったら面白いだろうに」
「っ、てえ、出来るわけねえだろ、貴族の夫人が」
「馬に乗れる、頭も良い、出来るだろ」
「剣振れねえだろが」
「お前は馬鹿か、団長が前線に出てどうすんだ、後方指揮が常と決まってんだろ、そもそも今の騎士団の奴らは大半が敵を見ると突撃する猪ばかりじゃねえか」
「勇敢じゃん?」
「時と場合によるだろ、突撃するのは数と質で上回って居る時だけだ、頭回す奴が必要なんだよ」
「いや、向いているにしても無理だろ、奥様過労で死んじまうよ、元々仕事はかなりやってて、貴族では放り出しがちな子育てにも積極的なのに騎士団長って、どこのバケモノだよ」
「勿体ないな・・・」
「本気かよ・・・」
「賊見つけた時、お前はどう思った」
「え?まあ5人なら余裕かな?奥様も引く事無いのに」
「それだよ、猪じゃねえか、伏兵が潜んでいたらどうする」
「それも倒す」
「分かった、取り敢えずお前は騎士団長には成れない」
「何でだよ!」
「馬車に行ったらどうすんだよ、奥様を人質に取られたら」
「爺ちゃんがその前に薙ぎ倒すだろ」
「馬車は、まあ、いいさ、お前らの方にも応援行ったら?」
「倒す!」
「・・・、全員無傷でやれるのか?」
「俺はイける!他は多分無理じゃないかな?」
「それだよ、それ、つまり読み切れない危険を考えて引いたんだ、伏兵20.30居たらどうだった」
「それは、きついかも・・・」
「さっき行った騎士団50以上なら?」
「まあ、負けないじゃん?賊も逃げるか投降するかもね」
「そう言う所だな、あー勿体無い」




