閑話 侍女は知る。
喧嘩していたと思えば仲直りしてイチャイチャする御二人。
「ヴィー、子供の事で熱くなって貴方の事を蔑ろにしてしまったわ、ごめんなさい」
「いや俺も自分の経験を押し付け過ぎた、ウィルは俺ではないのに」
「ヴィー」
「リリー、すまない」
「ううん、私こそごめんなさい」
「いや、良いんだ、ウィルにも半身たる人がきっと居るな、俺にとってのリリーのような存在が」
「うん」
っぐは、甘っ!!何なのこの人達!
口の中に角砂糖をごりごり詰め込まれたかのような変わり身に悶える侍女。
「だから言ったじゃない、関わるなって」
「先輩、先に言って・・・」
「知らなかったの?旦那様もお嬢・・・、奥様も10年前程からあんな感じよ」
「私、ここに来たのは奥様が妊娠した時ですから」
「ああ、ここ1年は妊娠中って言うのもあって細心の注意を払っていたから、喧嘩らしい喧嘩なかったものね」
「何ですかー、あの甘々な空気」
「昔からそうなのよ奥様がお嬢様の頃、お披露目の時に陛下の隣に控えていた旦那様に一目惚れしてからずっとベタ惚れで、その内旦那様も想いを意識してからは、ずーーっと」
「ずっと、って、奥様も口にしていましたけど、お披露目って5歳の時の王宮ですよね、その時からって凄いですね」
「そう、凄いのよ、子爵家から王弟公爵様の所へ嫁げるだけの想いも評価も」
「私、普通の方と思っていました」
「好きってだけで貴族の婚約が結ばれる訳ないでしょう、勤めている家の当主と奥様の事くらい知っておきなさい、奥様の手掛けている仕事聞いたら腰抜かすわよ」
「え、何かしてるんですか奥様」
「何か、なんてかわいいものじゃないわよ、いい?・・・で、・・・とか、・・・も」
これまでの概歴を聞き、口を大きく開ける
「ええっ、そんな凄かったんですか奥様・・・」
「16歳なのに功績で言ったら現在生きている人間でも上位に入る方よ、勉強しておきなさいね」
「は、はい」
そんな人とは知らず、旦那様が大好きで、優しくて穏やかで使用人にも気を配る良い人だなぁ、としか思っていなかった侍女は冷や汗をかく。
「あとね、分かっていると思うけど、旦那様も奥様も、本気で怒ったら恐ろしいから気を付けなさい」
「寧ろ、あの優しい方達を怒らせる事なんてあるんですか?」
「これは聞いた話だけど、旦那様が中庭で騎士に腕を掴まれていた奥様を見て、剣を抜いたらしいわ」
ひえー、旦那様は恐ろしい容姿ですがとても穏やかである事を此処に勤めて知ったのですが、怒りの形相で剣をですか、私気を失います、と侍女。
実際は剣を抜く前に止められたのだが、噂は誇張されるものである。
「奥様は離宮で何かあったらしくて、怒って旦那様を正座させて、お説教したらしいわ」
その旦那様を正座させてお説教する奥様、何者!?
いえ、そもそも離宮に滞在するのも色々おかしいですよね、実の息子である旦那様が滞在するなら兎も角、旦那様の妻とは言え血筋は王家じゃないのに離宮に?
王子妃でも王妃でもないのに?
「何か、よく分からない方ということが分かりました・・・」
「優しくて、頭が良くて、旦那様が好き過ぎる、だけ知っていれば良いわよ、給金に応えられるだけ仕事に励みなさいな」
「あ、それ思っていたんですけど、何ですかこの御屋敷、お給金が相場の倍以上ですよね!見習い期間中でも相場並に貰えて公爵家は違うなあ、とか思っていたのに1年経った今月の給金跳ね上がったんですけど!?」
「あら、正式に契約出来たのね、おめでとう、侍女長からその内詳しく説明されるから、お給金もだし賞与とか積み立てとか」
「何ですかそれ!」
「賞与は年2回、お給金とは別に貰えるお給金よ、積み立ては毎月のお給金から銀貨2枚差し引かれて公爵家の方で管理してくれるの」
「ぎ、銀貨2枚差し引きって、侍女のお給金の相場分じゃないですか・・・、因みに賞与っておいくら戴けるのですか?」
「一律金貨1枚」
「おかしくありません!?このお家の金銭感覚大丈夫ですか!?」
「本来ならもっと上げたかったらしいわよ、でも旦那様と執事ジェレミアさん侍女長アリアさんに上げすぎだと言われて止めたらしいわ」
それも奥様主導か、不安だ・・・
「お、奥様の金銭感覚危ういのでは・・・」
「と、思うでしょ?ドレスや宝石そんなに作ってないのよ、1着1着は公爵夫人に相応しい額の作りだけど必要最低限の数だし、そもそも奥様の財布はその程度で揺らぐものじゃないって事ね」
あ、そう言えば色々やってて稼いでいるのでしたね・・・
「だからと言って、使用人のお給金上げようとはならないと思うのですが」
「奥様が「労働者の対価は十分に」と言って譲らなかったの、侍女長が今でも十分ですと言っても聞き入れなかった」
「それでも貰いすぎて良からぬ事をやりそうな人とか、お酒に溺れたり交友関係がだらしなくなったり・・・」
「それも「この程度で財布が満たされて本性が分かるなら安い物よ、良い機会だから使用人の入れ替えも出来るわね」って」
怖っ、優しくて穏やかな奥様だと思っていたのにと盛大に引き攣り苦笑する私に先輩は
「普通の良い人だけで公爵の妻になれる訳ないの、それなりに腹の探り合いや考えを巡らせる事くらいは出来ないと話にならないでしょう、出仕先の家で奥様が「私お花大好きなの、ドレスも宝石も大好きよ、使用人の給金安いの?上げましょう!」なんて考え無しの方が余程恐ろしいでしょ」
確かに!頭お花畑は苦労しそうだし、しっかりしているしお給金が多いならいいことだし!
「なら、奥様が為さる行動には相応の理由があると」
「そうね」
「あの旦那様とイチャイチャも・・・」
「アレは元から」
「・・・」
「・・・」
視線の先には先程の喧嘩もどこ吹く風、旦那様の膝の上に乗りイチャイチャとキスをしている奥様の姿が。
「くう!私も素敵な恋人欲しい!」
「それも奥様の手の内ね、仕事に必死で私生活に余裕が無いと労働も疎かになる、私生活が充実していれば仕事にも身が入る、お給金に余裕があるなら何かを買うし、相手が居れば一緒に出掛けたり、結婚したら子が産まれて経済が回る、と言っていたわ」
「何ですかその視点、国王陛下ですか」
「それに近い事は子爵領では以前から、公爵領では近年やっているわね」
「それも色々な事の1つですか?」
「そうね、仕事を作り人を雇う、給金を出す、物を売って利益を得る」
「商人みたいですね奥様」
それを聞いたサラはクスクスと笑い出す
「なんですか?」
「以前奥様に言われたわ、商人は利益を求めるだけだって、私が商人なら貴方達のお給金は屋敷を辞めるまでも無いけど生かさず殺さずのギリギリのお給金にしてるわよ、って」
「つまり奥様は利益は求めていないと」
「個人的には利益を求めていないけど、私が儲かっていないと働いている人が食べられないし、やりたい事をやるにはお金が必要だから仕方無く、ですって」
「はえー、本当に色々考えてあるのですねー、でもこれからは国から援助を得られやすくなるのでは?」
「ふふっ、それがね「あの国王陛下に貸しを作るのは面倒だからイヤ」と心底イヤそうな顔をしていらしたわ」
面倒!国王陛下を掴まえて面倒と来ましたか!
その頃、当の国王陛下は
「ぶへっくしょいっ!!」
「やだルーク風邪?」
「いや・・・」




