モブ、呼び出し。
甘々な生活も2ヶ月目に入って1週間過ぎた頃
私は刺繍を、ヴィルヘルム様は読書をしてゆっくり過ごして居ました、横にその温もりを感じながらお互いが無言でいますが、とても居心地の良い空気で心の中もぽかぽかします。
こんな日が続けばいいのに。
トントントン、ノックが響き
「どうした」
執事のジェレミアさんがとても恐縮したように部屋に入って来ます、どうしたのでしょう?
「申し訳ございません、国王陛下からお手紙が・・・」
「ルーク義兄様が私に?」
「ああ、手紙によるとリリーに用事があるみたいだ、三日後に王城に来れないか、と」
何でしょうか、新婚期間中にわざわざ私を呼び出すなんて、それこそ余程の事があったのでしょうか?
「心当たりは?」
「ないわ」
2人とも首を傾げます、うーん。
「リリアン、家庭教師してくれないか」
「は?」
家庭、教師?藪から棒になんですかねルーク義兄様
「淑女教育全般と学力の底上げだ、出来るだろう」
何かイヤな予感がするので断る方向に・・・
「私、人に教える程学力高くありませんよ、ルーク義兄様の事です、学園の成績把握しているでしょう?」
「知っているがあんなもの参考にならん、リリアン手を抜いているな」
「なんで私が手を抜かないといけないのですか、何の利点もないですよ」
実際は目立ちたくないので手を抜いてました、成績優秀者は生徒会に勧誘されるらしいですから、乙女ゲームに絡みそうでそこそこの成績に調整していました。
「理由は知らないが、マイヤール夫人から家庭教師の内容を聞いている、と言ったら?」
う、そうなるとバレてるの?
「・・・」
「ふふ、まだまだだなリリアン、顔に出たぞ」
っ!ああー、もう・・・
「はぁ、誰ですか、1期生?それとも2期生ですか?」
「3期生だ」
「・・・、一応聞きますが、同じクラスの方では無いですよね?」
「察しが良いな、アリシア・ロック男爵令じょ」
「嫌です」
シンと静まり返る部屋、因みにエリザ義姉様とヴィルヘルム様も居ます。
「聞いておこう、何故だ」
「私こそ聞きたいのですが、何故です」
私が断る理由ならいくらでもあります、学園内で色々やらかしているアリシアさんの事を良く思っていません、下敷きにして足を怪我した時の事も引っ掛かっています、ゲームだと思っているような思考も、まあその他色々と好きになれません、憎いとまではいきませんが好き嫌いで言えば十分に嫌いです。
「リリアンしか居ないのだ」
「家庭教師ならいくらでも居るでしょう、どういう事ですか?」
「淑女教育と言ったが本当は王子妃教育だな、だがアリシア嬢は男爵令嬢だ、現在王子妃教育を受けられる水準に無い」
「なら、教師を付けてその水準まで上げてしまえばいいじゃないですか、その教師が私である理由が分かりません、そもそも私は公爵夫人であって王子妃ではありません、家庭教師をするにしても私自身がその水準に達していないと思いますが?」
「リリアンはアリシア嬢と立場が似ている、子爵令嬢から王弟へ嫁いだ、男爵令嬢から王家へ嫁ぐ、お前なら彼女を導けるのではないか?
マイヤール夫人から聞いているぞ、お前は王子妃教育並の指導を受けているとな」
「えっ!?」
「ん?まさか知らなかったのか?」
いやいやいや、知りませんよ!なんで私が王子妃並の教育を受けているのよ・・・
ヴィルヘルム様の方に顔を向けると
「いや、俺は知らないな・・・」
「なんだ、2人とも知らなかったのかマイヤール夫人も人がわるい。
いいか、ヴィーは元王子の現公爵で王弟だ、それに見合う教育として並の公爵夫人程度の教育を、あのマイヤール夫人が施すと思うか?」
確かにロッテ先生なら、王子妃並、いいえそれこそ王子妃教育そのものを指導していても不思議ではありません。
「マイヤール夫人はラファエル様の所へ何回か足を運んで、王子妃教育の事を聞いていたそうよ」
おおう、マジですか・・・
「いえ、ならロッテ先生が家庭教師に」
「最初依頼をしたのだが、マイヤール夫人は年齢を理由に辞退、同期の母上が隠居しているから自分もそろそろ隠居すると、代わりにリリアン、お前を指名した」
「はいっ?」
「マイヤール夫人はリリアンに後継を託したと言ってもいたが違うのか?」
・・・、後継?、そんな事言われてな・・・、はっ!
結婚式の時の
「リリアンさん、この場で言うのもなんだけどこれからも精進なさい、貴女なら何でも出来るわ」
「今後は貴女に任せます、私はゆっくり過ごすから活躍して下さい」
って、この事!?
「どうやら心当たりはあるようだな」
「うっ」
ロッテ先生恨みますわ、いえ、私の嫁入りを考えると感謝?
ロッテ先生ありがとう!恨みますわ?
意味分かりませんね・・・
「私の師はロッテ先生です、ロッテ先生式指導しか知りませんし、アリシアさんの事を私は良く思っていません、きっと手荒になりますよ」
「構わん、やり方は任せる、どうせ後など無いのだからな」
それは聞きたくなかった事実ですね・・・
つまりアリシアさんの病死も現実味を帯びて来ました、しかも私の指導の成否で・・・
「兄上、それはリリーに対して・・・」
「ヴィルヘルム・クロイツェル公爵、リリアン・クロイツェル公爵夫人、聞け、この件は国王の名の元に全責任を持つ」
「王妃の名の元に、もよ」
王命、ですか。
わかり易く言うと、どのような結果であろうとお前が気にする必要はない、ですね。
はあー、心の中で大きくため息を吐きます。
「国王様、王妃様、謹んでお受け致します」
公爵夫人としての最初の仕事がこれですか、重すぎませんかね・・・
「ごめんなさいね、リリアン」
エリザ義姉様が申し訳なさそうに言います
「いえエリザ義姉様、私、失敗しませんから」
人の命が掛かっているのに失敗なんてしてられません、主に私の精神衛生上凄く悪いです、なので必ず成功させます。
「それより、私がある程度道筋を立てたら・・・」
「ええ、わたくしが引き継ぎます、正式な王子妃教育はラファエル様とわたくししか出来ません」
「それは・・・、エリザ義姉様」
「公私はきっちり分けるわよ」
怒ってらっしゃいますね、当然です。
次男がやらかし手前まで行って、その切っ掛けになった令嬢に対して「あら、良くお嫁に来たわねー」なんて喜んでいたら、ただのアホですし・・・
と思ったけど、コレ強烈な皮肉にも取れる台詞ですね。
「あら、良くお嫁に来たわね」
(どの面下げて来たの、恥知らず)
(お嫁に来てくれて嬉しいわ、仲良くしましょう)
怖っ!
「期限は3年、ですか?」
「ああ、学園の卒業までだ」
「分かりました、彼女は?」
「王城に一室設けてある、そこに」
「こちらの話は」
「伝えていない、卒業までに王子妃教育を終わらせるとしか言っていない、全ての判断はリリアンに任せよう」
「分かりました、場合によっては王城の人員をお借りする事もあると思いますが」
「都度言ってくれ、手配する」
ふむ、完全に私主導、責任重大です。
場を辞してから
「リリー」
「ん、なあにヴィー」
「君だけに重荷を背負わせたりしない、最終的には俺が手を下そう」
ヴィルヘルム様なら、そう言ってくれると思っていたわ、でも
「ヴィー、それなら私は余計に失敗する事が出来なくなったわ、貴方が手を汚す事を私は容認致しません」
「だが」
「もう、本当に成功させるしかないじゃない、重圧が増えました!」
「う、すまない」
「ううん、ありがとう、私の事を心配してくれたのね」
「・・・、ああ」
ただヴィルヘルム様にも協力はお願いしたい事があるわ
「ねえヴィー、嫌われ役、お願いしてもいい?」




