モブ、新婚中。
ヴィルヘルム様と結婚式を挙げてから1ヶ月が経ちました、私は今とても幸せです、ふふふ。
この1ヶ月は何もしておりません、私だけでなくヴィルヘルム様もです、これは貴族の婚姻の慣習みたいなもので、新婚は1ヶ月から2ヶ月の間は国から支援を受け取る事が出来ます。
具体的には代官の派遣や、国に関わる事の期限の延長、等などです、実際の制度としては形骸化されていますがこの慣習自体は今も生きており、新婚の身の回りの人間が仕事を一部代行して行い、2人だけの時間を多く過ごせるようにする配慮、といったものです。
まあ、その、配慮というのは、つまり・・・、新婚2人が仕事を周りに任せて何するのか、と
はい、そういう事です・・・
この期間中、周囲は徹底的に空気を読みます。
友人知人誰も会いに来ません、手紙も来ません、余程の事が無い限り何もありません。
余程とは、身内の不幸であるとか、出産などです。
使用人の接触も必要最低限になります、勿論呼べばスグに来るのですが、初めての夜を過ごし、一緒にお風呂に入り、出て来たらベッドメークが終わっており、軽食とお薬まで準備されていた時の衝撃と言ったら中々ある事ではありませんよね・・・
その後、薬を塗る程では無いと止めたにも関わらず
「妻の世話を任された俺には責任がある」
とか尤もな事を言いながら不埒な事をして来たヴィルヘルム様は立派なベッド弁慶です・・・
最初の数日は皆様の「分かってる」感がどうにも居住まいが悪くて、羞恥を感じ放しでした。
そして自重しないヴィルヘルム様に呆れていましたが、途中から
「あれ?私が異端なの?これ」
と思い始め、最終的にはドロドロの甘々になっていき・・・
冷静に思い直すと生きて行けないと思うので深く考えない事にします・・・
新婚って、みんなこんなものよね、ね?
「ヴィー、抱っこ・・・」
「ああ、リリーもっと甘えて良いぞ」
「・・・、うん」
「リリー、膝を貸してくれ」
「はい、どうぞ」
サラサラと髪を撫でる
「んふふ」
「ん?どうした」
「可愛い、ヴィルヘルム様」
「こんな大男のどこが・・・」
「全部?大きな猫がお腹見せて寝転がっているみたいな?」
「大きな猫は獅子や虎だ、獅子は恐ろしいものだろう」
「ヴィーは襲って来ませんわ」
「そんな事は、ないぞっ!」
「きゃーっ」
「お酒?飲んだ事ありませんよ」
「王宮舞踏会の時は・・・」
「どうなるか分からないものを大事な時に口にする訳にはいきませんから」
強いのか弱いのか分からないのに、そんな不確定要素をあの日に差し込む隙など作りたくありません。
「食後にでも飲んでみるか?」
「はい、飲みやすいものをお願いしますね」
「任せろ」
エールは多分合わないと思いますが、甘いお酒なら楽しめるかも知れません、ヴィルヘルム様と一緒に飲めるのも楽しみです。
「リリー、もう止めておこう」
「ヤです」
困り果てるヴィルヘルム、対してリリアンは頬を上気させ上機嫌にワインを飲む。
「ん、」
「駄目だリリー、これ以上は許さない」
「うー、もっと!」
グラスを取り上げられ不満を言うリリアン、その目は既にトロンとしていて正気では無い
「リリー、酒は楽しい内に止めるのが嗜みだ」
「楽しいうち?」
「ああ、今はどうだ?」
「とても楽しいわぁ」
「なら、止めよう、な?」
「うん」
子供に言い聞かせる様に諭すヴィルヘルム、リリアンが大人しく聞き入れてくれてホッとする。
「さあ、もう寝よう」
リリアンを抱き上げ寝室に入る
「ねえ、ヴィー?」
甘える様な声に耳を傾けながら、そっとベッドの端に下ろす
「ん?なんだ」
「触って」
ギクリと驚き目を見張るヴィルヘルム、リリアンはクスクス笑っている。
色々と考え、瞬時に答えを出して
そっと頭を撫で、髪を梳き、頬を撫でる
「ん、ふふ」
目を瞑り、撫でる手に自分の手を添えてくすぐったそうにしつつも頬擦りしてくるリリアン。
正解かと内心胸を撫で下ろすヴィルヘルム、そこへ
「ねえ、ヴィー、ここだけでいいの?」
なんだ、これは、自分の妻になった少女は、そう少女であった娘が・・・
混乱の最中、ゴクっと唾を飲み込み
「リリー、男をそんな風に煽って後悔するぞ」
そう、諌めるように言ったつもりが、何故か乗せられている様な気持ちなのは気のせいか
「ふふ、ヴィーったら、おかしな事を言うわ」
クスクスと楽しそうに笑う妻リリアン
「おかしな事?」
「ええ、私がヴィルヘルム様の事で後悔するなんて、これまでも、これからも絶対に無いわ」
普段の物言いを思えば完全に酔っている行動のソレであるのに、真剣な眼差しで言う彼女は酔っているのか酔っていないのか判断が付かない
「それに・・・、ヴィルヘルム様は私が後悔するような事をするの?」
しないと確信しているのだろう、疑問形で聞きながらも答えはひとつしかない。
「俺がリリーに後悔などさせるものか」
その答えに満足したのか、無言で唇を重ねてくるリリアン
・・・
・・・
・・・
翌朝、
キャーーーッ、素面に戻り昨晩の事に叫びを上げるリリアン、その声に飛び起きるヴィルヘルム
「リリア、ぐむっ」
顔に枕を押し付けグイグイ突っ張る
「見ないで!絶対こっち見ちゃ嫌!」
いや、そんな、っ、いやっ!
あれだけ酔っても記憶が残る人間であったリリアンは自分の痴態を思い出し悶える。
「リリー、覚えているのか?」
「覚えてませんっ!」
即否定するリリアンだが
「覚えてないのか・・・、俺は嬉しかったのだが、君がこれからも俺の事で後悔などしないと・・・」
シュンと至極残念そうになるヴィルヘルム
うっ、その顔はズルいヴィルヘルム様!
うーうー、と枕を抱き締めて顔を埋めながら唸るリリアン。
少ししてからチラリと上目遣いで顔を上げ、小さな声で言う
「嬉しかったの?」
「ああ」
「ホント?」
「本当だ」
「・・・」
「リリー?」
「覚えてます・・・」
その日ヴィルヘルム様は終始機嫌が良かった。




