閑話 尻に敷かれた公爵様。
噂が流れている、幸い離宮内の人員のみでの話だ。
曰く、
「公爵様が御令嬢の裸を覗いた」
「御令嬢が激怒し公爵様に説教、反省させた」
「その後、御令嬢が(木人を)鞭で打ち据えた、その時御令嬢は笑っていた、鞭の腕は素晴らしいものだった」
事実だ・・・
覗いたのも、激怒して説教されたのも、反省したのも
だが
「鞭は何処から来た・・・」
頭を抱えるヴィルヘルム、訳が分からない。
「と、言う訳で母上、離宮の主たる母上なら何か知りませんか?」
聞くと、珍しく動揺しているラファエル
「え、ええ、知っているわよ、勿論、わたくしは離宮の主ですから」
「?、どういう事ですか」
「いい、ヴィル、リリアンちゃんはね、とても我慢強い娘なの、だから知らず知らずに色々と溜め込んでしまうのよ」
何が言いたいのか分からないが、真剣な様子に圧されながら聞く
「お茶会の時にヴィルを殴る話になってね」
「何?」
俺を、殴る?
「素手では手を傷めるから、何か道具を扱えないの?となって」
「そこで、鞭?」
「ええ、マイヤール夫人に教わったと言うからエリザと一緒に見てみたいわ、と言ったのだけと」
「けど?」
「マイヤール夫人に人前で鞭を持つなといわれている、と言われてね断られたのよ」
「ふむ?」
「で、どうしても気になってマイヤール夫人を呼んでお話したのよ、マイヤール夫人、いえロッテは学園の時の同期で偶にお茶会をしていたから」
「それで?」
「そんなに気になるなら見せて貰いなさいなと、それで夫人立ち会いの元、離宮の教練場でリリアンちゃんに見せて貰ったのよ、ほらあそこなら余計な目もないし」
そしてリリアンちゃんを呼ぶと
「ロッテ先生!お久し振りです」
ニコニコとロッテと話すリリアンちゃん、本当に慕っている事が分かる
「久し振りですねリリアンさん、婚約おめでとうございます」
「ありがとうございます!ロッテ先生は式には」
「勿論行きますよ、招待状ありがとう」
「はい!お待ちしておりますね、ロッテ先生はラフィー義母様と面識あったのですね」
「ええ、学園の同期ですから」
「あ、そうなのですか、でも今日はどうして?」
「ラファエルが貴女の鞭を見てみたいらしいわ」
「え、でも」
困った様にこちらを見てはロッテに視線を戻す
「良いわ、見せてあげなさい」
「・・・、分かりました」
教練場に、隣には騎士とロッテ
騎士は流石に離宮内とは言え女性のみを教練場に置く訳には行かないと筆頭護衛騎士が
「何故ロッテも鞭を持って来ているのよ」
「見ていれば分かるわ」
「?」
準備を終えたリリアンちゃんが来る、着けているのは仮面のみで防具はない
「防具無いようだけど・・・」
「必要ないわ、恐らく顔は結婚直前だから念の為ね」
そして、鎧を着せた木人の前に数メートル離れて立ったかと思えば
「えい」
可愛らしい掛け声にピュンッと空気を割く音、次の瞬間にはガランと地面に落ちる兜。
「え?」
隣に控えた騎士が感心したように「おお・・・」と小さく唸る。
「ねえ、今のは?」
騎士に聞くと
「兜を落としたのですね、木人には当たっておりませんのでとても繊細な技術、素晴らしい腕前です」
へえ、と頷く瞬間
パァンッ!と何かが破裂したような音が教練場に響き渡る
見ると木人の顔に一筋の痕
そこからは凄惨な現場であった
木人の顔を只管打ち据えるリリアン
響く破裂音、唖然とするラファエルと騎士。
パァン!パァン!と物凄い音の中にそぐわない掛け声
「えい、えい」
パァンッ
「えい」
そして、
「ふふっ」
破裂音の中に、ひとつ笑い声
仮面で声がくぐもってはいるが、確かにそれはリリアンの声で、笑っていた。
途中、騎士に止めさせようとしたが
「ちょっと、あの間合いに入るには装備が・・・」
確かに、リリアンちゃんが鞭を凄い速度で振り回している
木人を叩いた瞬間には手元に引かれ、それが後方へ戻ってくる、返しが速いのだ、縦横無尽に振り回されている鞭の中、騎士の格好は胸当てと剣のみ、いいから行けとは流石に言えない。
声を掛けても、一心不乱に鞭を振るうリリアンちゃんには聞こえていないようだ
すると横からロッテが
「ふっ」
ギュルリと鞭と鞭を絡めてリリアンちゃんを止める
「リリアンさん相変わらずですね、素晴らしい集中力ですが程々に」
「あっ、すいません、つい・・・」
「汗をかいています、身支度整えていらっしゃい、お茶にしましょう」
「はい、失礼致します」
一礼して一度下がるリリアンちゃん
「・・・ねえ、ロッテ」
「何」
「リリアンちゃんの腕前ってどうなの?」
「天才ね、握って1時間程で基本は押さえたわ」
「あの子どれだけ才能持っているのよ、本も書くし、馬車とか色々あるでしょ」
「素材、馬車に関して言えば元々持っていた発想力ね、リリアンさんから聞いてない?自分は提案しただけで完成させたのは錬金術師や技術者達だって、本も最初はとても拙いものだったのよ、でも書き続けて物語を文章を書く力を付けた、勉強も本人の努力に因る所が大きいわ」
「つまり?」
「才能というなら唯一、鞭の天才というだけね、幸いリリアンさんも楽しんでいてとても良い気分転換になったようだから」
「鞭を振らせてはいたけど他に見せる姿としてはアレだから、人前では持つな、と言ったのね」
「ええ、でも安心して、当然だけど人に振るった事は無いし乗馬用の鞭でさえ馬に1度も振らなかったのよ」
優しい子なの、と
周囲は恐々として気を揉んでいるが、当のリリアンはただ鞭を振り回してストレス発散しただけである、簡単に言えばサンドバッグをただただ殴っていただけなのだが、如何せん令嬢が鞭で木人を打ち据えているのが画的に最悪なシーンであったのは否めない。
「ヴィル、リリアンちゃんが鞭を持ち出して打ってくる事は無いけど、もう怒らせちゃダメよ」
「ああ・・・」
この時決まった、家庭内のヒエラルキーが・・・




