モブ、照れる。
「リリー」
声を掛けられて、ビクリと肩を上げるリリアン。
「は、はい・・・」
声を掛けても、顔どころか目さえ合わせてくれないリリアンにヴィルヘルムもほとほと困り果てていた。
「変わりないか?」
「はい・・・」
「・・・」
「・・・」
いや、あんな事の後なのだ逃げずに返事を返してくれるだけでも御の字だろう、が・・・
「という訳なのだが、恥を忍んで来た、母上助けて下さい」
ラファエルに頭を下げるヴィルヘルム
「ヘタレね」
「ぐ、返す言葉もない、だがどうしたらリリアンが許してくれるのか・・・」
「リリアンちゃんは怒ってないわよ」
「しかし目も合わせてくれないのだが」
「ただ恥ずかしいだけよ、あの日あの時は確かに怒っていたけど怒りはアレでおしまい、どんな顔をしていいのか分からないだけよ」
俺達はもうすぐ夫婦、結婚まで3週間を切っている、これから大丈夫なのだろうか・・・
「ヴィル、貴方今もうすぐ夫婦なのに大丈夫か、とか思ったわね?
話が違うのよ、良い?以前エリザから初夜について話をされたわね、初夜はずっと前から決まっている予定なのよ準備して準備して覚悟して覚悟して、そうしてその日その時を迎えるの、それが今回はその準備の段階で見られたリリアンちゃんの気持ちを考えて見なさい、お化粧はしていない、汗だくで、しかも裸、淑女教育を受けて来た人間にとっては最悪の恥よ、会ってくれるだけでも感謝なさい、きっと本当は顔も見せたくないの、貴方の顔を見たくないのではなく自分の顔を見せたくないのよ」
違いが分からないヴィルヘルムの反応は薄い
「むぅ」
「ヴィルが女心を理解するのは何時になるのかしらね、説明するのも面倒だわ、声を掛けるから身構えられるのよ、抱き締めてキスのひとつでもしてあげなさい、それで解決するわ」
「母上茶化さないで下さい」
「リリアンちゃんの心の平穏の為にも茶化してなんかいないわ、信じられないならエリザにも聞いてみたら良いわよ」
話は終わったあっちへ行けとばかりに手を振られ、部屋を出る。
そのままの足で義姉上の所へと向かう
「もう面倒くさいから押し倒して来なさいよ」
(母上、話が違う!)
「リリアンは照れてるだけでヴィル次第なの、あの子がヴィルを嫌う筈がないのだからしっかり謝って愛でも囁いて来なさいヴィル」
母親と同じ様な事を言われて閉口するヴィルヘルム
「でもヴィル覚えておきなさい、リリアンが貴方を嫌わないと好意を当然と思うようなら、わたくしは許さないから、良いわね?」
「それは、解っています」
「そ、ならいいわ、早く行きなさい侍女には言っておくから」
「ありがとうございます義姉上」
すぐ様リリアンの元へと向かうヴィルヘルム、長引かせるのも良い事は無いし、結婚式まであまり時間が無い、何よりもリリアンにあのような態度を取られて自分でも予想以上に衝撃を受けている、端的に言って辛い。
リリアンが滞在する部屋の前まで来ると侍女がお茶の用意と共に待ち構えて居た
「只今のお時間リリアン様は奥の書斎で本を読んで居られます」
目線を上げることなく言い、部屋の中へと入って行く
それに着いて部屋に入ると侍女は無言で二人分のお茶を用意、隣の部屋への扉をノックして
「失礼致します、リリアン様お茶の時間ですよ」
「はい、いつもありがとうございます、すぐ行きます」
奥からリリアンの声が聞こえてくる
侍女はそのまま会釈して部屋から出て行った、ありがとう義姉上と心の中で再び感謝して書斎へと立ち入る。
近くまで行くとリリアンは顔を上げずに言う
「ごめんなさい、すぐ切り上げるから・・・」
どうやら何か書いている様でヴィルヘルムには気付いていない
「リリー」
声を掛けると同時にそのまま横から抱き締める
「わ、えっ、ヴィー!?」
驚くリリアンに構わず続けて言う
「すまない、俺が悪かった許してくれ・・・」
沈黙が部屋に満ちる、
「・・・、別に怒っている訳ではありません・・・、ただ合わせる顔が無くて、、」
やっと話してくれたリリアンに安心するも、母上が言っていた事を思い出す、合わせる顔がないのは俺の方では無いのか?
何故リリアンの方が合わせる顔が無いのだ、と疑問に思い彼女を見ると目に入る範囲全ての肌が真っ赤に染まっていた、これまで何回も赤面した所を見てきたが今回のそれは熱や病気を疑う程である。
ああ、そうかと合点がいく、母上と義姉上の言う通りだったのだ、恥ずかしくて合わせる顔がない、俺が迷惑を掛けておいて更には迷惑を掛けた本人であるリリアンを悩ませるなど情けない!
母上に「ヘタレ」と言われるのも当然ではないか、愚か者め。
「リリー、本当にすまない、恥をかかせた」
「そうです、私、恥ずかしい思いをしました、、責任、取って下さい」
「ああ、勿論だ、だから顔を上げてリリー、仲直りをしよう」
「・・・はい」
久々に見た婚約者の顔は赤に染まり既に涙目であったが、そのままキスをする
「ん、」
柔らかく暖かな、いつもの香りに安心する
ぎゅっと抱き着いて来たのでこちらも応えるように力を少し強める
「リリー、あの時美しいと言ったのは決して誤魔化しでも何でもない、本心だ」
そう伝えるとリリアンにペタリと頬に平手打ちをされる、勿論全く痛くはない
「・・・ばか」
罵倒されても愛おしいと思う位には俺も彼女に夢中なのだろう、そんな事を思いながら長く長く抱擁を交わした。
それは用意されたお茶がすっかり冷めるまで続いた温かな時間であった。




