後日談から始まって ―2
それを言い出したのはカトレアさまの方からであった。
「あれだけ熱心に協力してくれたのだから、きちんと結果を報告する義務がある」、だなんて。
なんとも潔くて、カッコいいといえばカッコいい……けども、報告される方もそれはそれで困るというか気まずいんじゃないだろうか。
特に、上手くいかなかったことなんて、もう向こうにはとっくに悟られてしまっている感じだし。
サレナはそうも思ったものの、何となくで悟ったままそのことには触れずに今後も接していくというのも、それ以上に気まずいのかもしれないと思い直す。
だったら、いっそ全てをつまびらかにした上で、パーッと笑い飛ばして過去のことにしてしまう方がいいのかもしれない。
それに、そうするのは少なくともカトレアさまがあの二人とこの件を限りに関わりを絶つわけじゃなく、全てをちゃんと知らせた上で今後も付き合いを続けていきたいと思っているからでもあるんじゃないだろうか。
そう考えると、数少ない友人をカトレアさまにもそうやって気に入っていただけたことを嬉しく思う気持ちも出てくる。
そして、あの二人ならばカトレアさまとサレナの期待通りに、こんな悪い報告であったとしても重くなりすぎずに気楽に受け止めて、一緒に明るく笑い飛ばし、慰めて励ましてくれることだろう。そのはずだ、うむ。
であるならば、不肖ながらカトレアさまの妹分であるこの私がその場をセッティングいたしやしょうと、サレナは勇んでそれを買って出た。
ということで、本日四人はこうして中庭の東屋での昼食会としゃれ込んでいるわけであった。
円卓を囲み、四人で楽しく歓談しながらのランチタイム。
サレナの想像の中ではそうなっているはずだったのだが、しかし、カトレアさまの向かい側方面に座るその二人――アネモネとヒースはまるで石を飲み込んだような顔で、気まずそうに固まったままだった。
傍目に見てるこちらにまで伝染してきそうな程、明らかに緊張している。
食べられる気分じゃないのか、昼食にも一切手をつけようとしていない。
おいおい、どうした。こんな状態で報告しちゃって大丈夫なのか?
そりゃ目出度い報告ではないものの、こういう感じの気まずさではなく、なるべく朗らかな雰囲気に包まれての残念会になることを期待していたというのに。
まったくの見込み違いじゃあないか、私の面子をどうしてくれるんだ。
結局サレナもばっちり二人の緊張感をもらってしまいながら、ハラハラしつつ黙って状況を見守るしかない。
一人だけバクバクと食べていたお弁当も急速に味がぼやけてくる。
「……ふぅ」
そんな中で、今まで黙り込んでいたカトレアさまが溜息を一つ吐いた。
みんなで席に着き、手を合わせてからこっち、それを切り出す機会をずっと窺っていたのだろうか。それとも覚悟を固めていたのだろうか。
どちらにせよ、ようやくのことである。というか、異様な緊張感の原因の半分はカトレアさまのそのやたらに焦らしていた態度のせいでもあったのではないか。
そう思いつつも、三人はそんなカトレアさまの動きに敏感に反応し、固唾を飲んで次の言葉を待つ。
「――あのね、アネモネちゃん、ヒースくん。二人に協力してもらっていた件だけれども……」
もちろん"アドニスとカトレアさまをくっつけよう"ということで二人にも色々協力してもらった件である。
カトレアさまは敢えてなのか、そこを直接的には表現せずに前置くと、
「結局、上手くいかなかったわ。ダメだった。ごめんなさい」
穏やかに、だがきっぱりとそう言って、軽く頭を下げた。
「……いや、あや――」
「お姉様が謝る必要などありませんわ!」
それに対して、即座にアネモネがそう大きな声を出してそれを止めさせる。
ヒースも一瞬何か言おうとしていたようだが、完全にアネモネの声に被った上でかき消されてしまい、多少気まずそうに黙り込んで出番を譲ることにしたらしい。というか、"口を開かなきゃよかった"とでもいうような苦い顔をしている。
「でも、あれだけ協力してもらったのに、いい報告も出来なくて――」
「だからと言って、お姉様が悪いことなど一つもありません!」
苦笑しながらそう言おうとするカトレアさまの声を、またもアネモネの大声が遮る。
そして、薄桃色のくせっ毛ツインテールをバサバサと揺らし、全てを否定するように大きく首を振りながら、わなわなとこう呟く。
「悪いのは……悪いのは……!」
思わず面食らったようになるカトレアさまや、同じく何事かといった表情を向けてしまうサレナとヒース。
そんな全員の注目を集めながら、アネモネはぎゅっと目をつぶり、意を決したように言葉を絞り出す。
「悪いのは、アドニスお兄様です……!!」




