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このゲームを百合ゲーとするっ!  作者: 一山幾羅
第一対決
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いつかあなたに伝える(わる)想い ―12

 放課後の生徒会室で二人、サレナはカトレアさまに髪を切ってもらっていた。


 カトレアさまはどこで調達してきたものやら、髪が服にかからないようにするためのケープや床に落ちたものを受けるシートはまだしも、すきバサミまで用意していた。それで丁寧に、サレナの先ほど魔術で乱雑に切り落としただけでバラバラの髪先を綺麗に整えてくれている。


「カトレアさまの手先が器用なのはイメージ通りですけど、散髪まで出来るとは知りませんでした」


 カトレアさまにされるがままに髪先を整えられながらサレナがそう言うと、


「といっても素人だし、ほとんど見様見真似よ。小さい頃はお母様に髪を切ってもらっていたから……まあ大きくなってからもたまに、だけど。それで、自分もそういう風に将来子供の髪を切ってあげられるようになりたいと憧れて、研究したり、練習したりしていたのよ。実験台は自分と……まあ、ルームメイトの子には頭が上がらないわね」


 カトレアさまは淀みなくハサミを動かし続けながらそう答える。

 時折、全体のバランスを見るように手を止めては色々な角度から眺めてみたりして。


「けれど……あんなに長かったものをここまでバッサリ短くしてしまうと、むしろスッキリしそうでちょっと羨ましいわね。この際だから、私も思いきって短く切ってしまおうかしら……フラレた記念に、なんてね」


 冗談めかして微笑みながらそう言ってみせるカトレアさまを、サレナは慌てて本気で止める。


「だっ、ダメです! カトレアさまの艶やかで美しい()(ぐし)は、どうかずっとそのままでいてください!」


 そう言ってから、次に自信満々に、堂々とした態度を意識して、サレナは言葉を続ける。


「それに、昨日言ったように、カトレアさまのそういうことは全部私が肩代わりしますから! ということで、フラレたから髪を切るというのも、私の果たすお役目なんです!」

「なぁにそれ」


 サレナのそんな滅茶苦茶な理屈を聞いて、カトレアさまは可笑しそうにころころと笑ってくれた。

 そんなカトレアさまの笑い声を聞いて、サレナも嬉しくなって一緒に笑う。

 良かった。少なくとも今のところ、カトレアさまは普段通りの調子でいられているらしい。


「――ああ……でも、どうしてかしらね……こうしてあなたの世話を焼いていると……」


 それから不意にカトレアさまが慈しむように目を細め、サレナの髪に指を通して何とはなしに弄びながら、囁くような声で話し始める。

 とりあえずの確認用ということで目の前の机に上に立てられた小さな鏡。その鏡越しに映るカトレアさまが急にそんな艶めかしい雰囲気を纏いだしたのを見て胸をドキドキさせつつ、サレナは緊張して次の言葉を待った。


「私に妹はいないけれど、実の妹がいたらこんな感じなのかしらって思ってしまうわ」


 そして、カトレアさまは何故だかうっとりした様子でそう言ってきた。

 それを聞いたサレナは脱力のあまり思わず椅子からずり落ちそうになるも慌てて踏ん張り、どうにか持ちこたえた。


(は、ハハハ……『ライバル』で、『可愛い後輩』の次は、『妹』ですか……)


 口には出さずに密かにそう思いつつ、サレナは小さく嘆息してしまう。

 しかし、今回はそのまま落ち込んだりせずに、すぐにまた暢気な自分に戻って思い直す。


(まあ、今はそれでもいいか……)


 少なくとも、"ライバルでありただの後輩"という位置からは一歩だけ、二人の関係は前進したと言える。

 実の妹のような存在。今のところは、そう思ってもらえるのも決して悪い気分ではない。


「じゃ、じゃあ、今のところはとりあえず、『後輩』から『カトレアさまの妹的存在』にランクアップということで、これからもよろしくお願いします」

「ええ、そうね。これからもよろしく、かわいい(サレナ)


 サレナが鏡越しに若干ぎこちない笑顔を送ると、カトレアさまも鏡越しに素敵な笑顔を返してくれた。

 そうして仲良く微笑み合いながらも、サレナは胸の中で密かに思う。


 ……でもね、カトレアさまが私のことを『(サレナ)』と呼んでくれても、私の方では絶対に『お姉さま』なんて呼んであげませんから。


 何故ならば、(サレナ)が目指すのはもっとその先、ずっとずっと先の関係なのだから。

 今は"かわいい妹"でもいいけれど、いつかはそこへ辿り着いてみせる。

 恋する人に選ばれなかったあなたがそれを悲しみ続けることのないように、いつか私に夢中にさせて、そして私のことを選ばせてみせる。


 そうやって、いつかこのゲーム(うんめい)を、望む百合ゲー(みらい)に変えてみせる。


 その日のために、今はまだこの想いは大事に胸にしまっておこう。

 いつか、この想いを真っ直ぐにあなたへ伝えることが出来て、それがきっと正しく伝わる時が来ることを信じて。


 そう思いながらサレナは目を閉じ、慈しむように優しく自分の髪を撫でてくれるその手へ、幸せそうに、夢見心地に身を委ねるのだった。







      (『このゲームを百合ゲーとするっ!』  第一対決、これにて決着)

ということで、ここまでが改訂版『このゲームを百合ゲーとするっ! 第一対決』となります。

お付き合いいただいた皆様、ありがとうございました。

続編となる第二対決は近日公開……出来るように只今鋭意執筆中でございます……。

第二対決からはカクヨムと小説家になろうの二つで同時に投稿していくつもりです。

もしもこの先の対決も楽しみにしてくれる方がいれば、引き続き気長に待ちつつお付き合いいただけると幸いでございます。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 素敵な結末。 私は魔法の復活とライバルと関係の再編成を楽しんでいます。 このロマンスの陰謀が終わった今、私はもっと多くの戦いと他の魔法を見たいと思っています。
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