いつかあなたに伝える(わる)想い ―5
「――――」
サレナの意識は、そこでもう何度目かもわからない微睡みから戻ってきた。
ヒースが使っているのだろう卓上魔術照明の明かりが、仕切りカーテンを通してサレナのいる側も薄ぼんやりと照らしている。
窓の外はもうとっくに暗い。いつの間にやら夜のようではあるが――。
「…………」
サレナが自分の机の上にある時計を確認すると、まだ夕食のちょっと前くらいの時間だった。そこまで深い時間ではない。
だが、ここまでやり過ごせれば十分だった。とっくに二人ともデートを終えて寮に戻ってきていることだろう。
これ以上は何を想像してしまいようもない。サレナは何だかようやく解放されたような気分になった。
本調子ってわけではないが、少なくとも普段のように活動するのに問題はない程度にまでは持ち直した。
「ん~……!」
ベッドから身を起こすと、サレナは大きく伸びをする。
体は一日中寝転んでいたせいでガチガチだった。ベッドから降りると、軽くストレッチをして体をほぐしていく。
だが、そうしてぼんやり体を動かしていると、やはりどうしても二人がどうなったのかについてまだ気になる気持ちが湧いてきてしまう。
しかし、二人のデートシーンについてはイメージ出来ても、カトレアさまが告白した後でどうなったのかについては、良い方にも悪い方にもサレナには想像出来なかった。したくないというブレーキも働いているのかもしれない。
……まあいいや。それについては明日生徒会でカトレアさまから直接お聞きすればいいだろう。
いい結果であれば、案外それを聞かずともラブラブな二人を見て全てを察することが出来たりして……。
「…………」
いかんいかん。
そんなことを考えてはまた落ち込むような、胃が重くなるようなモヤモヤに包み込まれてしまいそうになったので、サレナは頭を振ってそれを追い出す。
……ヒースと連れ立って夕飯食べに行くか。
考えてみれば軽い昼食をヒースが黙って机に置いていてくれたのをぼんやりしながら食べたくらいで、それ以来まともなものを腹に入れていない気がする。
きっと、腹が減っているから気持ちがマイナス方向に振れてしまうのだ。そうに違いない。
今も何故だかあまりお腹も減っていなくて何か食べたいという気もそんなにしていないけど、食堂へ行けば空腹も刺激されるだろう。
ヨシ。飯だ飯。
サレナはそう決意すると、ストレッチを終えて、ヒースへ声をかけようとした。
「大変ですわ~~!!」
アネモネがそう叫びながら扉を開け放って部屋へ飛び込んできたのは、ちょうどその瞬間だった。
……何事!?
サレナはその声に驚き、急いで仕切りカーテンを開ける。
カーテンを開けると、その向こうのヒースも驚きに目を丸くしてドアの方を振り向いて固まっていた。机に向かっていた姿勢のままなので、どうやらまた真面目に勉強をしていたらしい。
サレナもカーテンを開け終えると同じくドアの方を向く。
視線の先、アネモネはどうやら大急ぎでここまで走ってきたらしく、そこへさらにあの大声を出したことで酸素を使い切ったのか、ぜいぜいと肩で息をしていた。
「何が大変なんだよ、アネモネ」
とりあえず、ヒースがそう問いかけた。
アネモネの様子があまりにも尋常でないため、いきなり大声出して部屋に飛び込んできたことに対する不愉快さなど乗っていない、百パーの疑問と気遣いのみの言葉だった。
それに対して"少し呼吸を整えるから待って"と言うように片手を上げて応じながら、アネモネは深呼吸を繰り返して徐々に呼吸を落ち着けていく。
そして、ようやく喋れるくらいまで整ったと判断したところでバッと顔を上げ、サレナ達を見ながら叫……ぼうとして、何かに気づいたように急ブレーキで音量を落としつつ、言う。
「か、カトレアお姉様がまだ寮に戻ってきておられないのですわ!」




