恋するあなたに恋してる ―10
「それで、コイツが変なお前の変な友達で、今まさにオレまでそこに仲間入りさせられたことはわかった。納得は……出来てたまるかって感じだが、まあ、それもとりあえずは一旦置いといてやる」
一方は満面の笑顔で、もう一方は疲れ果てたような顔での握手を終えた後で、ヒースはそれでも何とか気を取り直し、サレナへ改めての問いかけを発する。
「それはいいとして、お前ら次は一体オレを何に巻き込む気なんだ?」
そう問われて「そう言えばこいつには何も説明してなかったな」ということにサレナは改めて気づいた。
そして次に、「一体どう説明したものか」と、しばらく腕を組んで思案する顔つきをしてから、ようやくそれがまとまったのか口を開く。
「私が書記やってる生徒会の副会長こと敬愛する先輩のカトレアさまが、生徒会長のアドニス先輩に片想いしてるから、私達でその恋の成就をお手伝いして二人をくっつけようって計画」
「ほう……なるほど、大体わかった」
サレナの簡潔な説明に感心したようにヒースは頷いてみせた後で、
「くだらねぇ。どうしてオレが顔も知らんお前らの先輩の恋を後押ししてやらなきゃいけねえんだよ」
心底興味のなさそうな声でそう言うと、自分の机に戻ろうとする。
その腕をサレナは慌ててガシッと掴んだ。
「ちょっと! 少しくらいは協力してくれてもいいじゃない! 友達が困ってたら助けるものでしょ?」
「そーですわ! そーですわ!」
サレナがそう言うのに合わせて、アネモネもヒースに詰め寄って抗議の声を上げる。
「うるせえ! 大体まずそこのところから納得してねえって言ってんだよ、こっちは! 助ける以前の問題からオレに歩み寄れ!」
まとわりついてキャンキャン吠え立てる小型犬を振り払う大型犬のように、ヒースは大きくそう吠えた。
その態度にむ~っとサレナは唸った後で、仕方ないとばかりに溜息を吐くと、あっさりと最後の手段に打って出ることにする。
「あっそう。しゃーない、あんたがどうしても嫌っていうなら――」
穏やかな声でそう言いつつ、サレナは手の甲をヒースに向ける形で片腕を掲げて、そこに魔術発動準備の証である発光回路を纏わせ始めた。
「テメッ――いきなり実力行使か!? 文明人なら言葉使えよ!?」
ヒースが慌ててそう抗議してくるが、"まったく聞く耳持たず"とでも言いたげな表情のまま、サレナはサービスで発光回路の色を三色に増やしてやる。
三属性合成発動の魔術など一般的な基準からはもはや想像を絶する代物であるし、サレナは必要となれば躊躇なくそれをぶっ放す――多少威力は調整はするだろうが、それでも間違いなく酷い目に合う。
ヒースはその三色回路を見て即座にそう判断したのだろうか、
「……わかったよ。協力するから勘弁してくれ……」
ガックリと肩を落として、蚊の鳴くような声でそう言った。
それは言外に「何故自分は女と相部屋にされた挙げ句その女に暴力で脅されているんだろう……」という、心底不可解な状況への嘆きを含んでいるような声であった。
それを聞いて、しかしそんな嘆きには一切取り合うつもりもなく、サレナは何食わぬ顔で発光回路を散らすと、満足そうに頷く。躾はきちっと行き届いているようだ。
アネモネは「それでこそですわ~!」などと言いながら嬉しそうにヒースの背中を叩いていた。この子もこの子でかなり暢気なものであった。
さて、とにもかくにもこれでメンバーは揃って、合意も(半強制的に)得られた。
サレナは深呼吸をすると、友人二人に向かって呼びかける。
「さあ、それじゃ改めて作戦会議を始めるわよ!」




