南雲機動部隊、202X年台湾有事にて斯く戦えり
西暦202X年5月23日台湾周辺空海域で演習中の中国軍が台湾への侵攻を開始した。
日本は南西諸島の住人避難を完了すると、存立危機事態を宣言、韓国、オーストラリアと共に参戦した。
開戦初頭、台湾空軍、空自の勇戦で航空優勢を確保した台、日、韓、豪連合軍は中国大陸の軍事基地を無力化し、過半数の水上艦艇を撃破した。
しかし、既に台湾に上陸した中国陸軍と激突する台湾陸軍への補給に海自の護衛隊群があたり、やはりその過半数を撃沈された。
そして、双方弾道ミサイルによる嫌がらせの様な戦いを繰り広げ、特に日韓には民間人への被害も出ており、国土はまさしく焦土と化し、様相は泥沼の様相を呈していた、ウクライナ紛争の様に。
西暦202X年11月29日
「涼宮さん、今日は午後休じゃなかったのですか?」
「この仕事片付けてからって、ね?」
涼宮涼子は中堅電子部品メーカーの設計を担当する女性だった。
5年前に結婚し、娘を授かり、復職したばかりだが、発熱で幼稚園を休んだ娘が気になり、やはり午後は休暇をとろうと決めていた。
「それでは課長、仕様書はまとめました。審査をお願いします。修正箇所は明日にお願いします」
「すまんね。助かるよ。でも午後は早くお子さんのとこに行っておやりなさい」
「はい。そう言って頂けると嬉しいです。祖母の話では38℃止まりなので、インフルとかコロナではない様なので、少し安心してはいるのですが・・・」
「お子さんにつける一番の薬は親の愛情だよ」
そう言ってにっこり笑う涼子の上司。いい上司、会社に恵まれたと実感するも・・・。
「・・・これで戦争が終わってくれたなら」
一瞬、周りの雑談が止まったかの様に彼女は感じた。それは誰もが感じている共通認識だったのだろう。
「それでは失礼しま一」
涼子が挨拶をし、その場を去ろうとした瞬間、激しい爆音と振動が襲った。
「な、何?」
「あれ、何?」
「・・・ま、町が」
皆の視線が集まる窓に涼子が目をやると・・・そこには巨大なキノコ雲が立ち昇っていた。
「あの方向は・・・ま、まさか」
涼子の顔が真っ青になる。何故なら、横浜の街の空気を一瞬に強張らせた異形の白雲は自宅の方向かと思えたからだ。
慌てて携帯を取り出し、娘のアドレスをタップする。
しばらくコールすると、娘が出た。
「ひ、ひなた? 大丈夫? 大丈夫だよね? どこも怪我してないわよね?」
慌てて口調が早くなる。だが、娘が携帯に出たことで安堵する。
「お、お母さ・・・ん。い・・・たい・・・よ、う」
「ひなたぁ!」
安堵から一転、断崖絶壁に突き落とされる涼子。
「い、今うちに向かうからね。大丈夫よ。絶対に痛いの治してあげるからね」
「・・・」
涼子は慌ててカバンを手にすると、社を去り、タクシーを拾って自宅に急いだ。
「ひなた、大丈夫だからね。どうなってるの? どこが痛いの?」
「お・・・お腹、痛い・・・の」
「どこかに打ったの?」
「わ・・・んない。でも赤いのが出てる」
悲鳴を辛うじて押し殺して、娘が危急の時だと知る。
「も、もう話さなくていいから、お母さんがきっと助けてあげるから!」
だが、非情な言葉がタクシー運転手から告げられる。
「お客さん、どうやらここから先は進めないようです。・・・その、お気持ちはお察ししますが」
先の道路は通行止めになっていた・・・あと10分も走れば自宅だと言うのに。
そして、それは自宅が爆心地から近いという証左でもあった。
タクシーを降り、徒歩で自宅に向かおうとする涼子、その手には携帯が握りしめられていた。
「お・・・母さん」
「駄目よひなた、喋っちゃだめ! お母さんがきっと、きっと!」
「お・・・かあさんに・・・あい・・・たかったよ」
「も、もう目の前だから、すぐ近くに来てるから!」
「め、目・・・が見えない・・・の」
思わず息を呑む。
「痛い・・・よ。寒い・・・よ」
段々弱くなるその声に生気は感じられなくなった。
「・・・ひなた」
「大好きだよ・・・お母さん」
「ひなた。お願いだからそんなこと言わないで」
そしてついに娘からの返信はなくなり、携帯の通話がプツンと切れる。
「ひなたぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
思わず絶唱する。そして心に鬼が住まう。
中国が憎い、娘を殺した中国が憎い。日本を助けてくれなかったアメリカが憎い。
「どうして誰も助けてくれないのぉ!!!!」
その瞬間、目の前が真っ白になる。自身もまた、核攻撃の犠牲者になった・・・気づく・・・間は無かった。
202X年12月8日
「あれが謎の艦隊ですか?」
「ああ、三沢の無人機シーガーディアンが捕捉した。だが、突然現れたとしか思えん」
「確かに空母六隻を基幹とする機動部隊が沖縄と九州を結ぶ哨戒網を抜けて東シナ海に侵入できる筈がないですね」
「ああ、だからと言って、台湾海峡を抜けて現れたとも思えん」
俺は護衛艦あたごに乗艦し、謎の艦隊との接触を命じられていた。
中国との激戦で半減した中、貴重なイージス艦を危険な海域へ侵入させる理由は突然現れた謎の艦隊。
国籍不明、航空機からの呼びかけにも答えない。
・・・しかも。偵察機からの報告では、それは第二次世界大戦の南雲機動部隊としか思えないという眉唾の連絡だった。
その為、俺が艦隊と接触、可能であれば直接かの艦隊指揮官に会い、所属を明確にし、危険なこの海域から退避を告げる、それが俺の任務だった。
「見ろ、あれが機動部隊直援の戦艦だ」
「こ、金剛級・・・戦艦」
視界に現れたのは、旧時代の戦略兵器、リバイアサンとも言うべき一撃必殺の巨砲を多数搭載した海の巨龍。
だが、俺は違和感を覚えた。・・・あの戦艦の艦橋。
「いや、まさか」
「そうだな。まさか、あれがフェーズドアレイレーダーな訳がないな」
あたご艦長と意見が会う。煙突から黒煙を吐き出し、巨大な大昔の船である事が間違いない戦艦。そんな戦艦の艦橋にレーダーなんて備わっている筈がない。
「艦長。国際VHFでの呼びかけに反応がありました」
「わかった。涼宮二尉に回せ」
俺は通信士からヘッドセットを受け取り、交信を開始する。
「こちら、日本国海上自衛隊第二護衛群護衛艦あたご。貴艦の所属と目的をご教授願いたい。また、可能なら、貴艦に同乗し、直接顔を合わせて事情を伺いたい」
「こちら帝国海軍第一航空艦隊旗艦赤城、我が機動部隊は秘匿任務の最中、謎の発光現象に巻き込まれ、突然この海域に現れた。貴殿の赤城への乗艦を許可する。仔細を説明されたし」
交渉は成立した。俺はヘッドセットを通信士に返すと、後ろ甲板のヘリに向かった。
艦長と通信士が細かいすり合わせを行ってくれるだろう。
先ずは旗艦赤城で司令官に会い、事情を説明してこの海域から退避願う。
ヘリが爆音を響かせて、上昇すると、南雲機動艦隊の全容が見えた。それは威容。空母赤城の他、加賀、飛龍、蒼龍、翔鶴、瑞鶴、戦艦比叡、霧島、重巡利根、筑摩、駆逐艦多数。
「・・・これが最新鋭の空母機動部隊だったら」
俺の独り言に突っ込むものはいなかったが、おそらく皆同意見だっただろう。
「日本海上自衛隊艦隊情報群二尉涼宮伊織です」
「帝国海軍第一航空艦隊司令、南雲忠一だ」
右手を差し出すと、握手に応じてくれた。どうやら敵扱いではないらしい。
「先ずは私の公室にご案内しよう。ここは何処かはわかったのだが、合点がいかない点があり過ぎて我が方も混乱しておる」
「はい、それはお察し申し上げます。少なくとも、ここは私達の知っている海域です」
うむ、と頷き、提督の執務室兼会議室に通された。
「では、君はここが90年後の日本近海、東シナ海だと言うのかね?」
「そうです。理由はわかりませんが、貴艦隊は90年前の帝国時代の機動部隊としか思えません。そして、問題はここが危険な海域だという事です。至急この海域から退避してください」
う、む。と、顎に手をやり南雲指令は考える風だ。だが、早急に退避しないとこの艦隊の人命が危険にさらされる。既に中国軍には発見されている可能性が高い。早く退避させないと、数千人の人命が失われる。
「この海域が危険という。ならば、この時代の敵国はどこか? まさかアメリカに台湾やフィリピンまで陥落させられたのか?」
「いえ、現在のアメリカは準同盟国です。我が国の敵は中国です」
「・・・なんと。どうやら陸介は中国大陸でヘマをやったようだな、だが、敵が中国と言うなら、我が艦隊も貴国に力を貸そう。代わりに食料や燃料の補給を要望したい」
俺は言葉を選んで話した。怒らせては元も子もない。
「大変申し上げにくいのですが、これは現在の我々の戦いです。90年前の皆様のお力をお借りする訳には参りません。もちろん、人道上、食料の補給などは実施されると思います。一旦退避頂き、安全な処で我が国の然るべき機関と今後の生末を話しあわせて下さい」
「いや、もう遅いと思うぞ」
「どういう事ですか?」
俺は訝しんだ。一体何を?
「この海域に現れた時点で偵察機を複数飛ばしたのだが、北西から空母機動部隊が近づいておる。1時間程前から無人偵察機がウロチョロするので、牽制や威嚇射撃を実行したが、去る気配がないので、止む無く撃墜した。既に我が艦隊は敵機動部隊とおぼしき脅威への対応として、第一次攻撃隊発艦準備に入りつつある」
俺は氷ついた。既に中国機動部隊に補足されている。しかも航空攻撃の用意? 無駄死にだ。何とかやめさせないと。俺は断腸の思いで、やや失礼な発言をする事にした。
もしかしたら、軍刀で斬りつけられるかもしれない覚悟で。
「閣下、大変申し上げにくいのですが、零戦などでは中国軍のジェット戦闘機に太刀打ちできません。搭乗員の命を無駄に散らすだけです。何卒再考と、退避を検討下さい」
「搭乗員? 何を言っておるのだ? 零戦に搭乗員など乗ってはおらん、あれは無人機だからの」
「はぁ!?」
思わず場を弁えぬ言葉が出てしまった。南雲指令は今、何と言った?
零戦が無人機? そういえば、ウロチョロしている偵察機を無人機と・・・何故南雲指令はその様な知識を? 90年前に無人機の概念などある筈がない。
公室のドアをノックして入って来た武官が敵機来襲を告げる。
「南雲指令。北西220海里(約400km)の敵空母から艦載機が発艦した模様です。ジェット機なら10分程度で攻撃圏内に入ります」
「至急退避して下さい。この距離からの航空攻撃なら電磁カタパルト装備の空母福建です!」
「すまんね。どうやら今更戦いは避けられないと思うぞ。今から退避して間に合うのかね? この艦は40ノットしか出ないのだ。君も艦橋に来ないか? 我が艦隊の奮戦を見てもらいたいものだね」
「承知いたしました。是非お願いします」
俺はここで死ぬのだろうか? だが、南雲指令の言う無人機。もしかして、彼らは俺の知っている南雲機動艦隊とは違う存在なのではないかと疑う。
無人機の概念が90年前にある筈がない。
艦橋に上り、俺は驚いた。そこには液晶ディスプレィとしか思えない端末が並び、上部には大型ディスプレイで敵艦隊、および敵機の座標が見てとれる。
「戦艦比叡、霧島に対空戦闘準備発令。捕捉した敵艦隊は日本の敵。すなわち我が艦隊の敵と判断する」
「アイ、サー。比叡、金剛、対空戦闘準備」
「指令、敵艦隊を追尾していた無人偵察機が撃墜されました」
「うむ、やられた以上100倍で返さんとな。比叡、金剛、対空戦闘開始」
「・・・」
俺は無言で凄まじいオーラを放つ提督と指揮官達の圧に押しつぶされそうになった。
そして、近くを航行する戦艦からミサイルがVLSより発射されて行くのを見てとる。
唖然としている俺の顔を見た指令が声をかける。
「貴殿の戦闘艦にはミサイルは搭載されておらぬのか? それともこの時代の軍艦はより性能の良い兵器を? 貴殿の乗艦は我が軍の標準的な重巡程度の装備に見えるぞ。もっとも、何故、砲がああも小さく、一門しか装備していなのか不思議で仕方ないが」
「我が国、と言いますか、この世界の軍艦は砲よりミサイル戦闘を重視しておりますので」
「成程。それは一理あるな。それに90年先の兵器なら、さぞかし凄まじい威力の兵器を搭載しておるのだろう。故に未だに我が艦隊に随伴しておるのだろ? まあ、あてにしている訳ではないぞ。中国軍程度、我が艦隊で十分だろう」
俺は呆然とした。これは南雲機動部隊ではなかったのか? 90年前のレシプロ機を主力兵装として戦う船ではなかったのか?
「・・・あッ!!」
俺は眼前に並ぶ飛行甲板に目を移し、目を白黒させた。
やはり無人機。まるでアメリカ軍のFQ44の様な姿。当然ジェット推進。それに後続の後ろにプロペラがあるMQ9の様な形の攻撃機とおぼしき無人機。
「先頭のが零戦じゃ。ジェット化されたのはいいが、飛行甲板が焦げるのが難点じゃ。一応耐熱処理はしておるんじゃが、どうにもこれは装甲化せんと無理じゃな」
「あれが零戦ですと、後続のは99艦爆、97艦攻ですか?」
「有無、その通りじゃ。カタパルトで発艦するからものの10分で空中集合するぞ」
俺は呆然自失となった。・・・その時。
「初弾スプラッシュ」
誰かがそう叫ぶ。何これ? 全部現代戦じゃね?
もう、俺はなんだか、そう、多分これは夢だ。夢を見ているに違いないと思った。
それに比叡と霧島の発射するミサイルの射撃速度から俺は恐ろしい想像に行きついた。
「南雲指令。恐れ入りますが、軍機に触れない範囲で教えて下さい。戦艦比叡と霧島の対空ミサイルの射撃速度早すぎませんか? 短距離ならともかく、100kmを超える長距離でどの様な管制を行っているのですか?」
「う、ん? 何を言っておるのかね。イージスシステムに決まっているじゃないかな?」
もう、俺、訳が分からないです。
そうこうしているうちに艦載機の発艦が完了し、空中集合を終えて敵機動部隊に向かって行った。
「敵旗艦と思しき空母撃沈、巡洋艦、駆逐艦全て撃破しました」
「戦闘が終結したら、駆逐艦を数隻該当海域へ派兵し、救助活動するしかないな。中国艦艇はやはり満足な対空兵装を持っておらぬか。まあ、満州で小銃相手に徒手空拳で闘っておった奴らじゃからな」
散々俺達海自を苦しめた空母福建をあっさり撃沈? これは夢でも悪夢の類か?
現代中国軍はそんなに弱くありません。90年前の中国軍とは違うんだから。
そもそも相対距離200kmで対艦ミサイルとか極超音速滑空誘導爆弾で飽和攻撃されたらアメリカ軍空母でも残存は無理、無理なんだから。なんかキレそうになる。
「南雲指令、偵察機が北西距離1900海里(1000km)に敵艦隊を発見。空母を擁する機動部隊と見られます」
空母山東だ。スキージャンプ式だから福建よりは能力は劣る、空母遼寧は俺達海自がいずもと差し違えで撃沈したからな。
「・・・1900海里では航空攻撃の範囲外じゃな」
良かった。航空機の航続距離はアメリカ軍と同程度か。それ以上だったら、どうしようかと思った。
「戦艦比叡、霧島により長距離滑空誘導弾による攻撃を敢行する!」
「ふげッ!?」
思わず変な声が出ちゃった。
滑空誘導弾? 俺達自衛隊の装備にも弾道弾として長距離滑空弾という極超音速弾道弾がある。それを戦艦が発砲出来る? 空母より戦艦の方が射程長いとかどういう事?
「偵察機より射撃緒言来ました。CIC接続良好、比叡、霧島のデータリンク正常、射撃準備良し!」
「主砲射撃開始!」
ドンッという凄まじい戦艦の主砲の轟音と共に滑空弾が次々と飛んで行く。
俺はとんでもない歴史的瞬間に居合わせているのではないか?
自衛隊を散々苦しめた空母福建、山東からなる中国主力艦艇が海の藻屑となれば、自衛隊の残存兵力だけで台湾海峡の航空優勢が取れる。制海権も取れる訳だから、台湾への陸自の揚陸作戦も実行可能だろう。
中国潜水艦群は既に台湾への補給とシーレーン防衛の過程であらかた撃沈している。
もっともこちらの潜水艦隊も壊滅しているが・・・。
「敵空母に着弾。速度低下」
「後、二三発で沈むな」
俺は自分に何かたぎるものを感じた。
「敵空母撃沈!」
「バンザーイ!!!」
皆が俺を見る。思わず、俺は叫んでしまった。
気が付くと涙があふれて止まらない。これで日本は勝てる。この戦争の犠牲になった娘と妻の仇がとれる。この事は心に栓をして絶えず考えないように軍務に勤しんで来た。
それが堰をきったかのように感情が蘇った。
気が付くと、一隻、また一隻と撃沈する度に艦橋内で万歳三唱が響き渡る。
戦いを終え、俺はこれまでの中国との開戦の経緯を南雲長官に説明した。
そして、南雲艦隊が俺達の知っているものとは全く異なるという見解を示した。
つまり、タイムスリップでは無く、別の世界線からの転移。
南雲提督は時々頷き、興味深く聞いていた様だが、俺に唐突に聞いて来た。
「君は涼宮という性だね。日本では極めて珍しい性だ。もしかして、涼宮涼子嬢の家族か親戚ではないかね?」
「りょ、涼子は私の妻です! 中国軍の核攻撃で・・・」
「いや、涼宮涼子嬢は生きている。我ら日本軍が急速に発展したのは一人の天才電子科学者の存在が原因じゃ。彼女は突然山本五十六大将閣下の屋敷内に現れ、自分は・・・確か令和の世界から来たと言っていた。そして、最初は三極真空管を発明し、その後はトランジスタ・・・欧米人はアジア人にそんなモノが発明出来る筈がないと特許もノーベル賞も蹴られたが、わが軍はその戦略性に気が付いて彼女を保護して軍の兵器開発に尽力頂いた」
「つ、妻はあなた達の世界で生きて?」
「いや、10年前に突然失踪した。見ていた者の話しだと、青く輝く光に包まれて突然姿を消したそうだ」
「・・・そうですか。で、でも、妻は生きているんですね。それがわかっただけでも」
俺は中国の核攻撃で妻と娘を失っていた。だが、もしかしたら、妻は生きているかもしれない。妻は電気関係の開発や設計の仕事をしていたのだ。南雲長官の話と一致する。
「ところで、我が艦隊は元の世界に戻れるのだろうか?」
南雲長官はこれまでと打って変わって神妙な心持で聞いて来た。
「断言は出来ません。こんな事象はこの世界でも前例がございません。・・・しかし、希望はあります。SF、空想科学小説などに良く登場する概念なのですが、歴史矯正能力。つまり、本来あり得ない存在の貴官らは元の世界に戻る力が働くのではないか? というものです」
「そうか。それに一縷の望みをかけるしかないな。それに涼子嬢もこの世界に帰還できる可能性がある」
こうして俺は空母赤城を後にして護衛艦あたごに戻り、報告を行った。
その後、南雲艦隊は南シナ海に進軍し、中国水上艦艇をあらかた撃破。ベトナム近くまで進撃し、秘匿されていた軍事施設や輸送船を撃破した。
そして、護衛艦あたごが見守る中、西暦202X年12月9日青白い光に包まれて忽然と姿を消した。
その後、台湾への上陸作戦が敢行され、この戦いに終止符が打たれた。
台湾独立は保たれ、中国軍の戦死者は30万人を超えた。
そして、この事実がグレートファイヤーウォールでも隠し切れない事態となり、遂に中国国民は蜂起した。
202X年8月15日、上海沖、空母かが艦上で中国臨時政府との正式講和が執り行われた。
・・・戦争は終わった。
平時に戻ったが、俺は何処か空虚なものになっていた。戦争という存在が妻と娘を失ったという悲しみを誤魔化していた。
だが、その戦争が終結して、俺の心に深い悲しみが散り積もっていた。
唯一の希望は南雲長官が話していた涼子がもしかして帰って来るかもしれないという淡い望み。
・・・だが、一年待っても、二年待っても涼子は帰って来なかった。
三年目の10月、俺はふらりと横須賀の花火大会に行った。
ここは俺と涼子が初めて出会った場所、そしてプロポーズした場所。
俺達にとって思い出の場所だった。
花火が上がり、たまやーなどと平和を謳歌する人々が恨めしくも思う。彼らに罪はないが、どうしても羨ましい。
「・・・涼子」
花火を見上げながら思わず妻の名を呼ぶ。
「・・・あなた」
思わず身体が硬直する。妻の声? これは夢? 幻聴か? ・・・それとも?
俺は期待が裏切られた時の落胆と、もしかしたらという希望から、ゆっくりと後ろを向いた。
・・・そこには・・・涼子がいた。
「涼子、お帰り」
「あなた、ただいま」
俺達は互いに抱きしめあって、涙を流した。
俺は、そうか・・・俺達の戦争は終わったんだ、と、ようやく理解した。
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