第284話 二宮との取引2
「皇さんと石動さんはずいぶん親しいんですね」
(親しいというか本人だったというか……)
「はい、石動は昔から知っている間柄です。当事務所と翔動社が資本提携した関係で、石動からその情報を得ました」
本当は翔太がさくら放送買収の情報を知っていて、石動を動かしているのだが、こう言ったほうが説得力があるだろうと翔太は考えた。
「石動さんはどこからその情報を?」
「申し訳ありません、それは機密情報になります。しかし、それだと二宮さんがこの情報を信じる理由がないですよね……」
二宮の疑問は二つあるだろう。
一つは本当にさくら放送が買収され、メトロ放送の経営に影響するのか。
もう一つは石動が買収阻止に動いたとして、それを実行できるかだ。
前者は船井の動きが公になれば疑問はすぐに解消されるだろう。
問題は後者で、翔動の具体的な動きを二宮に伝えることはできない状況だ。
翔動のようなできたての零細企業が百億単位の金を動かし、企業買収競争に加わっているといっても、信じてもらえる可能性は極めて低いだろう。
「私は何をすればいいですか?」
「ええっ!? この話を信じるんですか?」
「キリプロさんがそこまで動いているということは、情報に信憑性があるように思えます」
今の翔太は霧島プロダクションの役員であり、社会的にはそれなりに信用を得やすい立場である。
二宮は翔太の肩書を信用しているのかと思ったが、彼女の次の発言でそれが否定された。
「それに……皇さんが私に嘘をつく理由がないと思います」
(だ、大丈夫か……この子?)
翔太としては二宮が怪しい投資詐欺などに騙されないか心配になった。
「あの……私に話しかけてくる人たちは、自分を大きく見せようと嘘をつくんですよ。それで、私は相手が嘘を言っているかどうかが分かるんです」
二宮の発言は翔太としてはにわかに信じられない内容だが、神代という前例があることから、とりあえずそういうものだと思い込むことにした。
どんな理由であれ、翔太の発言を信じてもらえるのは今の状況ではありがたかった。
「ある人物を刈谷さんに紹介していただきたいんです――」
→→→
あれから翔太はシュナイダーを刈谷に紹介してもらうよう二宮にお願いし、刈谷の動きを掴むことができるようになった。
その後は石動の活躍もあり、さくら放送の買収は阻止され、メトロ放送の経営体制が脅かされることもなくなった。
その意味で、二宮はオペレーションイージスの影の功労者とも言えるだろう。
「本当に驚きました。全部皇さんの言ったとおりになりましたね」
二宮はキラキラした目で翔太を見つめていた。
彼女から見れば、翔太の発言どおりに事が進んだため、翔太のことを預言者か何かだと思われてもおかしくはない。
「それで、独占取材の件ですが」
「お受けいただけるんですか!?」
「!!!」
二宮の大きな声で、メトロ放送の社員食堂では注目が集まってしまった。
彼女はそれに気づいたのか、「すみません」と、慌てて声を落とした。
「元々お約束していましたし、二宮さんのおかげで石動が動きやすくなりましたから」
翔太は二宮に協力を依頼する代わりに、石動に対する独占取材の権利を与える約束をしていた。
ちなみに、石動本人の了承は取っていない。
翔太としては、これで二宮との貸し借りを清算したつもりであった。
「あ、あの……皇さん」
二宮はもじもじとしながら翔太を上目遣いで見つめて言った。
ほとんどの男性はこの表情だけで、コロっといってしまうだろう。
「お仕事ではなく、個人的にご相談したいことがあるんです」




