第221話 女子寮
「なんだその危険極まりない単語は……でも、そうなるのか……」
翔太は慄いた。
よく考えれば、ここは雫石の部屋の間取りからして単身者用の物件だった。
そうなると、同じ事務所関係者だとしても男性を居住させることのリスクは高い。
「初歩的なことだよ」
星野は名探偵のごとく言った。
翔太が状況を理解したことを察知したようだ。
「んじゃ、事情聴取するかの」
「ちょ……」
星野は翔太の手を引っ張り、自室に連れ込んだ。
***
「これはマズイ……限りなくマズイ」
翔太の脳内で、赤信号が煌々と点灯していた。
雫石の部屋で行った行為は業務の範囲であり、仮に第三者に見咎められたとしても正当性が認められるだろう。
しかし、今の状況は男子禁制とも言える敷地内で、アイドルと密室で二人きりである。
どこをどう切り取っても、問題にしか見えなかった。
星野の部屋は落ち着いたトーンの家具が揃えられ、整然とした雰囲気だった。
女性らしさを感じるのはドレッサーだけというシンプルな空間である。
アイドルとして活躍する星野はステージ上ではあどけなさや女性らしさを前面に押し出しているが、部屋の雰囲気はこれを感じさせる要素がなかった。
この状況から、星野がアイドルという役柄を演じていることを示唆しているように思われた。
「へっへっへ……優しくしてやるけぇのぉ。おとなしく身を任せんさい」
「シャレにならんから止めてくれ……」
星野は両手をワキワキとさせていた。
翔太の緊張をほぐすために、あえてこう言っているのだろう。
私服ですっぴん(と思われる)の星野は、アイドルをやっているときよりも大人びて見えた。
普段から見せるあどけなさはなく、落ち着いた雰囲気がより彼女の魅力を引き立てた。
琥珀色の瞳が至近距離にいる翔太を映し出し、取り込まれそうだった。
「ほんじゃ、話聞こか」
***
「なるほどのぉ。ひかりんは大変そうだのぉ」
翔太は雫石が両親と折り合いが悪そうなことを共有した。
個人情報であるが、これから中学生になる隣人が一人暮らしをする理由はいずれ知らされることになるだろうと判断した。
(それにしても、俺はここに座ってていいのかな……)
翔太は星野のベッドに座っていた。
落ち着いたグレーのベッドカバーは女性の部屋にいることを感じさせないが、うっすらと漂ってくるいい匂いが背徳感を感じさせている。
「おそらく、雫石は仕事、学校、私生活、どの場面でも孤立していると思う」
「で、あたしにお友達になってくれということかの?」
「話が早くて助かる」
「しょうたんにしては、珍しいことをしよるなぁ」
翔太は越権行為をしているという自覚があった。
神代と境遇が似ているという橘の発言が、どうにも気になっていた。
「まぁ、あたしもお隣さんとは仲良くやっていきたいからな」
星野は前向きに検討しているようだ。
「せっかくなので、対価をもらおうかの」
「強請るのかよ」
「無事にここから出たかろ?」
「うっ……」
不可抗力とはいえ、今の翔太は漢軍に包囲された項羽のような窮地に立たされていた。




