第217話 卒業式
「ひかりちゃん、いせきするんだね」
「ええ、幸運なことに、霧島プロダクションと契約させてもらうことになったの」
雫石と同じクラスの遠藤は、とても同い年とは思えないほど大人びた少女に、尊敬の念を抱かざるを得なかった。
雫石(校内では本名で呼ばれている)は出席日数が少ないものの、成績はトップクラスであった。
超人的なスケジュールをこなしているにも関わらず、いつ勉強しているのか、遠藤は不思議で仕方なかった。
「くまりーと、同じじむしょになるんだっけ?」
「そうなの。デビュー前から憧れの存在だったから、とても楽しみなのよ」
遠藤はほっとした。
雫石と会話していると、大人と会話しているように錯覚させられるが、神代に関連した話題になると、年相応の顔を見せる。
「映画でもきょうえんしたんだっけ?」
「そうなのよ!」
「うわっ!」
あまりの食いつきに、遠藤は面食らった。
彼女は神代のことになると、平常心を失うようだ。
「もう一つ映画に出てたよね? あのイケメンの――」
「あれは、おまけのようなものよ」
「ええっ!?」
映画『沈黙の証人』の主演を務める狭山は、小学生にも人気がある。
しかも、雫石は助演であり、どちらが重要であるかは子供でも理解できる。
(ひかりちゃん、男子にはきょうみないのかな……?)
年が離れているとはいえ、トップアイドルに歯牙にもかけない雫石の態度は、いかにも大物といった風格を感じさせた。
「それにしても、ひかりちゃんの答辞すごかったねぇ」
「あんなの、大したことないわよ」
「そんなことないよ! 大人たちも感動してたよ?」
雫石の小学校では、卒業式が終わったところだった。
壇上での雫石の演説は圧巻であった。
遠藤にとっては難しい内容であったが、おそらく高校生レベルの演説ではないかと思われた。
その証拠に、保護者や教諭らが感心しているどころか、演説に魅了されているようにも見えた。
「遠藤さんは、これからご両親と?」
「うん、卒業祝いにお外でごちそうなんだ」
「あら、いいわね」
「ひかりちゃんは?」
「両親は忙しくて、今日は私一人ですわ」
遠藤は余計なことを聞いてしまったと後悔した。
雫石の家庭は何やら複雑そうだ。
当の雫石はそのことについては何とも思っていないようで、泰然としていた。
「「……」」
雫石の凛とした姿勢と美しさは、周りの視線を集めていた。
そのあまりの気高さに近づける者は誰一人としていなかった。
(わたし、ひかりちゃんと同じクラスでよかったぁ)
遠藤は密かな優越感を覚えていたところで、一人の男性が校門で待っていた。
芸能界の関係者なのか、狭山と同じくらい端正な顔立ちをしていた。
「なっ……なんで……?」
雫石はこれまでのすました表情から一変して、小刻みに震えながら何かに耐えているようだった。
「あー、雫石……あれ、ここじゃ違うのか? とにかく卒業おめでとう」
男性はぶっきらぼうに言い放った。
「ったー!」「うおおぉぃ」
(えええええっ!?)
遠藤は驚愕した。
雫石は男性に駆け寄り、飛びつくように抱きついた。




