96.竜王子カイルーン
私たちは竜王国スカイ・フォシワへと向かって、空の旅をしていた。
行く手を阻む雷をポーションで無効化し、さくっと王国の入り口を目指す……。
「! お姉ちゃん! 何かが来るのです! ものすごい速さなのです!」
ラビ族の奴隷ダフネちゃんが耳を揺らしながら言う。
彼女は耳がいいので、誰よりも速く敵の接近を察知できるのだ。
「ダフネ! どっちでござるか!?」
「あっち!」
火竜人のトーカちゃんは誰よりも運動能力に長けてる。
私が次どうするか指示する前に、敵に向かって行く。
手に持った武器を変形させる。
ウンディーネの里でもらったトライデントは自在に形を変えられるのだ。
巨大な投擲槍となったそれが、超高速で、ダフネちゃんが指示した方へ飛んでいく。
だが……。
ばちぃ……!
「なっ! はじかれたでござる!」
「……敵がきます!」
ゼニスちゃんが指さす先に現れたのは、雷をまとった大きな竜だ。
「お、おっきー……すっごすっごい、おっきーのですぅ~……」
「…………」ぶるぶる。
ダフネちゃんスィちゃんの妹奴隷ズが私の身体にしがみついて震えている。はー、かわよー。
え、竜? ああ、確かに大きいわね。仰ぎ見るほどのドラゴンだわ。
青白い稲妻をまとっていて、どっちかって言うと私たちがよく見る竜よりは、極東地方で見られる【龍】って感じね。蛇のやつ。
『竜王国になにようだ、小さき者どもよ!』
馬鹿でかいこいつがしゃべるだけでビリビリと空気が鳴動する。
ばちっ! いってえ、静電気きた~……っつぅー……。
「やべーっすよ! 竜王国の門番、竜王子カイルーンっす!」
「竜王子? なんそれ?」
ぱしり2号は竜王国のことよく知ってるので情報を聞き出す。
「竜王エルロンの息子っす! すさまじい雷の使い手で、やばいっす!」
「あんたの語彙もやばいわね」
竜王子だかなんだか知らないけど、邪魔するようなら容赦はしない。
ま、とりあえず荒事の前にお話し合い、しないとね。
「初めまして、竜王子カイルーン。私はセイ・ファート。見ての通り、ただの旅の錬金術師よ」
カイルーンが私を、そしてぱしり1号と2号をにらみつけ……。
『魔神を連れているくせに、なにがただのだ! どう見ても危険分子ではないか!』
なんだ、トリトンもヴィーヴルのことも知ってるのねこいつ。
『この門を守るよう父上よりあずかっている! ここを通すわけにはいかん! まして、魔神を連れた魔女など通さぬ! しねええい!』
カイルーンが口のまわりに稲妻を集中させる。
びごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!
私がその攻撃を、高圧縮された稲妻の息吹だと気づく前に、攻撃がトリトンごと私たちに襲いかかった。
『ふん! 他愛なし!』
「それは同意ね」
『なっ!? ば、馬鹿な!? おれの息吹を受けて、生きてるだとぉ!?』
私は結界ポーションを張って、敵の雷を無効化したのだ。
敵は速かったけど、私のポーションを作って投げるモーションの方が速かったのだ。
「雷よりもはやくポーションを作るなんて、さすがマスター」
「どーも。さて、あんた攻撃してきたわね。じゃ、あんたは私の敵ってことで」
排除させてもらいましょうかね。




