95.嵐の中で輝いて
私たちは竜王国スカイ・フォシワへと向かっている。
入道雲のなかに竜の国へ続く道があるらしい。
パシリ1号ことクジラのトリトンを雲の中へと突入させる。
私たちはトリトンの体内に入っていた。
「あうう……おねえちゃん、お外ゴロゴロ恐いのです~……」
「…………」ぎゅっ。
スィちゃんダフネちゃんのか弱いコンビが、ソファに座る私に抱きついてくる。
ぷるぷる震えるちっこい二人は、見てるだけで庇護欲がそそられるわ。
私は二人をぎゅーっと抱きしめる。ほんわかした表情になったので、私もまたほわんとしてしまう。
ピシャッ……!
ゴロゴロ……!
「うひぃいいいい!」
雷恐いみたいねえダフネちゃん。
よしよししてあげる。でもまだ震えてるわ。
「マスター」
「なによ?」
クソ重溺愛かまってちゃんポンコツメイドが、私の前にやってくる。
「どうにもこの雷は、意思を持ってるようです」
「ほーん。つまりモンスターの攻撃だと?」
「はい。おそらくは侵入者を拒む門番的な存在からの攻撃かと」
っかー! しゃらくせえ!
「私の進む道を邪魔しよって! シェルジュ! こいつをぶち込んできな!」
私は即興でポーションを作り、シェルジュに渡す。
「マスター」
「なに?」
「雷に打たれて死んでしまうとは、思わないのですか? うるうる」
「ロボがなにアホ抜かしよる」
雷に打たれたところで、ロボは死なないでしょうに。
ぷくーとシェルジュが頬を膨らませると、私の肩をばしばしばし! と叩いてくる。
「さっさといってこい」
「いってきたらご褒美くれます?」
「考えとくわー」
「それ絶対くれないやつですよね?」
「考えとくわー」
ぷくーっとまた頬を膨らませると、シェルジュが私の肩をバシバシ。いいからさっさと行ってこい。
「やれやれ、ロボ使いのあらいマスターです。こんなDVご主人の雑な扱いに対応できるのは、世界広しといえどロボのワタシだけ。そこはご理解いただきたい」
「あと三秒以内にいかないと、あんたじゃなくてそこの2号に雷の中につっこませるから」
パシリ2号ことヴィーヴルが「ひぇ……!」と怯えていた。
シェルジュはやれやれ、と首を振って外に出る。
「……シェルジュ様は大丈夫なのでしょうか?」
ゼニスちゃんが心配そうにそう訊ねてきた。
「問題ないわ。あいつの体、直撃受けても死にはしないし」
シェルジュがランチャーで、ワタシの作ったポーションを打ち出す。
カッ……!
という音とともに雷が止んだ。
「とまったのです?」
「うん、もーだいじょうぶ!」
「わーい!」
ポーションを雲の中に散布した。
雷の仕組みって結局師匠でもよくわかってないんだけど、雲の中の水分が関係してるらしい。
私の作ったポーションは温度を操作して雲の中の水分を蒸発させる炎熱ポーション。
これを使って雲そのものを蒸発させたのだ。
「マスター。ずぶ濡れです」
ぐっしょり濡れたシェルジュが帰ってくる。
「直ちにお風呂に行く必要があります」
「はいはいいってら」
「マスター。従僕が頑張ったのですから、一緒にお風呂に入る等のご褒美があってしかるべきかと」
「やだ。あんた一緒に風呂入ると、やたらと体触ってきてキモいし」
「が、がーん……」
よよよ、とシェルジュがその場にへたり込む。
「あー……がんばったのに~……ちらちら」
「はーうっざ。とっとと風呂入ってこいや」
シェルジュは立ち上がると、「風呂覗いちゃ駄目ですからね。これ振りですからね」といって風呂へ向かった。
覗くなって言われたので覗かないでやったら、「なんで入ってこないんですか?」とぶち切れられた。
あー……めんどくさ。




