93.楽しい空の旅
私、セイ・ファートは、途中で出会った魔神竜をパシリにし、新しい観光スポットを目指す。
目的地は、雲の上にあるという、竜王国スカイ・フォシワ。
「わぁ! わぁ! すっごーい! スィちゃんみてみて、海があんなに遠いの!」
「…………!」
ラビ族の奴隷、ダフネちゃんが、船の手すりから身を乗り出し、眼下を覗いている。
水精霊のスィちゃんと一緒にはしゃいでる。かわよー。
「…………」
「あら、ゼニスちゃんどうしたの?」
私は船のデッキに椅子を居て、ひなたぼっこしている。
その隣に、ゼニスちゃんがずっとたたずんでいる。
「……い、いえ」
青い顔をしている。ふむ?
「体調が悪いなら言ってね」
「……あ、いえ。体調不良ではなく……その……」
ゼニスちゃんが周りを気にするそぶりをした。
あんま聞かれたくないのかしら。
ちょいちょい、と手招きしてくる。
私が顔を近づける。
「……恐いんです」
「ほぅ、恐い? なにが」
「……高いところが」
まあ、まあまあ。
なんてこと。高いとこが恐いなんて……。
「可愛いね♡」
「……ちゃ、茶化さないでくださいよ……」
いつも大人びているゼニスちゃんが、顔を赤くして、子供のように拗ねている。
「ごめんごめん。でも大丈夫よ。私が付いてるから」
「……セイ様」
潤んだ目で私を見つめてくる。
私はゼニスちゃんをぎゅっと抱きしめる。
「落ちそうになったら、私が助けるわ。そこのロボを使ってね」
「……ありがとう、ございます♡」
ゼニスちゃんが抱き返してくる。すりすり、と甘えてくる。ふふ、可愛いやつよのぉ~。
「マスター」
ゼニスちゃんをぎゅーっとしていると、ポンコツロボメイドが、じとっとした目を向けてきた。
「んだよ、邪魔だよ」
「ワタシも、高いとこが実は苦手です」
「へー」
ゼニスちゃんよしよし。おお、さらさらヘア~。
私のあげたコンディショナーの効果ね。
「マスター」
ずいっ、と顔を近づけてくるロボメイド。
「なによ?」
「高いとこが恐いので、ハグしてください」
「わりぃなシェルジュ、私のここ、一人用なんだわ」
ぷくーっ、とシェルジュが頬を膨らませる。
スタスタと欄干まで歩いて行く……。
「シェルジュ殿? どこへいくのでござるか?」
「とうっ!」
シェルジュのやつが、船から飛び降りたのだ。
「でえええええええええええええええええええええええええ!?」
隣で団扇を仰いでいたヴィーヴルが、目を飛び出す勢いで驚く。
「うるさい2号。ちゃんと団扇であおぎなさいよ」
「いやいや! そんなことしてるひまねーでしょ! 自殺したっすよあの人!?」
「大丈夫でしょ」
「大丈夫じゃねーっすよ!」
うるさい2号ねえ。
「どうせかまって欲しいだけだから、ほっときなさい」
「で、でも……じ、自分助けてくるっす! 待ってて-!」
ヴィーヴルがあおぐのをやめて、欄干に足をかけて飛び込む。
やれやれ無駄なのに。
「そろそろ空気が薄くなってくる頃だから、みんな、これ飲んで」
私は適応ポーション(※どんな環境下でも適応できる薬。深海に潜ったときにつかったやつ)を、奴隷ちゃんズに渡す。
「「「はーい!」」」
2号とポンコツがもたついてる間に、奴隷ちゃんズがポーションを飲む。
「あったかーい!」「さっきより過ごしやすくなったでござる!」「……上空は地上よりも気温が低く、空気が薄いですからね。これがあることで活動できるようになるんですよ」
さすがゼニスちゃん、あったまい~。
「さ、到着もうしばしのんびりしましょー」
「「おい!!!!!!!!!」」
足からジェット噴射だしてる、ロボメイド。
彼女に足を引っ張られて飛んでいる、ヴィーヴル。
「なに?」
「「無視すんなや……!」」
別に無視してない、ほっといてるだけだ。




