92.雲の上へ
私、セイ・ファートは魔神竜ヴィーヴルと出会い、次なる目的地を、竜王国スカイ・フォシワへと定めた。
「で、空の上に行くわけだけど……どうやっていく?」
「自分が乗せてきますっす?」
「却下」
「なんでっすか?」
「あんた乗り心地悪そうだし」
私たちが最初に見たこのパシリ2号は、二足で立つデカいドラゴンだった。
つまり人間に近いフォルムをしているのである。
人が乗るのには、少々不便。
「なんだかんだでパシリ1号のほうが乗り心地いいのよね」
体を変形させて、豪華客船みたいにできるし。
一人で乗るならヴィーヴルでもいいけど、みんなを連れて飛ぶってなると、やっぱりこの1号の方が良い。
「2号は……あれだな。乗り物に向かないな」
「そもそも乗り物じゃねーっすけど……」
「体を無理矢理変形させるポーション飲む?」
「そんな激やば薬のませないでほしいっす!」
ふうぅむ……注文の多い女ね。
「じゃ、1号に頑張ってもらいましょ」
『我はよいが……しかし空は飛べぬぞ?』
「大丈夫。あんたは翼を生やして準備してなさい」
トリトンは一見するとただのクジラ。
しかし内部、外部構造を自在に変えることができる。
トリトンは大きな翼を生やす。
私はロボにあずけていたポーションを2本、ストレージから取り出す。
「最近、マスターが冷たい」
「は? 何いきなり……」
「前は私におねだりしてきたのに」
「ポーションくれってなだけでしょ。なんだよおねだりって。変なふうに聞こえるでしょ」
ダンジョンで拾った魔道具のおかげで、ロボとストレージを共有できるようになった。
だからいちいちこのロボに頼まなくても、欲しいポーションを勝手に引き出せる。
「体だけが目的で、ヤリ捨てられてる気持ちです」
「だまれ、奴隷ちゃんズの教育にわるいでしょ」
「マスターとのマンツーマン性教育を……」
「スィちゃん、水でこの変態を拘束して」
らじゃ! と水精霊のスィちゃんが敬礼すると、大気中の水を集めて、それをロープにする。
一瞬でロボを拘束して動けなくする。
「緊縛プレイですか。主人の変態性に答えてこそ、ロボメイド。さ、思う存分折檻を!」
「そんじゃ、とびまーす」
「放置プレイ……それもまた乙」
最近あの馬鹿メイド、だんだん壊れていってない?
人間になってから特に……まあいいやムシムシ。
私は重さをゼロにするポーションを、トリトンにぶっかけて、さらに1本別のポーションを海に放り投げる。
風凧ポーション。風を発生させるポーションだ。
ぶわっ! と海面から空へと向かって、激しい風が吹く。
「とっぷーなのですー!」「すごい風でござるな!」「……上昇気流ですね」
さすがエルフ、物知りゼニスちゃん。
上昇気流を発生させ、重さを減らしたトリトンを、上空へと持ち上げる作戦だ。
ふわ……とトリトンが持ち上がり、そのまま登っていく。
「す、すげえ……っす。なんすかこれ、魔法っすか?」
「? ただのポーションよ」
「はぁ!? ぽ、ポーション!? そんなことできるんすか!?」
「できるわよ。つか、あんたを倒したのもポーションの力だったでしょ」
「た、たしかに……やべえ人だこの人……」
げしげし、と私はヴィーヴルの尻に蹴りを食らわせてやったのだ。
やべえ人じゃない、錬金術師じゃい。




