87.優雅な船旅
私の名前はセイ・ファート。
どこにでもいる社畜……もとい、宮廷錬金術師だった。
ところがある日、王都をスタンピードが襲い、逃げ遅れた私は生き残るため、仮死のポーションを使って籠城作戦に出る。
しかし気づいたら私は500年も仮死状態で冬眠していた。
しがらみがなくなった私は、可愛い奴隷ちゃんズ(ダフネちゃん、トーカちゃん、ゼニスちゃん)。
そこへ、水精霊のスィちゃん。
とロボ(※シェルジュ)とともに旅に出る。
途中、便利なクジラをゲットした私は、のんびり海をクルージングしていたのだった……。
「ふぅ~……あつが、なついぜ……!」
私はサングラスをかけてひなたぼっこしている。
ここは悪神トリトンというクジラのなか。
こいつは自分身体を、自由に変えることが出来るという特性を持つ。
デッキ(船の甲板)でひなたぼっこしたいと脅……お願いしたところ、背中が変形して、こうして甲板をゲッツ。
パラソルに寝そべるための椅子を手に入れ、私は仰向けに寝ながらのんびりしている。
「マスター。それを言うなら、夏が暑いぜ、ではないでしょうか? 以上」
私に近づいてきたのは、メイドロボのシェルジュ。
前髪で顔を右片側隠していても、きれいな顔をしてる。
「いやん、そんなじっとワタシの熱烈に見つめて。そんなにワタシが欲しいんですか? どうしよっかなー」
「ロボ、ドリンクぷりーず」
「…………」
無言でべしべし、と私の肩を叩くロボメイド。
「飲み物、プリーズ」
「あいにくもうワタシはロボメイドじゃないので、口からジュースは出せません」
「元々そんな機能ついてねーっつの」
前はロボだったんだけど、私のポーションパワーで人間のボディを手に入れたシェルジュ。
前は主人に反抗することない、可愛いメイドさんだったんだけど、今じゃすっかりウザいメイド。
「あれ? ちょっと待ってください。ロボの方が可愛かったりします?」
「そーね。従順だったし」
「なん……だと……マスター。今からでも遅くありません。ロボに戻してプリーズ!」
「芽生えて育った自我を、またゼロにするなんて無理でしょ」
「では一生ワタシはマスターのご寵愛をウケられないのでか……しゅん……」
その場に膝をついて、がっくりと肩を落としてるシェルジュ。
「あのあのっ、おねえちゃん?」
「お~う! どうしたのかね、ダフネちゃん」
水着姿のダフネちゃん&水精霊スィちゃん。
ふたりはとっても仲が良くて、本当の姉妹みたい。ダフネちゃんがお姉ちゃんぶる姿がキュートなのよね。
「シェルジュさん、落ち込んでるのです……おねえちゃん、励ましてあげて?」
「んも~。しかたないなぁ~」
ダフネちゃんに言われちゃね~。
「おいロボ元気出せ」
「頬にキスで元気でしましょう」
ちゅっ♡
「ひょ~~~~~~~~~~!」
足からジェット噴射して、シェルジュが飛んでいく。
「マスターにキッスされたーーーーーーーーーーー!」
「なーに勘違いしてんだか……」
私はスィちゃんを両手で持ち上げてる。
ちゅってしたのは、スィちゃんなんだよね。
「ありがとスィちゃん。馬鹿に付き合わせてごめんね」
「…………」
「いいよーって言ってるのです!」
チェア脇の、あいてるグラスに、スィちゃんが手を向ける。
とくとく……といつの間にかオレンジジュースが満たされていた。
「あらスィちゃん。こんな芸当もできるようになったの?」
「…………」むふ~。
得意げに鼻を鳴らすスィちゃんきゃわ。
「偉い偉い」
「…………」むふ~!
「あー! だふねも~!」
「偉い偉い」
「えへー♡」
何が偉いのかわからんが、ま、偉い! 可愛いから!
「主殿~!」
火竜人のトーカちゃんとゼニスちゃんが、手を振りながらデッキに近づいてくる。
「どうしたの? 二人も日光浴?」
「……いえ、上空に敵影ありのため、ご報告に」
エルフの奴隷ゼニスちゃん。
小柄で美しいボディライン。
高貴なオーラを漂わせており、元王女さまである。
「敵影? 馬鹿メイドじゃなくて?」
「失礼な。ワタシはここにおります」
いつの間にかシェルジュが私の隣にいた。
「で、敵は?」
「どうやら飛竜のようです。しかもかなりの数がいます」
「あーそう。じゃ、シェルジュ。これをランチャーで打ち上げて」
せっかくのバカンスを邪魔されたくないので、私は邪魔者排除することにする。
シェルジュに渡した、特製ポーション。
それをシェルジュが右腕を変形させ、ランチャーにすると、上空めがけて放つ。
カッ……!
キィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!!!
「い、今のすごい音……なんなのです?」
「音爆弾ポーションよ。すごい音を立てて、敵を倒すポーション」
「爆弾なのかポーションなのか……」
シェルジュがあきれてる。うっさい。
ちなみに量を調整することで、味方には爆弾による被害が出ないようにすることができる。
これをしないと味方もろとも、自分もろとも鼓膜が破裂するからね。
ボトボト……と海中に落ちていく飛竜の群れ。
「Bランクのモンスターを一撃でとは! さすが主殿でござるな!!!」
とまあ、今日ものんびり旅行してます。
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