77.痴話げんか
私は奴隷ちゃんズ&ロボ&精霊ちゃんと海を旅している。
大体ポーションでなんとかできるんだけど、ロボがふくれっ面してしまったので、仕方なくザコ狩りは任せる。
「見てくださいマスター。ワタシの活躍を……!」
襲い来る凶暴な海モンスターたち。
シェルジュが水中銃を使って、ずだだだっ、と倒している……。
「わぁ! お姉ちゃん見て見て~!」
「あら、きれいな珊瑚礁ね」
「ねー!」
ザコの露払いをロボに任せ、私は奴隷ちゃんズとの海散歩を楽しんでいた。
まあ、歩いてるわけじゃないけど、ニュアンス的にね。
「マスター! ワタシの……」
「セイ殿~! 大量にお魚ゲットしてきたでござるよー!」
ウンディーネの女王からもらった武器、トライデントを使っているトーカちゃん。
三つ叉の矛には、でっかいお魚。
持っている網の中には大量の魚が詰められていた。
「この矛すごいのでござるよ! 水の抵抗をまったく感じさせないのでござる!
「おー! すごいじゃーん。やるねぇ~」
つんつん、と私の肩をシェルジュがつついてくる。
「なんじゃい?」
「マスター。活躍を……」
「あ、トーカちゃん! このロボのストレージに魚入れてもらって」
シェルジュは不承不承といったかんじで、魚をストレージにしまうと……。
べちべち、と私の肩を叩いてくる。
「んだよー?」
「……マスター。もしかしてわざとですか?」
「はぁ? なにがわざとなのよ」
「ワタシがマスターのために、こうしてザコの露払いをしているのです」
「そーね。で?」
ぷく~! とほおを膨らませると、シェルジュが水中銃を構えて、発砲する。
近づいてきていたサメの脳天を打ち抜いた。
「……マスターの、あほっ」
「わけからん……情緒どうなってんのよ」
ジェット噴射でとんでいくと、シェルジュが八つ当たりするかのように、ザコを掃除していく。
やれやれ、人間になったせいで、感情コントールが効かなくなってるわねあいつ。
すると、エルフのゼニスちゃんが近づいてきて言う。
「あの……セイ様。シェルジュさんは、褒めて欲しいのではないですか?」
「は……? 褒めて欲しい?」
「……ええ、おそらくは。セイ様に褒めて欲しくて、自分から雑魚狩りを買って出たのかと」
はぁ~……。
なるほどね。
「でも褒めて欲しいなら、自分からそういやいいじゃない?」
「……おそらく、恥ずかしいのかと」
「自分から褒めてっていうのが? はぁー……めんどくさ」
つい本音が口をついてしまった。
ゼニスちゃんは苦笑しながら言う。
「……セイ様が褒めてくれるの、ずっと待ってますよ多分」
「えー……でもなぁ」
まーでも、あれだ。
パフォーマンスが低下してきたら、困るからな。うん。
「あー、シェルジュ。ちょっと」
「なんですか今ザコ狩りでとてもいそがしいんですがー」
親の敵みたいに、ザコをぶっ殺していくシェルジュ。
まあいいや。
「悪いわね、ザコの相手してくれて。あんがと」
ぴたっ、とシェルジュが撃つのをやめる。
ぎゅんっ、と一瞬で私の元へ近づいてきた。うぉ、なんだなんだ。
「もう一度」
「は?」
「よく聞こえませんでしたので、近くで、もう一度」
こ、こいつ……。
絶対聞こえてたでしょ。ロボよロボ。
人間の聴覚を超えてるのよ?
聞こえてないわけがないじゃないの……まったく。
「面倒かけてるわね」
「そういうのではなく」
「あー……ありがと」
シェルジュが、にんまりと笑う。
「なによ……?」
「何にありがとうなのでしょうか?」
「だーかーらー……ザコを倒してくれてありがとね。よくやってるわ」
「…………それだけですか?」
ちらちら、とシェルジュが私に物欲しげな目線を向けてくる。
なんだこれは?
頭をぐりぐり押しつけてくる……。
「え、頭なでて欲しいの?」
「さぁ……どうでしょう」
めんどっっっっっっっくさ。
……まあ、だるい仕事を任せてるのは事実だし、ほめといてあげるか。ゼニスちゃんも褒めてあげてって言ってたし。
「はいはい。えらいえらい」
私はシェルジュの頭をなでてあげる。
ロボのくせに、結構さらさらしてるのよね、髪の毛。
まあ海の中だがすこしぶわーって広がってるけど。
シェルジュが、口元をωみたいにして……。
「はー、やれやれ。これだけザコ狩りがんばってるのに、頭なでなでしかしてくれないなんて。これは労基に訴えるべきですね~」
なんだこいつ……。
自分でやりたいって言ったくせに、なーんだその言い草。ちょくっと腹立つわー。
「じゃあいいわよ。自分でザコ狩りするから」
私はシェルジュの中のストレージから、必要な素材を取り出す。
海水を使って、魔除けのポーション海中バージョンを作った。
「おねえちゃん、なんなのですそれー?」
「これは海用の魔除けのポーションよ。普段は魔物の嫌いな匂いで追い払うけど、これは魔物嫌いな音を発生させて追い払う……」
ぱしっ!
「あ、おい! ロボメイドあんた! 返しなさいよ!」
シェルジュが私から魔除けのポーション海中バージョンを盗んで逃げ出した!
「マスター、ザコ狩り行ってきますので休んでてください」
「なんなのよあんた、もぉおおおおおおおお!」
私が切れてると、その様子を見ていた奴隷ちゃんズが、ほっこりした笑みを浮かべていた。
まじでなんなの?




