69.バカ師匠とのご対面
私は魔神とかいう変なやつを完璧に撃破した。
話はその直後。
ごごごご……!
「あん? なによ?」
「直後とゴゴゴをかけた高度なしゃれですね、以上」
「スクラップにするわよ? てゆーか、揺れてる……これって……」
確か、ダンジョンって迷宮主が倒されると消滅するんだっけ。
中に居る人間は強制転移されるって。
部屋全体が揺れ動いている。
迷宮を構成する壁や天井が、粒子状にほどけていった。
私もシェルジュも、身体が分解されていく……。
怖くはない。ただ、さっさと転移しろやぼけとは思った。
だって今、私の可愛い奴隷ちゃんズにエマージェンシーな事態が起きてるんだから!
「はよ転移はよ!」
「マスター、ダンジョンクリア者には報しゅ……」
「いいからはよ!」
すると私の身体がひときわ強く輝くとその場から消えた。
……。
…………。
………………意識が戻ってくる。
そこはフォティヤトゥヤァの王都どまんなか。
迷宮の入り口はすっかり消えていた。
「ん! 地上ね! さて奴隷ちゃんズは……」
と、そのときだった。
「せーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーいちゅわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!」
だきっ!
ぶっちゅぅう……!
「うげぇえええええええええええ!」
バキィ……!
「ぐふぅううううううううううう!」
吹っ飛んでいく馬鹿。
あんのばか……! 私に抱きついてほっぺにキスしやがった!
ぶち殺す勢いで、強化パンチをやつの頬にお見舞いしてやったぞ!
「なーにしやがるんでぃ……!」
ボールのようにバウンドしていく馬鹿、もとい師匠。
だが次の瞬間、私の前に再び現れる。
「セイ! セイよ! 久しいのぉ! どれ再会にキッスを」
「せんわ!」
私はハイキックを師匠にお見舞いする。 だが師匠の顔にぶつかった瞬間、彼女が消える。
「ちっ……!」
「わはは! セイは今日も元気じゃのぅ♡」
私の前に立っているのは七色の髪の毛の、【見たことない女】だ。
だが私にはわかる。この変態が師匠……ニコラス・フラメルだってことが!
「師匠。あんた毎回見るたび見た目が変わってないですか?」
「まあの。今はハデハデ系な気分じゃからな」
「あんたいっつも派手じゃないの……」
この師匠は、錬金術を応用して不老不死の力を持っている。
また、術を応用することで見た目を変えることも出来る。
私がこいつに師事していたとき、コロコロと見た目が変わるもんだから驚いた。
けれどもう今はなれたものである。
「お久しぶりですね、師匠。500年ぶり」
「む? もうそんなに時間が経っておったか。光陰矢のごとしじゃの」
あんまりしみじみ感じ入ってるようではない。
そりゃそうだ。不老不死者だからね、こいつ。
「てゆーか! 師匠のとこから、私の大事な奴隷ちゃんズの気配がするんですけど!? 返してくれます!?」
「おお、すまんすまん」
師匠は懐から、1枚の紙を取り出す。
あれは魔道具だ。
折りたたまれた紙を、開く。
するとカッ……! と輝いて、中から……。
「「「わぁー……!」」」
どっしーん……!
……とまあ、紙から奴隷ちゃんズが出てきたのだ。
あれは対象物を平面化して、折りたたんで収納する魔道具だ。
てゆーか!
「みんな! 大丈夫!?」
「おねえちゃん!」「主殿!」「……セイ様っ」「……!」
奴隷ちゃんズおよびスィちゃんを、私は抱きしめる……!
やぁ! 良かったぁ! ほんっとよかった!
「ごめんねみんな、そこの不審者に変なことされなかった?」
バカ師匠に指を指す。
奴隷ちゃんズはふるふる、と首を振った。
そっか……何もされなかったか……はぁ……。
気づけば、私はその場にへたり込んでいた。
「あ、あらら……」
「どうしたのですー!?」「ダンジョンでまさか怪我を!?」「……スィちゃん! 回復を!」「…………!」
「ああ、ううん。平気。……なんか、どっと疲れちゃって……」
安心したら身体から力が抜けちゃったのね。
はぁ……とにかく、何事もなくって良かった……。
「おねえちゃん……心配してくれたのです?」
「あったりまえでしょ、ダフネちゃん。おいで」
「わー♡」
胸に飛び込んできたダフネちゃんの、ふわっふわ髪をなでる。
あー……落ち着くんじゃあ。
しっかし私……この子達がやばいって思っただけで、結構動揺してたなぁ。
まあ、そんだけ愛着がわいてるってことね。うん……なんだかんだ、かわいいし。
「心配してくれてうれしいでござるー!」
「……セイ様、我々を気にかけてくれるなんて」
「あたりまえじゃーん。みんな大好きな私の仲間達だもん」
「「「セイ様……!」」」
みんなからむぎゅーされる。
ま、助かったからいっかー……。
「って、しまったぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
私は立ち上がる。やべええ!!!!
「……ど、どうしたのですか?」
「柔らかい石! 忘れてたぁああああああああああああああ!」
ダンジョンが消滅したと同時に、なかの石も消えてたはず!
うわぁ……! 私が回収しようと思ってたのにぃいいいいいい!
と、そのときである。
「やれやれ、マスターはワタシがいないとだめですね。以上」
「シェルジュ……! あ、そういえばあんたいなかったけど、どこいってたの?」
するとシェルジュが右手をかざして、ストレージを解放する。
どっちゃり……!
「うぉほぉおおおおおおおおおお! 宝の山だぁあああああああああ!」
「女子が出しちゃいけない声だしてます、以上……ふぎゅっ!」
この女! いつの間にか回収していたのね!
私はシェルジュに飛びついてキスする。
「もうもう! 大好きシェルジュ!」
「まったく、都合の良いとこだけ好き好き言うんですから。やれやれ、以上」
私からは見えなかったけど、ダフネちゃんが「シェルジュさん笑ってるのですー!」と歓声あげてた。
そんな機能搭載してないので、まあ見間違えだろうと思う。




