65.追いかける聖女隊、その先で大賢者と出会う
セイの後を追いかける、Sランク冒険者フィライト一行。
冒険者パーティに加えて奴隷たち、そしてブロッケス王子とかなりの大所帯だった。
しかし……。
「せやぁ!!!!」
「……ハァ!!!」
「ぬぅうん!!!!」
出てくるモンスターを、剣士フィライト、聖騎士ウフコック、そして奴隷の火竜人トーカが次々と葬っていく。
「わぁ! すごいのですすごいのですー!」
モンスターを倒すフィライトたちに、ダフネがそう評する。
ぴょんぴょん、と飛び跳ねるダフネを見てウンディーネのスィもぴょんぴょん飛び跳ねる。
「……しかしスィの支援魔法はすごいですね」
「うむ! 体がとっても軽いのでござる!」
「すぃちゃん、すごい!」
「…………」んふー。
このメンツで迷宮内に入ろうとしたとき、スィが提案したのだ。
みんなを守る力を付与したいと。
「すぃちゃん、おねえちゃんのポーションを飲んで、支援魔法を覚えたらしいのです!」
「そういえば拙者も、セイ殿のポーションを飲んで進化したでござる!」
「……なるほど、人外種だとセイ様の力をうけて存在進化する。スィもまた人間ではないので、新たな技を覚えたのでしょう」
「つまりおねえちゃんもすぃちゃんもすごいってことなのです!」
というわけで支援を覚えたスィのおかげで、サクサクと迷宮を進んでいけるようになったフィライト一行。
「……こっちだ。こっちから聖女様の【におい】がする」
聖騎士ウフコックが真面目な顔で、分かれ道を指さす。
ボルスが感心しながらも、首をかしげる。
「しかしよぉ、聖騎士ってのはみんなその、聖女の魔力を嗅ぎ取る力があるのかぁ?」
「……大なり小なり、聖女様の力を感じる能力はあるな。おれの場合は、敬愛する聖女様のにおいをより強く感知する能力があるわけだ」
「聖騎士っつーか、猟犬だなぁそりゃあ」
あきれつつもウフコックがいることで、セイを追跡できているのは事実。
すごい能力ではあった。
「しっかしよぉ……聖女様ってのは、その、あれだな。なかなか豪快なやつなんだなぁ」
ボルスが見やるのは、破壊された迷宮の壁だ。
彼女を追跡しているのだが、どうにも、壁をぶっ壊してまっすぐに向かっている様なのである。
「全く、ボルス。あなたは全然聖女様のお考えを理解できていないようですわね」
「はぁ? お考えだなぁ?」
恋人のフィライトがふふん、と得意げに鼻を鳴らす。
「いいですの? 聖女様がまっすぐ進んでいるのはなぜか? そんなの、寄り道など一切せず、一刻も早くダンジョンをクリアし、国を救うタメに決まっていますわ!」
「「「おお! なるほどおぉ!」」」
実際にはダンジョンクリアそっちのけで、柔らかい石ゲットという寄り道の真っ最中なのだが……。
聖女信者であるフィライトの目には、セイの行動が全て都合良く改変されるのである。
そしてセイのことを尊敬している奴隷たちはもちろん、王子すらも聖女の行動に対して何ら疑問を抱かないのである。
「セイ殿は我々の国をお救いになるために……くぅうう! やはりセイ殿は素晴らしい女性……女神! 神!」
「はいはい……それよりウフコックよぉ、まじでこの穴に落ちてったのか?」
ボルスが指さすそれは、どう見ても落とし穴だ。
「……ああ、匂いがこの下に消えている」
「つってもよぉ、こりゃ下まで相当距離あるぜ? 女子供が落ちたらひとたまりも……」
そこで、奴隷たちはポケットから強化ポーションを取り出す。
何かあったらいけないと、常に奴隷たちにセイが持たせていたのだ。
んぐんぐ、と飲む。
「嬢ちゃんたち、なんだそりゃ?」
「……セイ様からいただいた強化ポーションです」
「これがあれば無限のパワーを得られるのでござる! とう!」
トーカがそのまま落下していく。
「おい! 嬢ちゃん! って、おい!」
ダフネ、ゼニス、そしてスィがその後に続く。
ボルスは青い顔をして下を見やる。
「おおおい! 大丈夫なのかー!」
「だいじょうぶなのですー!」
返事がきてほっと一安心。
だが結構な距離を落ちて無事だとは……。
「聖女さんの薬ってーのは、そうとうやべえ薬みてえだな……っておい! フィライト! ウフコック! どこへ!?」
二人もまた穴に飛び込む。
奴隷たちと違ってまっすぐではなく、壁を蹴りながら降りていく。
がしがし、とボルスが頭をかく。
「王子さんよ、おれらはロープ使っておりるぜ?」
「う、うむ……わたしたちはあのような、常人離れした動きできないからな……」
そしてロープを降りながら、ブロッケス王子が感心したようにつぶやく。
「しかし本職の冒険者さんたちはすごいですな。難易度の高い迷宮をこうも余裕で突破するとは」
「いやぁ、あの精霊の嬢ちゃんのおかげってのもおおきい。本来ならここで出てくるモンスターたちはよぉ、みんなS。つまりめっちゃつええんだ」
ボルスはここまでの道のりを思い出す。
階段下に構えていたゴーレム、そして迷宮内をうろつく火竜たち。
それらは余裕でSランク程度の力を持っていた。
本来ならこんな少人数、しかも女子供だけの素人集団で突破できる迷宮ではないのだ。
それでも無傷で進んでこれたのは……。
「聖女さんがある程度、障害を取り除いてくれたことと、あとはあの精霊嬢ちゃんの支援のおかげだなあ」
「支援は聖女様のおかげといっていたから、やはり全部聖女様のおかげということですね! すごい!」
「信者増えすぎだろぉよぉ……」
ほどなくして穴の先に到着。
広いホールへと到着したのだが……。
「いかにもって雰囲気なのに、なんもねえな。こういうところにゃ、門番的なやつがいると思うんだがなよぉ」
「そんなの決まってます! セイ様が倒したのでしょう!」
確かに地面が焦げていた。
なんらかの戦闘が行われたのは事実。
「まじで万能だなぁ、聖女さんはよぉ」
「見てくださいまし! 奥へ続く道がありますわ!」
フィライトがそう言うと、奴隷たちがその後へと続く。
通路を抜けた先には……。
「「「おおおーーーーー!」」」
金銀財宝の山を前に、奴隷たちは目を輝かせる。
「すっごいのですー! こんなにお宝がいっぱい!」
「ものすごい量の金でござるなぁ! 持って帰れば億万長者でござる!」
だがエルフ奴隷のゼニスが首をかしげた。
「……セイ様はどうして、ここに来ても、財宝をそのまま置いていったのでしょうか」
「言われてみれば……妙でござるな。これだけあれば一生遊んで暮らせるのに」
ふふ、とフィライトが笑う。
「奴隷の皆様も、まだまだのようですわね」
「「「どういうこと……?」」」
「わたくしにはわかりますの、聖女様のお考えが……わたくしだけには!」
ばっ、と両手を広げるフィライト。
「こんな財宝なんかよりも、人命を優先させたのですわ!」
「「「そ、そうか!」」」
財宝にも目もくれず、人を助けるため先を急いだ……と。
そういう解釈したようだ。
まあ事実は金銀財宝が全部自分で作れるゴミだと言って放置しただけなのだが……。
「先を急ぎますわよ!」
「はぁ? ちょっと待てよフィライト。さすがにこの財宝全部置いてくのはもったいなさすぎんだろ?」
「何を悠長なことを! ここでもたついてる間に、聖女様はどんどんと先に……」
と、そのときだった。
がしゃーん!
「! 入り口が閉まった!?」
「!? 見ろ! 上から砂金が……!」
ボルスとウフコックがそういう。
入り口が完全に封鎖され、天上からは大量の砂金が落ちてきたのだ。
「ちくしょう! トラップだったか!」
「さすがセイ様! トラップにも気づいていらしたのですね! だから長居しなかった……!」
「馬鹿言ってねえで出口を探すぞ!」
だがいくら手分けして探しても、抜け道らしい抜け道は見つからない。
ウフコックはさっきから壁の破壊を試みているが、びくともしない。
万事休す。
「もうだめなのですぅ~」
と、そのときだった。
ドッガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
「迷宮の分厚い壁が破壊された!?」
「こんなのできるのは……まさか、聖女様!?」
煙の向こうから、ぬぅ……とそいつが現れる。
「ふむ? なんじゃ? ここから懐かしい魔力を感じたのじゃが……ふぅむ、一足遅かったようじゃのぉ」
背の高い女だった。
若く、美しく、そして……抜群のプロポーション。
そして目を引くのは、極彩色の長い髪の毛だ。
暗い迷宮の中に、そのぴかぴかと輝く髪はとても目立った。
「あ、あんた……何もんだぁ?」
ボルスがそう尋ねるも、その極彩色の女はスルーする。
「あなたは、何者ですの?」
「おお、わしか?」
男の言葉には無視したくせに、女であるフィライトの言葉を聞いて返す。
「わしはフラメル。ニコラス・フラメルと申すものじゃ」




