58.ダンジョンへ
南の島国フォティアトゥヤァに休暇を取りに来た私たちだったが……。
ひょんなことからダンジョン攻略をする羽目になったのだった。はーやれやれ。
王子に素材を取ってこいとは……こほん、お願いしてから数日後。
「よっし、準備完了。いざいかん、ダンジョンへ!」
私たちはフォティアトゥヤァの王都、トゥヤァの街の中心に来ている。
地面からせり出したほこらのようなもの。
地下へ向かって階段が伸びている。
この下にダンジョンがあるんだってさ。
「セイ殿……ほんとうに護衛は必要ないのですか……?」
ブロッケス王子が心配そうに聞いてくる。
この王子、王族なのにあんまり偉そうな感じないのよね。
まあ都合がいいってゆー……それだけなんだけどね。
「問題なっしんぐ。奴隷ちゃんズも精霊ちゃんもいるし。あとついでにロボもいるからね」
「しかしこのダンジョンにはSランク冒険者も挑んで、失敗するほどの難易度のダンジョンなのですが……」
「大丈夫大丈夫。それより、余計な人がダンジョンに入ってこないよう、しっかりと入り口を見張っといてね。いい、絶対に誰もなかにいれてはだめよ」
柔らかい石の取り分がなくなっちゃうからね!
おお……とブロッケス王子が感心したようにつぶやく。
「セイ殿……さすがです! わかりました、これ以上の被害者が出ないよう、誰もなかにいれないよう徹底させておきます!」
「え? あ、うん。よろしく」
「単に取り分がへらないように入場制限したいだけなのに、いい方向に解釈されてますね。以上」
「うっさいポンコツロボ。さ、みんな行くわよー。はぐれないようについてきてー」
「「「はーい!」」」
私たちは縦に並んで階段を降りていく。
先頭は私、しんがりはロボメイドのシェルジュ。
……正直今でも、この子らを外に置いておきたいって気持ちは強い。
まー、何かあってもこの子らのスペック高いから自分たちでなんとかできるだろうし、私やロボメイドがいればなんとかなるけど……ね。
それでもなぁ……。
「? だいじょうぶなのです! 危ない敵は、だふねのお耳が見つけてあげるのですー!」
私を守るんだって息巻く、この子らの笑顔を見ていると……ね。
「あー、ところで君たち。これを飲んでおきたまえ。シェルジュ」
シェルジュ、察しなさいよ。
こくんと彼女がうなずいて、ストレージから魔法薬を取り出す。
シェルジュが魔法薬を奴隷ちゃんズに配る。
「主殿、なんでござるかこれは?」
「すいー……」
「……?」
「スィちゃんは可愛いなー」
「……!」えへへ。
精霊ちゃんの頭をよしよしとなでる。
うれしそうに目を細めていた。なんだか罪悪感。
「強化ポーションよ。何かあったら大変じゃない? ねえシェルジュ」
「すいー……」
「ロボメイド」
「スィ様は可愛い。以上」
「……!」えへへん。
ったく、おしゃべりメイドめ。
「わかったのです!」「いただきますでござる!」「…………」
ごくごく、と奴隷ちゃんズがポーションを躊躇なく飲む。
そして……。
「「「ぐぅ……」」」
「ふぅ……ごめんねみんな」
ぐったりと力を抜いてその場にしゃがみ込む、奴隷ちゃんズ+スィちゃん。
やれやれ、とシェルジュがため息をつく。
「ここに来る前に飲ませておけばよかったのに、睡眠薬。以上」
「う、うるさいな。飲ませるタイミングがなかったのよ」
「どーせ柔らかい石のことで頭いっぱいだったけど、ふとやっぱり思い返して危ないなって思い出して、アドリブで飲ませたんでしょ、以上」
「うっさいやかましい。早くこの子らを運びなさい」
ロボメイドに奴隷ちゃんズとスィちゃんを持たせて、階段を上っていく。
「セイ殿! どうなさったのですか!?」
「あー、この子らその……睡眠トラップに引っかかったみたいなの。悪いけどブロッケスさん、この子らを預かっといて。くれぐれも、丁重にね」
「おまかせください!!!!」
よし、これで大丈夫。
ごめんねみんな。
やっぱりみんなが怪我するみたいな展開は私、許せないの。
そこで待っててちょうだいね。すぐ帰るから。
「いくわよシェルジュ」
「え? 以上」
「え、じゃないわよ。あんたも来んのよ。誰が柔らかい石を持ち帰るのよ」
「やれやれ、ロボメイド使いが荒いですね。この子らに向ける優しさの一ミリでも、ワタシに向けてくれてもいいのに。以上」
「よーし、しゅっぱーーーつ!」
私の後ろからシェルジュがついてくる。
階段は地下へ地下へと伸びていた。
私とシェルジュはまっすぐ降りていく……。
「ながっ!」
やたらと階段がなっがいわ!
んもー、めんどい!
「しぇーるじゅ! ナンバー10!」
「はいはい。以上」
シェルジュに持たせていた魔法ポーションを受け取る。
それを床に向かって投げる。
ぱりんと音を立てると、ぬるぬるとした液体が下へとしたたり落ちていく。
私は流体水晶で、水晶の板を作り、それを放り投げる……。
「よいしょーい!」
私が板に乗ると、そのままつるるぅ~……と板が滑っていく!
これは滑落ポーション。
本来の使い方は、敵の足下に投げて転ばせるという移動阻害用のポーションだ。
けれどこうして水晶板の底に塗りたくったことで、摩擦をゼロにし、まるでサーフボードのように階段を一気に下っていく。
やがて最下段まで到着し……。
「いえーい到着―!」
ばごぉおおおおおん!
「ん? 何今の……?」
私は水晶板から飛び降りて、階段下のホールに着地する。
振り返るとそこには、妙な形のオブジェがあった。
見上げるほどの大きさの、人型の銅像? みたいなもん。
けどお腹のあたりに大きな穴が開いてあった。
「ま、いっか!」
「マスター。なにいきなりやらかしてるんですか。以上」
「やらかす? なにそれ。ただ私は一気に下ってきただけよ」
「勢い余って門番を……ってマスター、お待ちください、マスター。以上」
さ! ぼやぼやしてたら、あの馬鹿師匠に柔らかい石を全部取られちゃうわ!
急げ急げーい!




