57.王都へ
私ことセイ・ファートは南の国にバカンスに来た。
けれど……王都にダンジョンが出現した影響で、国は大変なことになってるとのこと。
この国の王子様から直々にダンジョン攻略の依頼を受けた私は、王都へとやってきていた。
ここは王都トゥヤァ。
「あっついわー……」
何というか、灼熱地獄がそこに広がっていた。
ムシムシとかそんなレベル通り越してる。
これ……まともに歩いてるだけで肌がやけどしちゃうんじゃないの……?
だからか、みんな長袖を着ている。あつそぉ。
「あぅう~……」「…………」
ダフネちゃんとスィちゃんが死にそうになってる。
これは……大変だ!
「ロボメイド! 魔法ポーションを!」
「自分の可愛い奴隷がピンチの時だけ頑張るんですね。以上」
「とーぜんでしょ。ハリーアップ!」
ロボメイドのストレージから魔法ポーション2つを取り出す。
魔道具に魔力を通すと、空中に立方体が展開。
錬金工房。
中でポーション作成が可能となる、小さな工房だ。
私は二つのポーションを工房の中に入れる。
そして流体水晶で新しいポーション瓶を作っておく。
二つのポーションを合体させ、新しい薬を作ると、ポーション瓶の中に新薬を注ぐ。
「うっし完成。トーカちゃん! これを真上にぶんなげて! 思いっきり高く!」
「心得た!」
トーカちゃんは瓶を掴むと、オーバースローで上空にぶんなげる。
ロボメイドは私が指示せずとも、狙撃銃で瓶をぶち割る。
中身がぶちまけられると同時に……。
ごぉ……! と銀色の風が吹く。
「はれ? 暑さが……和らいだのですー!」
「…………!」
ダフネちゃんたちに笑顔が戻る。
よかったぁ~……。
「おねえちゃん、なにかしたの?」
「うん。ポーションを組み合わせて、ちょっと涼しくなる風を吹かせてみたの」
「……そんなことができるのですか?」
私はゼニスちゃんに説明する。
「うん。魔法ポーションの氷獄ポーションと風凧ポーションを合成させて、氷の風の結界を作ったのよ」
氷獄ポーション単体だと効果が強すぎる。
だから風凧ポーションで効果を中和しつつ、広範囲に、長時間効果が続くように調整したのだ。
「……すごい、薬同士を組み合わせて効能を調整したのですね」
「そゆこと。薬って単体で使うんじゃなくて、本来こうして複数組み合わせて使うものなのよ。一つだけじゃ効果が強過ぎちゃうのよねぇ」
王子が目を輝かせて私の手を握ってくる。
「ふぁ、な、なによ……?」
「素晴らしい! 王都の窮状を、一瞬にして改善してしまわれるなんて! すごいです!」
「あーはいはい、別に感謝しなくていいから。私はただダフネちゃん達が辛そうにしてたのが見てられなかっただけだからね」
というかこの王子すごいぐいぐい来るな。すぐに手握ってくるし、顔近づけてくるし。
ちょっと失礼じゃない……?
王族ってみんなこんな距離感バグってるの?
改めてほしいわー。
「マスター、ツンデレ? 以上」
「純粋に不快。離れて」
「あ、す、すみません……」
ブロッケスさんが私から離れる。
まったくちゃんと適切な距離を保ってほしいもんだ。
「魔法薬による結界も一時的なもんよ。その間にさくっとダンジョン攻略してくるから」
「よろしくお願いします、セイ殿……なにとぞ」
「うむ。じゃ、協力してね」
そんなこんなあって、私たちは王宮へと案内された。
白亜で立派な建物だった。
ゲータ・ニィガの王城とちがって、タテじゃ無くて横に広い感じのお城ね。
私たちは来賓室に通される。
「さて、じゃダンジョン攻略の準備しないとね。王子様、とりあえずほしいものがあるんだけど」
「何なりとお申し付けください! すぐに用意して参りますので!」
「うむ。シェルジュ、紙とペンぷりーず」
シェルジュからメモ帳をもらって、さらさらと買ってきてほしいものリストを作る。
「こんなもんか。ほいよ王子様。これを……って、どうしたの?」
私からもらった紙……じゃなくて、私の持っているペンを見て、王子が言う。
「あの……セイ殿。そのペンは……インクにつけてないように見えたのですが」
「ん? ああこれ。魔法ペン。中に術式が組み込まれてて、魔力を吸ってインクを無限に生み出すペンよ」
「インクを無限に!? じゃ、じゃあ……インクにわざわざペンをつけずともよいのですか!?」
「? ええ」
「す、す、すごい……こんなペン、見たことない! そうか……水の魔法でインクを作って……なるほど!」
またも王子が私の手を掴んで、ぐいっと顔を近づける。
ええい、無礼ものめ。
「…………!」
スィちゃんが両手を伸ばして、王子に向かって水をぶっかける。
結構な水流によって王子はぶっとんでいき、そのまま壁にぶつかる。
「えとえと、【セイお姉様に近づくな!】なのです!」
「……よくやりました、スィ」
「…………」むふー!
奴隷ちゃんズと精霊ちゃんが、私の前にバリアを張るようにして立つ。
「……セイ様に気安く近づかないでください」
「す、すまない……つい……」
「……あなた様はセイ様からお使いを頼まれたのでは? 早く行ってください。目障りです」
「あ、ああ……失礼する……」
王子がすごすごと部屋を退散していく。
んふー、と奴隷ちゃんズが鼻息をつく。
「……悪い虫は、私が追い払います」
「なのです!」「…………!」
「ええっと……ありがとう?」
「マスター。モテモテでうらやましいです。以上」
全くうらやましそうに見えないんだけどね。




