56.砂漠の国にて
私たちは聖騎士から逃げるため、砂漠エルフの国フォティアトゥヤァへとやってきた。
船の中で出会った王子ブロッケスさんからの依頼で、王都に出現した謎のダンジョンの攻略に取りかかることに、なったのだった。
船は私の魔法ポーションのおかげですぐに港に到着した。
「あうぅう……暑いのですぅ……」
島に到着したとたん、すさまじい暑さを覚えた。
空気がカラカラに乾いてて、純粋に暑い。
「……フォティアトゥヤァは南国の国。暑いとは聞いていましたが、ここまでとは」
物知りゼニスちゃんが違和感を覚えてるようである。
ブロッケンス王子が首を振って言う。
「いえ、普段は暑さはたしかにありますが、ここまでではありません」
「ん? なに、今が異常ってこと?」
「はい……実はダンジョンの影響なんです」
私たちはちーちゃんに乗って、王都へ目指す傍ら、王子から情報収集をする。
曰く、
ダンジョンが出現してから気候がおかしくなった。
内部には炎のモンスターが多く存在している。
有識者はダンジョンの主が炎のモンスター以上のものが存在しているのでは無いか。
「それ以上ってなにさ?」
「魔神、と」
「魔神ねえ……」
ゼニスちゃんが首をかしげながら聞いてくる。
「……魔神といえば、遙か昔、地上で悪さしていた悪なる神のなれの果てと聞きます。ですが、冥界の魔女と呼ばれる存在が、冥界に封印した……と」
「あら物知りねえ、さすがゼニスちゃん。でもね。その魔女の封印ってやつ、結構もろくなっててね、ちょいちょい復活してるのよ」
ゼニスちゃん、そして王子が目を丸くしてる。
え、なに。
「ど、どうしてそのようなことを知ってらっしゃるのですか?」
「どうしてって……師匠と修行してたとき、そこそこ会ったことあるからよ。てゆーか、あの人、魔神を再封印するために、あちこちブラブラしてるとこもあるんだから」
まあ元々放浪癖のある人だけど、でもただぶらついてるだけじゃないのよね。
「つ、つまりセイ殿は、魔神を倒したことあると?」
「まーね。さすがに素手じゃ勝てないけど、ポーションを装備していれば……って、どうしたの?」
王子が跪いて、私の手を取る。
「ありがとう! あなた様が我が国を訪れてくださったのは、神のおぼしめしに違いない!」
「おおげさねえ……まだ何もしてないのに」
まぁ、本当にダンジョンに魔神がいるかは定かじゃないが、出てきたとしても、ポーションがあればなんとかなるでしょ。
魔法ポーションを補充する必要はあるけど、作るのが一番面倒な魔力水はスィちゃんがいればすぐ手に入るしね。
「……殿下。セイ様から離れてください」
「そーなのです! 離れて!」
「…………」しゃー!
ゼニスちゃん、ダフネちゃん、スィちゃんが、私から王子を守るように立つ。
トーカちゃんとロボメイドはちーちゃんを操縦してるので参加してこなかった。
「おねえちゃんは、だふねたちのおねえちゃんなのですー!」
「…………」こくこく!
「それはすまなかったね」
苦笑しながら王子が私から離れる。
ふんす、と鼻息を荒くした後、ダフネちゃんが私にひっついてきた。
「どうしたの? 暑いでしょ?」
「暑いのです、でもでも、おねえちゃんをお守りするのです!」
「? ありがとう……?」
なんのことやら……。
ま、でもくっついてるダフネちゃんたちがかわいいから、OKです。
「……セイ様。これからの方針ですが、いかがなさるおつもりですか?」
「現地についたらとりあえず素材集めね。魔法ポーションを補充して、それからダンジョンへって感じかな」
幸い王都人も物も多いだろうし、素材は手に入りやすいだろう。
自分で狩るか、商業ギルドや露天商を見て回る感じかな。
「あなたたちはダンジョンの外で待っててね」
「「「え~~~~~~~~~~~~~~~!!!」」」
トーカちゃんを含めた奴隷ちゃんズが声を張り上げる。
あら、驚くとこかしら。
「だってダンジョンって危ないとこなのよ?」
「……そのようなところに、セイ様お一人でいかせられません!」
「だふねもついてくのです!」「…………」こくこく!
「主殿が一人危ない場所へ行かれるというのに、外で待っていられる家来がいましょうか! 我々も同行いたしますぞ!」
奴隷ちゃんズは私のこと心配してるらしい。
くぅ……なんていい子たちなの!
「あ、ワタシは外で待ってていいですか。以上」
「あんたはついてこないと、誰がポーションを運ぶのよ」
魔法ポーションって保存が難しいのよね。
すぐに劣化しちゃう。
だからロボの持つストレージ機能がないと、長い時間ポーションを持ち運べないのだ。
「あまり暑いとオーバーヒートしてしまうのですが、以上」
「あとで調整してあげるから」
「ちっ……以上」
こ、この反抗期ロボめ。
「しかしセイ殿。ダンジョン内部は魔神以外も、危険な存在がおります。このか弱い少女たちを連れていくのはさすがに危ないかと」
王子様も同じ意見のようね。
「まー、でも大丈夫じゃない?」
と、そのときだった。
ぴんっ、とダフネちゃんのうさ耳が立つ。
「おねえちゃん! モンスターなのです! 砂の中から、うごごごって!」
「お、ダフネちゃんなーいす」
この子耳がいいから、敵の接近に誰よりも早く気づけるのよね。
いやぁ、役にたつ子ぉ。
「シェルジュ。ダフネちゃんの指示するほうに狙撃」
「やれやれ、ロボ遣いが荒いです。以上」
「はよやれ。あと、あれまいといてね」
シェルジュがストレージから、細長い筒を取り出す。
これは魔法狙撃銃といって、遠くの敵を攻撃するための銃だ。
シェルジュは一発、砂漠地帯に向かって銃弾を放つ。
「GISHAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」
砂から飛び出したのは、巨大なサメだった。
「さ、砂鮫です! 砂地を泳ぐ凶悪なモンスター!」
「おねえちゃん、さめさん、いっぱいいるです!」
「なっ!? しかも……複数体も!?」
王子が驚いてるところから、そんなに頻繁に出るようなモンスターじゃないみたいね。
「どうして……?」
「……おそらくはダンジョンの影響でしょう。ダンジョンが現れると、周辺の魔物が活性化するというデータがあります」
「なっ! そんな……まずい、すぐに護衛たちに知らせて戦わなければ!」
王子様が焦り出す。
「まーまー、だいじょーぶでしょ。Aランクなら」
「何を言って……」
「GISHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
鮫の群れが砂から飛び出して、私たちのもとへ襲いかかってくる。
だが……。
「「「!!!!!!!」」」
びくん! と鮫たちは空中で体をこわばらせる。
どどう! と大きな音を立てて砂の中にもぐる……。
「おねえちゃん、さめさんたち帰ってくのです!」
「なっ!? 馬鹿な……どうして!?」
「……なるほど、魔除けのポーションを蒔いておいたのですね」
さすがゼニスちゃん気づくのが早い。
そう、シェルジュにはちーちゃんに、魔除けのポーションをかけておくよう指示したのだ。
「これがあれば雑魚敵なら近づかない。だから、ま、ダンジョンもよゆーでしょ」
「おお……なんという、素晴らしいお力! やはりセイ殿は、すごい!」
王子様になんだか感心されてしまったのだった。
魔除けのポーションくらいで驚かれてもねえ。




