54.VS巨大タコだかイカだか?
船に乗って南の島国フォティヤトゥヤァへと向かう私たち。
数日の船旅ということで、私は奮発して一番いい部屋を確保した。
「わー! おふねなのに、ふかふかベッドなのですー!」
一等室はホテルのスゥイートルームかってくらい広くて豪華だった。
シャワールームもあって、でっかいベッドまである。
ダフネちゃんとスィちゃんの妹奴隷ズが、楽しそうに走って、ベッドに飛び込む。
ばうんばうん! と二人が腹ばいのまま飛び跳ねる。
「おお、楽しそうでござるなぁ~。どれ拙者も!」
トーカちゃんもキングサイズベッドに飛び込んで、ばうんばうんしている。
「……三人とも、あまりはしゃぐとベッドのスプリングがだめになってしまうわ」
「でもたのしーのです!」「…………」こくこく「ゼニスも一緒にバウンバウンするでござる!」
三人でバウンバウンしてる。
かわよ。ゼニスちゃんはあきれたようにため息をつきながら、私を見やる。
「……セイ様。我々奴隷にもこのようなすばらしいお部屋を用意してくださり、ありがとうございます」
「いいってことよ。みんな仲間だし。それにこんなおっきな部屋、ひとりで使ったらさみしいわ」
「「「わーい! ありがとー!」」」
ふふ、微笑ましいわ……。
「マスター。ここドリンクのサービスまでついてます。以上」
「あんたはちょっとは遠慮しなさいよロボメイド……」
シェルジュがあいてるベッドを占領し、肘をついて飲み物を飲んでいた。
「ベッドはキングサイズが2つ。ソファが1つか。じゃ、奴隷ちゃんズで2-2-でベッド使って。私はソファで十分よ」
「マスター、ワタシは? 以上」
「あんたはスリープモードになるだけなんだから、床で十分でしょ?」
「労基署に訴えます、以上」
なによロウキショって聞いたことないわよ……。
「だめなのですっ。お姉ちゃんは、ベッド使って欲しいのです!」
「そうでござるよ、主がソファで従者がベッドなど、許せませぬ!」
「ええー……そう? 宮廷で働いてた頃は、結構ソファで寝てたから、別になれてるしいいんだけど」
「「「ノー!」」」
ということで、私はベッドを使うことになったのだけど……。
「せ、狭い……」
私の左右にまずダフネちゃんとスィちゃん。そしてゼニスちゃんとトーカちゃん……と。
奴隷ちゃんズ+精霊で、私のベッドは大変なことになっていた。
まあ、元々のベッドが大きいんだけど、さすがに五人じゃ手狭よねぇ……。
「マスター、モテモテ。ひゅーひゅー。以上」
「あんた一人でベッド使ってんじゃないわよ、ったく……」
★
トラブルが起きたのは、その日の深夜だった。
なんだか外が騒がしいなってことで、私は甲板へとやってきた。
「ひるむな、撃て、撃てー!」
「くそ! 当たらない……! なんて素早いやつなんだ!」
ったく、うるさいわねぇ……。
なんなの、この騒ぎ?
「セイ・ファート殿!」
「あら、あなたは確か……ブロッケスさん?」
砂漠エルフのイケメンが、大汗を搔きながら近づいてくる。
「セイ殿! 船内にお戻りくださいませ! ここは危険です!」
「危険? 何かあったの……?」
「はい。現在、この船が謎の巨大モンスターに襲われているのです」
「謎のモンスター?」
まあモンスターに襲われるのはわかる。
海に生息するやつっているしね。
でも謎のってどういうことかしら?
すると……。
海上からびゅるっ、と何か大きなものが這い出て、甲板の人をつかむ。
「ぎゃああ! たすけ、助けてぇえええええええええええええ!」
「あれは……触手?」
海から飛び出ていたのは、大きな触手だ。
吸盤付きの、でっかいやつ。
「イカ……いや、タコ?」
「やつは海から姿を見せないのです。敵影はあれど、まったく」
「ははあん……なるほど……海からこっちを攻撃してる訳ね」
けど謎のってことはないでしょ。
タコかイカの二択でしょうし。
船員が甲板から砲撃を行っている。
だが敵は素早く海の中を移動しているせいで、まったく当たらないでいた。
「おのれ! 私の大事な部下を! うぉおおおお!」
触手に捕まっている砂漠エルフさんを、ブロッケスさんが助けに行く。
ゴテゴテとした大剣を手に持って斬りかかるも……。
「ぎゃああああ!」
「ブロッケス様!」
あらら、逆に捕まってしまってるわ。
「触手を狙え!」
「ばか! ブロッケス様や捕まってるやつらに当たるだろ!」
「くそぉお! どうすればいいんだぁ!」
そのうち触手が船に絡みつきだした。
あー、もうめんどう。
「ロボメイドー」
「お呼びですか、以上」
寝間着のシェルジュが現れた。
猫の耳が着いた着ぐるみみたいなやつだ。
猫なのに、お腹の前に袋が着いていた。
モモンガ? 有袋類?
「ナンバー13ちょうだい」
「しょうがないなぁ~。以上」
いやにダミ声で、シェルジュが自分の下腹部に着いた大きなポケットに手をつっこむ。
「なんばー13~。以上」
「さっさとよこしなさい」
上級ポーション。別名、ナンバーズ。
魔法が付与された特殊なポーションだ。
私はナンバー13のポーションを振りかぶって投げる。
「夜中に騒ぐな、私の可愛い子らが起きちゃうでしょうがー!」
放り投げたポーション瓶が宙を舞う。
タコだかイカだかの触手がそれをぱりんと割った。
その瞬間……。
ガキィイイイイイイイイイイイン……!!!!!!
「なっ!? そ、そんなばかな! 海が……凍っただと!?」
ブロッケスさんを含めた砂漠エルフさんたちが驚いてる。
船の側面にいるだろう、イカだかタコだかのモンスターごと、海を凍らせたのだから。
「あ、あなたがやったのか……セイ殿? いったいどうやって」
「ええ。氷獄ポーション。一瞬で周囲を凍らせるポーションよ」
イカだかタコだかは水中に居て素早く動くのなら、水ごと凍らせればオールオッケー。
船の進行方向には氷を作らなかったから、問題なく運行は出来るでしょう。
「触手に捕まってる人の救助は任せるわ」
「セイ殿は!?」
「私は……寝る!」
まったく、夜中に起こすんじゃないわよってんだ。
「……あの化け物を一瞬にして無力化するとは。やはり……彼女は……すごい……。彼女ならば、窮地の我が国もきっと……」
ブロッケスさんが何かをつぶやいているのだった。




