53.いざ、海へ
私たち一行は雨の問題をクリアしたので、ついに、海に……出る!
港町まで戻ってきて、さっそく船の手配をする。
船に乗ったことがなかったので、ゼニスちゃんに手配してもらった。
どうやら海運ギルドってところが船や港を管理してるみたい。
「……手配して参りました」
「お、ナイスぅ。ありがとね」
ゼニスちゃんとトーカちゃんが、ギルドから帰ってくる。
私たちは近くの喫茶店でお茶を飲んでいた。
「スィちゃん、これはこーちゃ、ってゆーです」
「…………」ほぅ。
「おいしいのです!」
「…………」ごくごく。
「こっちはケーキ! おいしいのです!」
「…………」もぐもぐ。
「あ! お口にクリームが! だふねが拭いてあげるのですー!」
「…………」にこにこ。
とまあラビ族ダフネちゃんは、新しく加わった旅の仲間、水精霊のスィちゃんのよきお姉ちゃんムーヴをするのであった。
何分スィちゃん外に出たことがないため、何もかもを知らない。
ダフネちゃんが進んでスィちゃんにいろいろ教えている。
今まで末っ子ポジだったから、妹ができてうれしいのかもね。
「で、船のチケットだけど、行き先はどこになるのかしら?」
「……フォティアトゥヤァという、島国です」
「フォティヤトゥヤァ……ああ、なんか聞いたことあるような……砂漠エルフの国だっけ?」
「……ええ。ゲータ・ニィガ王国の南にある島ですね」
「おお、南の島でばかーんす! 楽しそう!」
行き先はゼニスちゃんに決めてもらったのだ。まあ私はどこでも良かったので、この子らに任せようかなって。
まあ島はどこでもいいけど楽しいとこがいいってねリクエストは出しておいた。
「治安とかってどうなの?」
「……悪くないと聞いてます。砂漠エルフたちは人間に友好的な種ですから」
砂漠エルフ。昔はダークエルフとか言われていた連中だ。
ゼニスちゃんたち森に暮らすエルフとは違って、暑いとこに住んでるのよね。
「よっしゃ、じゃ船に乗りましょう。めざせ、フォティヤトゥヤァ!」
「「「「おー!」」」」
★
「「「おえぇええ…………」」」
船の上の人っとなった私たち。
奴隷ちゃんズは船の甲板でダウンしている。
「きもちわるいのですぅ~……」「はきけが……うぷ……」「……これは、船酔いという現象で、うぷ、三半規管にダメージを負って……おえ」
奴隷ちゃんズは船に弱いみたい。
「ゼニスちゃんも船は初めて? 元王族だから乗ったことあるかなって思ってたけど」
「……そうですね。知識では知ってたのですが、乗るのは初めて……うぷっ」
あらら、みんなお辛そう。
ロボメイドはロボだから平気、スィちゃんは精霊だから平気。
「マスターは人間でないので平気。以上」
「おいこらロボ。私は人間だぞ」
「……セイ様はなぜ平然としてるのですか?」
「私が平気なのは、まあ師匠の下で錬金術を習っていたとき、あちこち行った影響だからかな。無人島でナイフ一本で脱出しろとか、火山の火口から蝋燭を溶かさずに脱出しろとか」
そりゃもう過酷な修行をやってたので、いろいろと力もついたってわけよ。
「……そんな恐ろしい経験をなさったのですね」
「主殿……かわいそう……」
「おねえちゃん、だふねもつらかったけど、おねえちゃんとあえてとっても楽しいよ!」
奴隷ちゃんズが私に抱きついてくる。
あれ、なんか同情されてる!? なんで!?
「「「うぷ……」」」
「あらら、辛いのね。そんなときは……お薬作りましょうかね」
といっても、船酔いに効くポーションは持ち合わせてない。
師匠の工房にいたとき、ポーションをいくつか作って補充しておいたけど、まさか船乗るなんて想定していなかった。
だからストックはない……けども!
「スィちゃん、さっそく出番よ!」
「…………!」びしっ。
スィちゃんが敬礼のポーズを取る。
そういえば船の料金、スィちゃんの分も普通に取られた……。
位の低い精霊は見えない人多いけど、スィちゃんは精霊女王の娘ってことで、位が高く、肉眼でも見えるんだってさ。
だから盗賊のやつらがスィちゃん見えてたのねー。
「じゃ、魔力水ちょーだい」
スィちゃんが両手を伸ばして、手のひらの上に水球を作る。
翡翠がかかった水……おお、本当に魔力水だ。
これ、まじで作るのちょ~~~~~ったいへんなのよね。
すごい簡便に作れるようになって、とっても助かるわー。
「さてこの魔力水を、錬金工房に入れてっと」
私は空中に光るキューブを出現させる。
これは錬金工房。魔法で作られた異空間で、この中で錬金術の作業を行える。
空間の中は外とは時間の流れが違うため、どんなポーションもちゃちゃっと作れる。
「ここに魔力水、各種ハーブを入れて混ぜます」
あとはウンディーネからもらった水晶でポーション瓶を作り、そこの中にお薬を注ぐ。
「はい。船酔いに効くお薬よ。【適応ポーション】っていうの」
私は奴隷ちゃんズに適応ポーションを飲ませる。
すると……。
「わぁ! すごぉい!」「気持ち悪いのが一発で治ったでござるー!」「……飲みやすくて、とてもおいしいです。さすがセイ様のポーション」
奴隷ちゃんズから尊敬のまなざしを向けられる。
いやぁ、どうもどうも。
「す、すみません、そこのお嬢さん?」
「ん? あなた誰?」
「失礼……旅のものでして。ブロッケスと申します」
背の高いハンサムな男だ。
ターバンみたいなものを頭に巻いてる。
小麦色の肌に、とがった耳。
「あら、あなたもしかして砂漠エルフ?」
「はい。その通りです。祖国に帰る途中でして……しかし部下たちが船に酔ってしまったのです。もしよろしければ今の素晴らしいポーションをおわけいただけないかと」
「いいわよ」
「ありがとうございます。では……」
「ちょっちまってね。さくっと作るから」
私は素材をぶっこんで、どちゃっ、と甲板に適応ポーションの束を置く。
「…………」
「とりあえず100本あるんだけど」
「あ、え、えっと……10本程度で良かったのですが」
「あらそうなの。じゃ好きな数持ってって」
「……すごい。我が国の宮廷錬金術師でも、ここまで早く魔法薬を作れるものはいない。彼女は……何者……」
ブロッケスさんが何かブツブツ言ってるわ。
ま、どうでもいいけど。
「もってかないの?」
「ああ、すみません。それでお代なのですが」
「え、いらないわよ」
「……は? わ、わたしの聞き間違えでしょうか? お代がいらない? 船酔いを一発で治す、素晴らしい薬なのに?」
「うん。作るのも手間じゃないし、材料費もただ同然だしね」
前までだったら、魔法水を作るのにすごいコストがかかっていた。
でも今はスィちゃんがいるので、一番作るのに金がかかった魔法水をただで使い放題!
だからお金なんてもらわなくてもいいのよね。
「おお……なんということだ。困ってるわれわれに、無償で薬を譲ってくれるなんて。あなたはとてもおやさしい」
「そういうのいいから、ほら、部下さんたち待ってるんでしょ? 届けてあげなさいって」
「ありがとうございます! あとで、正式にお礼に参りますので、お部屋の番号を教えてください」
フォティヤトゥヤァまで結構距離有るので、何日か船の中で泊まることになる。
まあ別にお礼なんてどうでもよかったけど、是非にと熱心だったので、仕方なく部屋番号教えてあげたのだった。
「それにしても、さっきのイケメン、誰なんだろうね?」
「……私はどこかで見たことがあります」
「あらゼニスちゃん、どこかって? 直近?」
「……まだ私が王女だった頃だったので、大分前ですが」
ふぅむ、なおさらあの砂漠エルフ、何者なんだろうかって気になったのだった。




