50.VSドラゴンゾンビ
私は水精霊に依頼されて、病気で苦しむ彼女たちを助けに来た。
病気の特効薬を投与し終え、治療を終えた私は、さて帰ろうとしたそのとき。
精霊たちに病気をもたらした元凶、屍竜が出現したのである。
『ウロォロロロロロロロォオオオオオオオオオオ!!!!!!』
屍竜が叫び声を上げる。
大きさで言えば2メートルくらいかな。
通常のドラゴンよりやや小ぶり、多分子供の竜なのかも。
肉体が腐り落ちていて、眼窩には目玉が見当たらない。
体からは緑色の腐った膿がボタボタと垂れている。
鼻を刺すような刺激臭はこれが原因だろう。
「あうぅううう! こわいのですぅ……」
ダフネちゃんがガタガタと震える。
水精霊のスィちゃんが、ぎゅっとダフネちゃんを抱きしめていた。
トーカちゃんとゼニスちゃんは緊張の面持ち。
ちょっとこの子らに戦闘を任せるのは無理そうね。
「シェルジュ。狙撃」
「了解。以上」
ストレージから拳銃を2丁とりだして、屍竜に対して狙撃。
ドドゥ! と発射された銃弾は、しかし敵に着弾する前に溶けた。
「あれま。銃弾が効いてない」
「解析完了。敵の吐き出す腐食ガスには、通常の攻撃を溶かす効果があります。以上」
ロボメイドには解析機能がついてる。
シェルジュがいうとおりなら、物理攻撃は無意味ね。
一方水の精霊たちの女王、ウンディーネが部下たちに命令する。
【魔法で迎撃するのじゃ!】
精霊たちがうなずいて、両手を突き出す。
彼女たちが手をかざすと、巨大な水球が発生。
シェルジュが私の首根っこを、トーカちゃんがゼニスちゃんたちをつれて一時撤退。
【放て!】
どばっ! とすさまじい水の流れが屍竜に向かって流れる。
「……極大魔法の【水竜大津波】です。無詠唱で放つなんて、さすが水の精霊」
魔法に詳しいゼニスちゃんが驚いてる。
だからまあ、すごい魔法を撃ったのだろう。
水の流れはまとまって竜へと変わり、屍竜を飲み込む。
【やったのか!?】
「いーや、まだのようね」
『ウロォロロロォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!』
ゾンビのやつは魔法の直撃を受けてもなお元気そうだ。
女王が目を剥いてよろける。
【極大の水流をうけて、ノーダメージじゃと……? どんな手品を使っているのじゃ!?】
「うーん。ゼニスちゃん。炎で攻撃。あんま威力無くていいわよ」
ゼニスちゃんが困惑しつつも、こくんと素早くうなずく。
物わかりのいい子って素敵よ。
「……【火球】!」
師匠の塔で私が教えた、無詠唱魔法で攻撃するゼニスちゃん。
飛んでいった炎の玉は、しかしゾンビに届く前にジュッ……と消える。
「やっぱりね。おかしいと思ったのよ。あの大量の水を受けてノーダメってのは不自然だし、何より……あの大量の水どこ行った問題がある」
その答えは単純。
「腐食には、物理だけでなく、魔法攻撃すら無効化するということですね、以上」
「そーゆーこと」
「……そんな。こちらからの攻撃はすべて無効化。しかも近づけばドラゴンの餌食。無敵じゃないですか」
奴隷ちゃんズと、そして精霊たちが震えている。
ま、そりゃこんだけ攻撃しても倒れないんじゃ、怖くなっても仕方ないっか。
「ウンディーネ。それと水の精霊たちは後ろで、水のバリアを張って待機」
「主殿はどうなさるのですか!?」
「私はあれをぶっ倒してくるわ。仕方ないから」
こんなのサラリーに入ってないけど、ま、サービスよ。
はぁ……サビ残とかなつかしいし、思い出したくもない……ほんとやだなぁ、だるいなぁ。
「…………」
スィちゃんが私のそばへと近づいて、腕を引っ張ってくる。
「あら、どうしたの?」
「えとえと、【おやめください、死んでしまいます】なのです」
ダフネちゃんが一緒についてきて、精霊の言葉を代弁する。(ちーちゃん経由だけど割愛)。
「ありがと、優しいのねあなた。でも私のほうはいいから、ダフネちゃんを守ってあげて」
「えと……【しかし……】なのです」
「うーん……」
めんどうだからさっさと片付けたいんだけどなぁ。
するとダフネちゃんがスィちゃんの手を握って言う。
「だいじょーぶなのです! おねえちゃんは、とぉっても強いの! おねえちゃんが、だいじょーぶって言うときは、だいじょーぶ! だから、信じて待つのです!」
おお、ダフネちゃんナイス説得。
信頼してくれるのってうれしいわね。
スィちゃんは迷った物の、こくんとうなずく。
よきよき。
「じゃ、ウンディーネ。バリアよろしく。特にそこのロボメイドは腐食に弱いから、厳重に守ってあげてね」
私はまっすぐに屍竜に向かって歩いて行く。
怖い? いや、別に……ね。
師匠のとこで弟子していたときは、こんな化け物と遭遇することしょっちゅうだったからね。
あんまり怖いとは思わないわ。
『ウロォロロロォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!』
ごぉ……! と屍竜がブレスを放つ。
「警戒。圧縮した腐食ブレスです。以上」
物理、魔法を解かすほどの腐食ガスを、ドラゴンお得意のブレスにして放つのね。
けど私は避けない。いいえ、避ける必要が無いって言った方がいいかしら。
どがぁああんん!
【人の子よ! ああ……終わりだ……脆弱な体では竜の息吹は保つまい】
「いや、生きてますけどね」
【なんじゃとぉおおおおおおおおおおおおおお!?】
女王様はしたないですわよっと。
『う、うぉ……うろぉお……』
「あら、どうしたの? 必殺技が通じなくって予想外? 残念ね、あなたの腐食は、私には効かないわ」
精霊たちの病気の原因は、このゾンビによるブレスの影響。
その特効薬を私を含め、全員が体内に投与済み。
「腐食攻撃は特効薬を受けた人間には無効よ。腐食のないガスなんて、ただの風にすぎないわ」
まあ風圧で吹っ飛びそうになったけど、足下に固定ポーションを蒔いといた。
足を地面とくっつけておいたので飛ばなかったってわけ。
溶媒液でそれを解いて、私は屍竜に近づく。
「じゃ、今度は私の番ね」
私はシェルジュに持たせておいたポーション瓶を二つ取り出す。
魔法で宙に浮かせて、3つめの瓶を取り出す。
液体を空中で混ぜ混ぜして、3つめの瓶のなかにいれる。
「そーら、食らいなさい!」
私は瓶をゾンビに向かって投擲。
瓶は腐食攻撃を受けて中身が飛び散る。
バシャッ……!
『う、ぐ、ああああああああああああああああああああああああ!』
じゅううう……とゾンビの体から湯気が立ち上る。
音を立ててゾンビは倒れ込んだ。
【た、倒して……しまった……すごい……】
「いや、生きてるわよ」
【なんじゃと!?】
どろどろだった屍竜の体がみるみるうちに元に戻っていく。
腐った肉体が復元し、元の美しい金剛石のボディを持った竜へと変貌をとげた。
「……い、今なにをなさったのですか?」
お、ゼニスちゃんたち無事ね。
精霊たちの水のバリアのおかげで問題なかったみたい。ま、特効薬受けたからこの子たちも無事なのは確定してるけど。
「浄化ポーションを使ったのよ」
「……腐食ガスを浄化しても、あのようにゾンビが復活するとは考えにくいのですが」
「そうね。だから病気の特効薬である、精霊薬をまぜて、浄化ポーションの効果をそこあげしたの」
あのゾンビにも病原菌の感染が見られた。
となれば、精霊薬で病原菌を取り除けば、浄化が効くって思ったのよね。
「わぁ! わぁ! すごいすごい! おねえちゃん、すごーい!」
ダフネちゃんとスィちゃんが近づいてきて、抱きついてきた。
おお、冷たくて気持ちが良いのぉう。
【信じられぬ……まさか竜を討伐するのではなく、治してみせるとは】
「オーダーはあんたらの病気を治すだけだったからね。このドラゴンを殺す必要まではないでしょ?」
金剛竜が立ち上がって、深々と頭を下げる。
「おねえちゃん! ドラゴンさん、【ありがとうございます、聖女様】だって!」
動物の言葉のわかるダフネちゃんが代弁する……。
いやいや、違うから。
「私聖女じゃ無くて、錬金術師だから」
精霊たちも、そしてドラゴンさえも、ぽかーんとした顔になった。
なんだその顔。
ま、なにはともあれこれで問題解決ね。




