47.盗賊をぶっ倒す
うざい聖騎士のもとを離れるため、海を渡ろうとした私だったが、大雨のせいで船が出ない状況。
この雨を降らせているのは水の大精霊ウンディーネらしい。
私は雨を止めてくれと説得(物理)するため、精霊の住まうリィクラ岳へと向かった。
「……セイ様。お気を付けください。リィクラ岳は盗賊の住処とされておりますので」
「忠告ありがとーゼニスちゃん。お礼に頭をよしよししてあげましょう、なーんて子供っぽい……」
すっ、とゼニスちゃんが素直に頭を差し出してきた。
あれこの子結構クールで大人っぽかったような。ま、いいけどさ。
「むむ! だふねも頭なでなでがほしーのです!」
「お、そうかい。おいでおいで」
「でもでも、何もしてないのになでなではよーきゅーできないのです! むむむー! はっ! 人か近くに居るのです! 武器持ってるです!」
「おおう、ダフネちゃんなーいす。ご褒美なでなでしましょう」
「わーい!」
私は奴隷ちゃんズの頭をよしよしなでなでしながら、御者をやってくれてるトーカちゃんとロボメイドのシェルジュに言う。
「この先に多分盗賊いるわ。トーカちゃんは敵を無力化して。シェルジュはここに残って遠距離からのサポート兼、護衛。ま、念のためね」
「了解でござる!」「了解。以上」
ラビ族ダフネちゃんのスーパーイヤーは地獄耳、じゃなくて高感度レーダーのようなものだ。
なにせレーダー持ちのロボメイド以上に広範囲で、敵の音を拾えるんだから。
「うちの子はすごい子だ。おーよしよし」
「えへー♡」
「……外は大丈夫でしょうか。トーカひとりで」
「だいじょーぶっしょ。銃声しないから、多分トーカちゃんひとりでなんとかなってるのね」
竜車を止めてからしばらくして、トーカちゃんが戻ってきた。
「ボコってきたでござる!」
「おーけーおーけー。ご苦労様。幌の中で休んでちょうだい。シェルジュ、行くわよついてきて」
雨外套を身につけ私は外に出る。
うひー、すごい雨……。
「ん?」
「わくわくでござる」
トーカちゃんがキラキラした目で私を見てきた。
びったんびったん、とお尻から伸びてる尻尾が揺れている。
ああ……褒めて欲しいのね。
なでなで。
「がんばったがんばった」
「えへへ♡ わーい! ダフネー! 拙者も褒めてもらったでござるー!」
「わー! ほめほめ仲間だね!」
うちの奴隷ちゃんズは仲がいいですなぁ。
私はシェルジュを連れて、トーカちゃんが無力化した盗賊たちの元へ行く。
少し離れたところに、ロープで捕縛された盗賊たちがいた。
結構数は居る、15人位かしら?
「こんにちは。私はさっきのきゃわいい奴隷ちゃんの主よ」
「ちっ。くそ……あんな強い奴隷連れやがって!」
一人だけ私には向かってきた盗賊が言う。
ほかの連中が黙ってるから、こいつが現場指揮官かしらね?
「戦力を見誤ったわね。さて……と。私はこれから安全にリィクラ岳を通り抜けたいの。私たちを狙わないって約束してくれる? できればアジトに戻ってそれを周知徹底してもらいたいのよね」
ゼニスちゃん情報だとこの辺の山岳地帯には、盗賊たちがうようよ居るらしい。
その都度邪魔されたんじゃ面倒この上ない。
そこでいったんこいつらを捕まえておど……説得し、私たち襲わせないよう約束させる。
って作戦。
別に盗賊全員をとっちめてやんよ! みたいな気概はないわ。
私は正義の味方じゃあないし、仲間が安全に旅できればノー問題なわけよ。
「女のくせに偉そうに……」
ちゃき、とシェルジュが銃口を現場指揮官に向ける。
ちょいちょい、このロボメイド沸点低すぎでしょ。
「マスター。発砲許可を」
「せんわ……。ったく、なに撃ち殺そうとしてるのよ」
「マスターをなじっていいのはメイドであるワタシだけです、以上」
「んなこと許したことないてーの。まったく」
私はしゃがみ込んで、指揮官に顔を合わせて言う。
「あんたたちをぶっ殺そうと思えばいつでもできたの。それでも生きてる意味をよーく加味してましょうね」
「ぐ、く、くくく……ば、ばか女が。おれは単なる現場の指揮官にすぎねえ。お頭がきたらてめらなんて皆殺しだ!」
あら、強がってまあ……。
お頭ねえ。やっぱりボスは別にいたのか。めんどうだなー。
「マスター、これからどうしますか? 以上」
「ちょい待つ。もう少しすれば、仲間が帰ってこないからって、向こうから顔出すでしょ」
と、そのときだ。
どんっ、とシェルジュが私を突き飛ばす。
さっきまで私が居た場所に、大量の水が降り注ぐ。
水圧に押されてシェルジュが地面に押しつけられる。
「ちぃ、勘のいい雌がいるじゃあねえか」
「お頭ぁ……!」
いかにも悪そうな男が私に近づいてくる。
シェルジュは今なお、謎の水によって頭から押さえ込まれている。
……まったく、あのロボめ。
最近割と反抗するようになってきたと思ったら、急に従者らしいことしてくるんだから。
「この水、あんたがやったの? 魔法を使えるほど、頭良さそうに見えないんだけど?」
「言ってくれるじゃねえか嬢ちゃん。ご名答、おれさまの力じゃあねえ。こいつの仕業よ」
じゃら、と盗賊のお頭が右手に持っていたものを持ち上げる。
それは鎖であった。その先には……。
「精霊……奴隷の首輪?」
「ご名答。この水の精霊を捕まえて、おれさまの奴隷にしてるのさ!」
お頭の隣にはふよふよと浮いてる、水の体を持つ女の子がいた。
水の精霊は魔道具、奴隷の首輪によって捕まり、無理矢理言うことを聞かされてるのね。
……悪趣味なやつら。
「おら、あのメイド女を窒息させろ。できんだろ? あ?」
水の精霊ちゃんは嫌そうに首を振る。
人を傷つけたくないのね。優しい子だわ。
「命令を聞きやがれ!」
びくん! と精霊ちゃんが体をこわばらせる。
奴隷の首輪は主人に反抗すると、高圧の電流が流れる仕組みになっているのだ。
私は魔道具にも精通してるので、あれのことはよーく知ってる。
ええ、よーくね……。
あー……なんだろ、ちょーむかつくわ。
人を無理矢理従わせて、働かせるってのが、昔の私を思い出してぶち切れそう。
「うん、許せないわね」
私は懐に手を入れて、目当てのものを手に取る。
「おっと嬢ちゃん動くんじゃあねえぞ。そこから一歩でも動けばメイドさんは窒息し……おいおいおい!」
私はスタスタとお頭に近づいていく。
お頭は精霊ちゃんに命令して、ロボメイドの顔の周りに水を集める。
「おい近づくんじゃねえ! 死ぬぞこいつが!」
「死なないわよ。その子。息しなくても生きてけるから」
「ぼぼぼぼーびべぶ、びびょぶ」
ロボだからね。呼吸しなくてもいいの。
私はお頭に固定ポーションを投げつける。
瓶がぶつかると中から固定化の液体がビシャッと出る。
「んだこりゃ! う、うごけねえ!」
「そこでおとなしくしてなさい。さて……精霊ちゃん。もう大丈夫よ」
私は精霊ちゃんの首輪に、また別の液体をかける。
「は! 何しようとしてるのかしらねえけどよ、奴隷の首輪は無理矢理はずそうとすれば……」
「首がぼーんって吹っ飛ぶんでしょ」
「な、なんでてめえ知ってるんだ……?」
「そんなの、錬金術師だからに決まってるでしょ」
ポーション作成だけでなく、魔道具の作成も私たちの仕事だからね。
よーく知ってるわ、この首輪の仕組みも。
解除の仕組みも、ね。
私はポーションを作るときの溶媒液を取り出して、ちょろちょろと首輪にかける。
すると首輪はあっさり溶けて落ち、精霊ちゃんが自由になる。
「これでもう自由よ。どこにでも行きなさい」
精霊ちゃんは何度も何度も私に頭を下げた後、どこかへと消えていく。
「し、信じられねえ……奴隷の首輪を解除だと? そんな不可能やってのけるなんて……」
「あら、不可能でもないわよ。構造を知ってりゃ割と簡単にね……。さて……」
私はにっこりと笑う。
「抵抗の意思あり、と見なしていいわね? シェルジュ?」
「マスターに同意いたします。以上」
私はポーション瓶を持ってにやりと笑い、シェルジュは銃を両手にもって構える。
「お、お、お助けええ……!」
「「ゆるすか、馬鹿」」




