45.崩落した橋
聖騎士がうざいので、私たちは海外へ逃亡しようと考えたけど、大雨の影響で船が軒並み出てくれない。
それは水の精霊が悪さしているからと知った私は、説得(物理)しにいくことにした。
精霊が住むのはリィクラ岳という場所。
港町を出発して、東へ向かって進んでいくとやがて森にさしかかる。
がたん、と竜車がとまった。
「シェルジュ。どうしたの?」
御者はロボメイドにやらせている。
雨にいくら濡れても防水加工なのでOKなのよ。
「トラブルのようです。話を聞いて参ります」
ほどなくしてロボメイドが戻ってきた。
「どうやらこの先の川が大雨の影響で増水し、川にかかっていた橋が崩落したようです」
「ほーらくってなんなのです?」
「崩れ落ちたってことよ」
なるほどーと感心するダフネちゃん。どうやら状況があんまり理解できてないのかな。
しかし橋が壊れたのか。
「私が錬金術でぱぱっと治そうかね」
「……しかし川が増水してるのであれば、橋を直しても、また壊れてしまうのではないでしょうか」
「お、確かに。ゼニスちゃん頭いいね!」
「……あ、ありがとうございます」
ゼニスちゃんが顔を赤くしてもじもじしてる。最近このこ挙動が変なのよね。
まあかわいいからいいけど。
「主殿、川の水をポーションで減らすことはできないのでござるか? 蒸発させるとか」
「うーん、一時的な増水ならまだしも、雨が降り続いてる状況だからね。水の量減らしてもすぐまた戻るだろうし……うん。シェルジュ。地図」
ロボメイドに周辺の地図を表示させる。
ふむふむ。
「よし。シェルジュ、トーカちゃん。悪いんだけど力仕事お願いしたいの」
「合点承知!」
「マスター、ロボ使いが荒くないですか? 以上」
「トーカちゃんはともかくあんたは疲れないでしょ?」
私たちは川から離れた森の中へと移動。
「じゃ、手はず通り。まずは伐採からよろしく」
「応でござる!」
「やれやれ。労働基準法違反です。以上」
トーカちゃんは斧で、ロボメイドは腕を変形させたチェーンソーで、指示した一帯の森の木を伐採させていく。
師匠の工房でパワーアップしたトーカちゃんからすれば、どんな木だろうと豆腐のようにスッと切れる。
ふたりはあっという間に森の木を切り終えた。
「お疲れ様トーカちゃん。あとは私とこのロボがやるから、中で休んでて」
「わかったでござる!」
「とーかちゃん、タオルなのですー!」
「おー! ダフネ、気が利くのでござるー」
「だふねがごしごしするのです!」
ダフネちゃんがトーカちゃんの髪の毛をわしわしと拭く。
ほんと仲いいわねー奴隷ちゃんズは。
私はシェルジュと一緒に馬車の外へ出る。
雨外套を身につけているとはいえ、顔に雨が当たってうっとおしいわー。
「そんじゃ行くわよロボメイド」
「……セイ様。私もお供いたします」
ゼニスちゃんも後ろから着いてきた。
「雨に濡れるから待ってればいいのに」
「……いえ、見学させてください」
「ん。ま、別にいいわよ」
まあ本人がいいっていうならいいか。好きにさせてあげよう。
私は伐採した森の中にいる。
「シェルジュ。上級ポーション。No.11」
上級ポーション。魔法ポーションとも言う。
私の場合は上級ポーションに番号を振っていて、ナンバーズ・ポーションとも読んでいる。
薄紅色のポーションを、シェルジュが取り出す。
魔法ポーションは作成者の魔力に反応して効果を発揮するので、どーしても私が自分の手で使わないとだめなのよね。
地図機能のついてるシェルジュに指示してもらいながら、私はポーションを地面に垂らしながら歩く。
「……セイ様は、いったい何をなさるつもりですか? トーカに木を切らせて」
「んー? 川の水を減らすために、川を作るの」
ぽかん……とゼニスちゃんが口を開いている。あらかわいい。
「……か、川は作れるものなのですか?」
「まあね。正確には支流を作る感じかな。水をそっちに逃がすことで水量を減らすの」
大きな一本の川から、もう一本の別の川を作る。すると水がそっちに逃げるので水かさが減るという寸法だ。
「……理屈はわかりましたが、そう簡単に川なんて作れるのですか?」
「うん。そこでこのNo.11の出番ですよ」
私は大きくポーションをどぼどぼと地面にまきながら進んでいく。
川の近くからスタートして、ゆっくり半円を描くように歩きながら、やがてまた川縁に戻ってきた。
「よし。あとはこのA液に対して、B液を垂らす」
今までまいていた薄紅色のポーションA液に対して、今度は青いポーションB液を垂らす。
すると……。
ちゅどどどどどどどどぉおおおおおおおおおおおおおおおん!
連鎖的に爆発が発生する。
「きゃっ!」
びっくりしたゼニスちゃんが私の体に抱きついてくる。
「大丈夫大丈夫。私が人為的におこした爆発だから」
「……ば、爆発を起こした?」
「そ。【爆裂ポーション】。薬品を混ぜることによる化学反応で、爆発を起こすポーションよ」
液体をまいたところに爆発が起きるようになっている。
川縁から半円を描くようにポーションをまいたため、その部分の地面がえぐられ、そこへ水が流れ込む。
途中で広めの湖ができるように撒いておいたので、まあ支流が氾濫することはないだろう。
まあ水の勢いと水量から計算して、氾濫しないように貯水湖を作ったから、大丈夫だろうね。
「なんだ爆発が!?」「み、見ろ! 川の水がドンドンと減っていく!」「ほんとだ! どうなってるんだ!?」
川の前で立ち往生していた商人や旅人たちが驚いてる。
その間に私は壊れた橋の前へとやってきた。
「あとは壊れたこの橋に、【修復ポーション】をかけてっと」
砕け散った石畳の橋が、みるみるうちに元通りになっていく。
水量も減ったので、これで橋が壊れることもないだろう。
「見ろ! 今度は橋がなおってる!?」
「ど、ど、どうなってるんだぁあああああああああ!」
驚いている商人たちをよそに、私たちは馬車へと戻る。
「……お見事ですセイ様っ。まさか川をもう一本作ってしまうなんてっ」
「やーやーどーも」
私は幌付きの荷台へと入る。
「おねえちゃんおかえりなのです!」
「温かいお茶を用意しておいたのでござるー!」
「お、ありがとー二人とも」
「だふねがぎゅってして暖めてあげるですー!」
ぎゅーっとダフネちゃんが抱きついてきて、私は魔道具で暖めた紅茶を飲む。
その間に馬車は問題なく橋を経由し、向こう岸へと到着。
「マスター。私へのねぎらいがありませんが。以上」
「はいはいお疲れ」
「そのうちスト起こします。以上」




