40.聖王、爆誕
弟弟子を説得(物理)した!
「すみませんでした……」
半壊したエルフ王の城にて。
サザーランドが涙を流しながら土下座している。
人工炎精霊によってサザーランドは、チリも残さず消し飛んだ。
その後私が蘇生ポーションを使って、元通りにしたけどね。
「相変わらずセイ先輩やべえ……消し炭から人間を復活させるなんて、人間の所業じゃないだろ……」
「なにか、言った?」
「ひぃいいい! なんでもないですごめんなさいすみませんでしたぁああ!」
サザーランドが頭をこすりつけて謝罪する。
まったく、やれやれだわ。
「今度また師匠の術を悪用したら、次は蘇生しないからね」
「それはもちろん! 神に、いや、セイ先輩に誓って!」
「わかったわ。あんたの言葉信じてあげる」
「はは~! ありがたきしあわせ~!」
なにこれ? まあいいわ。
次また悪いうわさを聞いたらほんとに許さない。
……甘いかしらね、処罰が。でもこいつも昔はいい子だったのよ。
ちょっと調子に乗りやすい子だったけどね。
なんだかんだ言って、同門の弟子だから、殺すなんて物騒なことはできなかった。
まあ次は殺すけどね(暗黒微笑)。
「セイ様!」「おねえちゃん!」「主殿ぉ!」
奴隷ちゃんズがほかのエルフさんたちを連れて、壊れた王城へと駆けつけてくる。
「みんな心配かけてごめんね。大丈夫、私はケガひとつしてないわ」
「よかったのですー!」「主殿が御無事でなにより!」
奴隷ちゃんズが私にぎゅーっと抱き着いてくる。
大人びたゼニスちゃんもくっついていた。あらやだかわいい。
後ろから何食わぬ顔で、ロボメイドのシェルジュが立っていた。
「あんたは心配しなかったの?」
「全く。むしろ敵に同情しておりました。以上」
「ひどいわ。敵が予想以上に強かったら死んでたかもしれないのに」
「魔王か邪神でも復活しない限り、ポーションを持ったセイ様が負けるわけがありません。以上」
そうだ、とサザーランドが顔を上げて訪ねてくる。
「セイ先輩、モンスターパレードに巻き込まれたらしいですけど、セイ先輩なら全滅させられたんじゃないですか? 無駄に強いですし」
「あ? 無駄に?」
「ひぃい! すみませんすみません!」
まあ、確かに当然の疑問かもしれない。
500年前、私は王都を襲ったモンスターの大軍を相手に、戦うんじゃなくて身を隠すを選択した。
「私の強さって、ポーション依存なのよ。魔法ポーションがそろってれば、まあ負けなかったとは思うけど。あのときは、手持ちのポーションが足りなかったからね」
今回は師匠の工房で補給したからね。
人工精霊を作り出せた。
けど500年前のあの日は、突然モンスターが襲ってきたこと、そして連日の激務で家に帰れず、魔法ポーションを作る素材を切らしていたこと。
それらの要因が重なった結果、私は戦うんじゃなくて、仮死状態になってやり過ごすことになったわけだ。
まあもう補給はすませたから、誰にも負ける気はしないけどね。
「聖女さま」
「あなたはたしか、ロビンさん?」
「はい。聖女様……あなた様が森の王を成敗してくださったのですね」
「ええ、もう悪いことしないと思うから、許してあげて」
奴隷ちゃんズと一緒に、牢屋に囚われていたエルフさんのひとりだ。
ロビンさんはスッ、と私の前でひざまずく。ほ?
「感謝いたします、救国の聖女様。あなた様のおかげで、この国は救われました」
ロビンさん以外のエルフさんたちも、つぎつぎにひざまずいていく。
口々に「ありがとうございます!」「聖女様ありがとう!」「われらをお救いになられた素晴らしい聖女様!」とほめてくる。
「ちょと大げさじゃない……?」
「いえ、我らは長い年月、森の王による支配に苦しんでいました。何人もの勇敢な若者が挑み、そしてやつには勝てず、牢屋に入れられ悔しい思いをしておりました……」
なるほど、ロビンさんを含めたエルフさんたちは、森の王に逆らったからつかまってたのね。
「聖女様、どうか哀れなる我らの頼みをお聞き願いませんでしょうか」
「あー、まあ、いいわよ。なに?」
たぶん瘴気関連のことよね。
こないだのララちゃんの村以外の地域では、まだまだ瘴気による大気・土壌汚染がひどいみたいだし。
まーあまり長居したくないけど、乗り掛かった舟だし、浄化を手伝ってあげるか。
私の可愛いゼニスちゃんの故郷だしね。
「聖女様。どうか、エルフ国アネモスギーヴの、新しい王になっていただけないかと」
「はいはいいいよ……って、ん? んんぅううううううううううう!?」
い、今なんて?
新しい……王?
いや、王なんて勘弁なんですけど!
そんな面倒なこと引き受けたくないわ!
「聞いたか皆の者! ここに、新たなるエルフの女王さまが、誕生なさったぞ!」
「「「うぉおおおおお! 女王陛下ぁあああああああああ!」」」
ええー……! な、なんか承認されたことになってる!?
「いや、あの……はいはいってゆーのはね、瘴気の浄化のことであって、女王を引き受ける気は全くないんだけど……」
「聖女様が女王様になられた、つまり! 今日からこのお方を聖王さまと及びしよう!」
「「「聖王さまぁああああああああああ!」」」
ロビンさんもエルフさんたちも全く聞いてくれない……!
奴隷ちゃんズは後ろで腕を組んで、うんうんとうなずいてる。
「おねえちゃんはやっぱりすごいのですー!」
「主殿のすごさを考えれば、女王になられるのもうなずけるでござるな!」
「……確かにセイ様がいれば、この国は安泰でしょう」
するとシェルジュが近づいてきて、ぽん、と肩をたたく。
「ドンマイ。以上」
「もう! なんでこうなるのよ……!」
「ヒント。普段の行い。以上」
こうして何だか知らないけど、聖王になってしまったのだった。




