39.人工炎精霊《スピリッツ・ファイア》
私ことセイ・ファートは、エルフ国アネモスギーヴに来ている。
この国を支配してる、森の王とか言う愚か者に、一言もの申したくて王の下へとやってきた。
そしたら、そこにいたのは、師匠の弟子の一人、サザーランドだった。
「なんだサザーランドじゃない、生きてたの?」
「ひいぃいいいいいいいい! せ、先輩ぃいいいいいいいい! なんで!? なんでセイ先輩が生きてるんですかぁあああああああああああああ!?」
玉座にふんぞり返っていたムキムキエルフが、がくがくと震えている。
「失礼な。まるで人を幽霊みたいに言うんじゃあないわよ」
「幽霊じゃないんだったら、誰なんだよ!」
「だからセイ・ファート本人だけど?」
「だって、先輩ってたしか、500年前のモンスターパレードに巻き込まれて死んだはずじゃ……!」
「仮死状態になって生きてたのよ。ついこないだまでね」
「そん……な……」
愕然とした表情のサザーランド。
てゆーかこいつが生きてることに、私も驚いてる。
あ、でもそっか。エルフって人間よりも長生きだからね。
500年経っても生きてるやつがいても、おかしくないわけか。
「さ、サザーランド様どうなさったのですか!? 早くこの女を倒してくださいよぉ!」
なぜか居合わせていた、工房の責任者のアブクゼニーがそういう。(私が物理的に排除したはず)。
「ば、馬鹿野郎! おま……このお方を誰だと思ってるんだ!?」
「だ、誰ですか……?」
「我ら【フラメルの使徒】なかで、最も強く……そして最もおそられている、第一使徒! 【万象の王セイ・ファート】だぞ!」
フラメルの使徒とは、私の師匠、ニコラス・フラメルの弟子たちのこと。
使徒にはそれぞれ、序列……というか、まあ師匠が勝手に決めた順位が存在する。
第一使徒とは私のこと。あと万象の王ってのは師匠が勝手に決めたあだな。
「第一使徒に敵うわけないだろ! 死ぬぞ!」
「さ、サザーランド様が何をおっしゃってるのか、さっぱりわかりませぬ……が、このままあの女を野放しにしてよいのですか!? あなた様もお強いのでしょう!?」
「だとしてのあの女は桁外れに強いんだよ!」
何ゴタゴタ言ってるんだろうか……。
「私はあんたに用事があってきたのよ、サザーランド。ちょっと、おいたがすぎたようねぇ」
私は秘蔵の魔法ポーションを手に、いきってたサザーランドに近づいていく。
「ま、待ってくれ先輩! 誤解なんだ!」
「あんたがクーデター起こして、悪いギルドを国中に作って、がっぽりもうけてたのは事実でしょ?」
「そ、それはそうだけどぉ……」
「さすがに見過ごせないわね。同じフラメルの使徒として。あんたの振る舞いが、師匠の顔に泥を塗る。それを姉弟子としては見過ごせないわ」
あのろくでなしの師匠のことなんて、別に好きでもなんでもない。
ただ錬金術師としては尊敬してる。
だから、師匠の信用を落とすまねをしてるこのバカ弟子には、ちゃんと教育しておかないとね。
もう二度と、師匠に迷惑かけないようにって。
「う、ぐ、ち、ちくしょおおお! こうなったらやけだ! やってるやるうぅう!」
サザーランドが指をくいっとと折り曲げる。
その瞬間、急に誰かに後ろから首を絞められてるような感覚を覚えた。
振り返っても、そこには誰もいない。
「は、はは! そうですよぉサザーランド様! あなた様には無敵のその能力があるじゃないですか! あの女なんてイチコロですよ!」
「誰がイチコロですって」
「「なにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」」
ちょっと咳き込んだけど、もうさっきまでの息苦しさはなくなっていた。
「そ、そんな馬鹿な!? サザーランド様の無敵の能力が、効いてないだとぉ!?」
「なーにが無敵の能力よ。こんな陳腐なもん、能力でもなんでもないわよ」
「どういうことだ!? 貴様……サザーランド様の、誰にも解明できない能力の謎を解いたのか!?」
まあたいしたタネじゃない。
「これの息苦しさの正体は……毒ガスよ」
「ど、毒ガスだと!?」
「そ。大気中の二酸化炭素とか、体に有害な成分を錬金術で集めて、対象となる人物の周りにガスを発生させる。すると息苦しさから、まるで誰かに後ろから首締められてるような感覚に陥るってわけ」
能力でもなければ魔法でもない。
単なる錬金術を使ったトリックだ。
錬金術師としての腕は私の方が上。
この程度の術なら、レジストできる。
……しかし、まあ……まあ……。
「師匠から教わった技を、悪事に使った? はは……ふざけるなよ」
私は試験管を指の間に挟んで、胸の前で腕をクロスさせる。
「師匠の代わりに私がおしおきしてあげる」
「げええ! そ、それは……! そのポーションは!」
私は試験管をすべて投擲。
それらは空中でぶつかって、上空に湯気を発生させる。
ごぉお……! と凄まじい熱気とともに、【それ】が出現する。
灼熱の体を持った、炎の魔人だ。
「す、す、すす、人工炎精霊ぁあああ!?」
錬金術の秘奥のひとつだ。
錬金術で、人間そっくりな生命体を生み出す……人工生命体の技術を応用している。
人の手で人工的に大精霊を作り上げる。
私が作ったのは炎の大精霊イフリートを模して作られた人工炎精霊。
見上げるほどの赤い巨人を前に、ぺたん……とサザーランドが尻餅をついている。
「あば……あばばばば……」
アブクゼニーが完全に戦意喪失してる。そりゃそうだ。こんだけやばい精霊を直視したら、ね。
体の温度は数千度はくだらない。
立ってるだけで肌が焼けそうになるし、呼吸するだけで息が苦しくなる。
「人工炎精霊。ぶんなぐったげて」
「い、いやぁああああああ! すみませんでしたセイ先輩! どうか、どうか許してください! もうしませんから!」
「だめ。バカは死ななきゃ治らないってゆーじゃない?」
だから、私は言う。
「ま、とりあえず……いっぺん死んどきなさい。大丈夫、蘇生ポーションはあるから♡」
人工炎精霊が灼熱の魔手をふりあげて、思い切り、バカ弟子にむかって振り下ろした。
「いやぁああああああああ! 助けてぇええええええええええええ!」
ドゴオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン……!




