36.王都到着からの投獄からの脱出
私たちはついに、エルフ国アネモスギーヴの王都【ギーヴ】へと到着した……んだけど。
「あら、意外と普通ね。もっと瘴気の影響受けてるのかと思ったけど」
エルフ国は魔道具師ギルド【蠱毒の美食家】がもたらした公害のせいで、大気、水質、土壌汚染が発生していた。
空気はよどんでいて、水も飲めず、森の恵みも得られない状況だった。
しかしこの王都ギーヴは違う。
外観は森の中にある街って感じ。大木が立ち並び、そこの上にみんな建物を作ってる。ツリーハウスっていうのかしら?
「……おそらくですが、作業する工房が王都にはないのでしょう」
「あ、なるほど。工房がないから瘴気が発生しない。だから王都は無事ってことなのね。ゼニスちゃんかしこーい」
奴隷エルフのゼニスちゃんの頭をなでる。
けれど彼女の表情は浮かないままだ。
それはそうだ。ここはかつて彼女の住んでいた街。クーデターを起こされ、家族は離散した。
そのつらい過去を思い出しているのだろう。
哀愁の漂うその背中を見ていられず……。
私はぎゅっ、とゼニスちゃんを後ろからハグしてあげる。
「セイ様……?」
「大丈夫。辛い日々は、より楽しいことで上書き可能よ。今の私のようにね」
上司からパワハラ受けていたあの日々を思い出すことが、最近少なくなってきた。
奴隷ちゃんたちと楽しい旅を続けているからだろう。
「そんな暗い顔しちゃだめよ。過ぎた過去にいつまでもとらわれても無意味なんだから」
「……そう、ですね。もう起きてしまったことは、変えられないです」
「そ。だから今を、そして未来を見据えていましょう?」
私はぎゅーっとゼニスちゃんを抱きしめる。
大人びた彼女だったけど、涙を流していた。しばらくハグしてると心が落ち着いてきたみたいだ。
「……ありがとうございます」
「いえいえ。あなたは大事な仲間ですもの。辛かったらいつだってお姉ちゃんがハグしてあげるわ!」
「……そ、それはちょっと恥ずかしいです」
ダフネちゃんがにこにこーっと黙ってこっちを見ていた。
「……あ、あの、セイ様。ところで、これからどうするんですか?」
「んー。ま、とりあえず魔道具師ギルドいって、偉い人を説得かしら。このままの工房の運用方法を続けると、いずれ国が破綻するから、やり方変えましょうって」
「……素直に聞いてくれますでしょうか。支部の責任者だったアブクゼニーとは違って、今から会うのはギルド本部長ですし」
「まー、そんときは説得(物理)よ」
こっちにはトーカちゃんもメイドロボもいるからね。
「……あまり、荒事を起こさない方が」
「わかってるって。お尋ね者になんてなったら、旅が楽しくないもんねー」
★
「どうしてこうなった……」
私と奴隷ちゃんズ、そしてロボメイドの5人は現在、王宮の地下牢にとらえられている。
魔道具師ギルドの本部に出頭したら、そのまま騎士に取り押さえられてしまった。
転移ポーションとか使えば楽々逃げられただろうけど、奴隷ちゃん達を真っ先に押さえられてしまった。
抵抗すると、私の大事な仲間が殺されてしまう。
私は仕方なく騎士に従い、こうして地下牢へとぶち込まれた次第。
「私が何したって言うのよー! だせー!」
奴隷ちゃんズとメイドロボはそれぞれ別の牢屋に入れられている。
魔法ポーションはシェルジュが持っているため、ここからの脱出は無理だ。
私はポーションがなければタダの一般人なのよ……。
「く……くく……久しぶりだなぁ、女ぁ……!」
鉄格子の向こうに現れたのは、嫌な顔をしたおっさん。
「げ、アブクゼニー……なんであんたがここに?」
アブクゼニー。かつてテリー君たちのいた工房を仕切っていた、クソ上司だ。
「決まってるだろぉ、復讐さ!」
「はぁ? 復讐? 私何かやって……」
……やったわね。うん。
空の果てまでぶっとばして、工房を乗っ取ったわ。うん。
「貴様はここで処刑されるのだよ!」
「はぁ、処刑?」
「そうだ! 勝手に工房をのっとり、我らの商売の邪魔をする貴様を排除せよとの、【森の王】からのご命令だ!」
「だれよ、森の王って」
「現エルフ王のことだ!」
「? なんでエルフの王様が、あんたらに味方するわけ?」
「陛下は我らと友好的な関係を結んでいるからなぁ……くくく!」
ははあ、なんとなーく話が見えてきた。
要はエルフ王とこの魔道具師ギルドは、グルになって商売してるんだ。
新しいエルフ王……森の王は国中に工房を作らせ、その利益を得る。国民が公害で苦しもうが知ったことじゃない。
なぜなら新しい王は、元々住んでいたエルフ達に何の愛着もないからね。
「くそオブくそじゃないのよ」
「威勢のいいガキだ。どうだ? 今ここで泣いてわびるようなら許してやってもいいぞ? ただし、わしの下で一生、奴隷のようにこき使われることが条件だがなぁ……」
あー、だめだ。
もー、だめだ。
我慢できない。私こういう、自分の利益のために他人を利用するやつが、いちっばん嫌い!
ならばどうする? 簡単よ。
私はしゃがみ込む。床に手を置いて、必要な物を集める。
じめっとしてるので……あった、このコケと。あと必要なものは大気中から成分を抽出して……。
「おお、なんだぁ? 土下座かぁ?」
「いいえ、違うわよ」
私の手には必要な物がそろってる。
それを思いっきり、こすり合わせる。
かっ……! と激しい光が発生した。
「うぎゃぁああああ! 目が、目がぁあああああああああああ!」
ありあわせの素材を、錬金を使って加工し、即席の閃光弾を作ったのだ。
私はすぐさま鉄格子に手を当てる。
「錬金」
ぐんにゃり、と鉄格子がゆがむ。
私はすぐさま外に出て、アブクゼニーを牢屋にぶち込むと、鉄格子を元の形に戻す。
「なっ!? なぜわしが牢屋の中に!? き、貴様! どんな手品を使ったのだ!」
「手品じゃないわ。錬金術よ」
物質を別の物質へと変える。それが錬金術。
これを応用することで、金属の形を自在に変えることも可能。
「閃光弾であんたが目をくらまししてる間に、ちょろっと牢屋の外に出させてもらったわ」
「くそっ! おい誰か! 脱獄だ! 犯罪者が逃げるぞ!」
「逃げる? はんっ! そんなことするもんですか!」
私は逃げも隠れもしない。
国王がくそオブくそなやつなら……。
「私が直接、森の王とやらのもとに出向いて、説得(物理)するまでよ!」




