28.天候すらも操る
エルフ国に到着後、この国が公害問題を抱えてることを知った。
偶然知り合ったエルフのララちゃんを治療し、その後彼女の住んでいる村へと移動。
村長をサクッと浄化ポーションで治療した。
その後手分けして浄化ポーションをエルフのみんなに飲ませていく。
「おお! 体が軽い!」「すごい!」「エルフでもこんなハイレベルな治癒魔法、使えないぞ!」
あ、そうだ。そうだよ。
「長老さん」
「なんでございましょうか、聖女さまぁ……!」
「うわぁ……手のひら返しぃ……」
最初にこの村に来たとき、長老さんってば私を敵視してませんでした?
それが今やにっこにこしながら、手もみして私に近づいてくる。村の危機を救ったからだろう。現金な人。
「あなたたちって治癒魔法使えるんじゃないの?」
治癒魔法。かなり高度な魔法であり、使い手は少ない。だがそれはあくまでも、魔法適性の低い人間達にとってである。
エルフは人間よりも魔法を上手に操る。治癒魔法くらい、エルフなら使えると思うんだ。
だからこそ余計におかしい。なんで魔法で自分たちを治療しないのかって。
「実は大気汚染の弊害で、魔力不全になっておりまして……」
「魔力不全ねえ……体内に取り込んだ、魔素から魔力が作り出せなくなるって病気だっけ?」
「おっしゃるとおりでございます」
公害による弊害で、どうやら魔法そのものが使えなくなってるみたいだ。
魔法を手足のように自在に操るエルフ達からすれば、魔法が使えなくなるってことは、四肢を失うことに等しいだろう。かわいそうに。
「魔力不全って、回復ポーションで治るかしらね」
ふと気になったので、長老さんに回復ポーションの方も飲ませてみた。
すると……。
「お、おお! 練れる! 魔力が練れますぞ! す、すごい……!」
「良かった。そんじゃ、みんなー、回復ポーション配るの手伝ってー」
「「「はーい!」」」
奴隷ちゃんズとシェルジュに手伝ってもらい、今度は回復ポーションを配って回る。
「おお! 使える、魔法が使えます!」
「なんてことだ! 瘴気の浄化だけでなく、不治の病さえも治してしまわれるなんて!」
「さすが聖女さまだ!」
ん?
不治の病……?
「長老さん」
「はいよろこんでー!」
「まだ何も言ってないでしょ……」
最初の態度はなんだったのかって言いたい。気持ちのいい手のひら返しっぷりだった。
まーいいけどさ。
「不治の病ってどーゆーこと? 魔力不全って、確かに難病だけど、決して治らない病気じゃないでしょう?」
「確かに昔は難病でございましたが、今では魔力不全を治せるほどの癒やし手はおりませぬ」
「へ……? い、いないの?」
「はい。おりません。なので実質、魔力不全は不治の病とされておりました」
「お、おおう……そうなのか……」
え、魔力不全が治せる人居ないの!?
「マスター。ここはあなたの元いた世界から500年後、いろいろな技術が衰退してるのをお忘れですか? 以上」
シェルジュの言うとおりだった。そ、そっか……私500年後の衰退した未来まで眠っていたんだっけ。
しかし魔力不全が治せる人居ないって相当やばくないかしら?
だって魔法の恩恵が受けられないってことよね?
魔法がないんじゃ生活不便すぎるでしょ……。だ、大丈夫なのかしら、今の世界の人たち……。
ま! 深刻に考えたってしょうがないわね!
今は見えない全世界の人たちじゃなくて、目の前に居る困ってる人たちをどうにかしないと。でないときもちよーく旅ができないでしょうに!
私たちは回復ポーションを使って、魔力不全だったエルフたちを治療した。
その後、みんなが私の前で土下座している。なして?
「聖女さま、我らをお救いくださり、誠に感謝申し上げまする!」
長老さんが頭を下げると、他のエルフ達も同様に感謝の意を伝えてくる。
エルフは人間嫌いって設定はどっこいったんだろうね……。それと私は錬金以下略。
「それよりこの汚れた土壌と大気を改善する必要があるわ。このままじゃいずれまた、体調を崩すエルフが続出するでしょうし」
「……ですね。体内の瘴気が取り除かれたと言っても、飲み水や食べ物から瘴気を摂取してしまうわけですし」
ゼニスちゃんの言うとおり。ということで、根本的な治療に当たることにする。
「シェルジュ。上級ポーションぷりーず。No.2で」
「かしこまりました、マスター」
彼女のメイドエプロンのポケットから、空色の液体の入ったポーション瓶を取り出す。
「……新しい上級ポーションですか?」
「いえーす」
魔法のような効能を発揮するポーションを、私は上級ポーションと呼んでいる。
その名前のとおり、番号がふってあり、それぞれ効能が異なる。
「トーカちゃん。これ、思いっきり空高く放り投げてくれるかな?」
「心得ましたぞ!」
火竜人のトーカちゃんは、私たちパーティの中で一番の力持ちだ。
トーカちゃんは大きく振りかぶって、思い切り、天へ向かって瓶をぶん投げる。
ぎゅぅううううん! ……って、なんかすごい音しながら飛んでったわね。
「わー! すごいすごい! もう見えなくなったのですー!」
ダフネちゃんがぴょんぴょんしてる。そのたびにうさ耳が揺れてかわゆす。
「シェルジュ。狙撃して」
「承知いたしました。以上」
シェルジュは銃を取り出して、空中に向けて銃弾を放つ。
割れたかどうかはここからじゃわからない。
「命中です。以上」
ロボなメイドのシェルジュの目は、高性能な望遠機能もついてるのだ。
改めてだけど、便利ねこの魔導人形。
「……セイ様。一体これから何が起きるのですか?」
「見てればわかるわよ~。あ、来たわね!」
「……あ、雨雲!? こんな晴れてるのに!?」
一瞬で空が真っ黒になると……。
ざぁああああ……と激しい雨があたりに降り注ぎだした。
すると空気中に漂っていた高濃度の瘴気が、一気に洗い流される。
大雨は本当に短い時間ふって、サッ……と消えた。
「み、見ろみんな! 村の瘴気が! なくなってるぞぉ!」
うん、ちゃんと作用したみたいね。
「……せ、セイ様……今のは?」
「【慈雨のポーション】よ」
「……慈雨?」
「化学反応で雨雲を作り、雨を降らすの。で、その雨のなかに浄化ポーションの成分が含まれてるから、一定範囲内の土地と大気を浄化できるってわけ」
「…………」
ぽかんとした表情で、ゼニスちゃんが私を見つめている。
あれ? 私難しい話しちゃったかしら?
慈雨のポーションの仕組みは、浄化ポーションを雨に含ませて、広範囲に降らせるって、ただそれだけなんだけど……。
「す、す、すごすぎますぞぉお! 聖女さま!」
長老さんがいきなり大声を出す。うるさ……。
「魔法で天候を操るなんて! すごすぎますぞ!」
そっちかーい。
え、天候を操作するのが、驚くべきポイントなの……?
「え? それくらい……できない?」
「できませぬ! 我らエルフであっても、さすがに天候操作の魔法はできませぬ! 失われた古代魔法ですからな!」
「え、ええー……そう、なんだ……」
そっか、そこからかぁ……。
「聖女さまは、どこでそのようなすさまじい魔法を習得なさったのですか!?」
「ええと……魔法じゃなくて、錬金術なんだけど……」
「はは! ご冗談を! 錬金術で雨を降らせられるなんて話、聞いたことがありませぬぞ!」
ええー……ここにいるんですけど……。
まあなにはともあれ、慈雨のポーションの効果で、村の土壌と大気汚染問題は解決したのだった。
しかし……根本的な解決にはなってないのよねえ。やっぱり魔道具師ギルドを、叩くしかないか。




