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【完結】天才錬金術師は気ままに旅する〜500年後の世界で目覚めた世界最高の元宮廷錬金術師、ポーション作りで聖女さま扱いされる〜  作者: 茨木野


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27.公害を解決する


 エルフ国アネモスギーヴへと到着した私たち。

 近くの湖で水浴びしようとしたら、そこにあったのは毒沼だった。


 水浴びのため沼を浄化したあと、この沼で水をくもうとしていたエルフちゃんと遭遇。

 ポーションを飲ませて、少し寝かせたところだ。


「う……ここは……?」

「おはよう。目が覚めた?」


 私たちは幌馬車の荷台に乗っている。

 エルフちゃんはゆっくりと体を起こす。

「! 体が……楽になってる……息が、くるしくない……! なにが……?」


 私は軽く事情を説明。倒れた彼女にポーションを飲ませたと。

 エルフ少女は唇を震わせながらつぶやく。


「すごい……瘴気を払うなんて、まるで聖女さまみたい……」


 まーた勘違いされてるわ……。まあもう訂正も面倒なのでほっとくか。

 それより気になるワードが出てきた。瘴気?


「ねえ、あなたのお名前は?」

「あ、はい。ララと申します、聖女さま」


「ララちゃんね。私はセイ。後のみんなは旅の仲間よ、よろしくね」


 奴隷ちゃんズとメイドロボシェルジュが頭を下げる。


「それで、一体何があったの? 毒沼の水なんて飲もうとして」

「はい、実は今、国全体が危機に瀕しているんです」


「危機って……しかも国全体で?」

「はい。深刻な公害が起きてるんです」

「公害……」


 なるほど、それは深刻だわ。

 はて、と火竜人のトーカちゃんが首をかしげる。


「こうがいとは、なんでござるか?」

「工房からの排水が原因で、土壌が汚染されることによって引き起こされる環境破壊や、病気のことね」

「なるほど……! さすが主殿! 物知りでござるな!」


 しかし公害か。私も師匠のところで修行しているときは、きつく言われた物だ。

 排水を処分するときは、慎重にと。


「どこかに工房があるの、ララちゃん?」

「はい。王家御用達の魔道具師ギルド【蠱毒の美食家】の工房が、国全域に建てられたのです」

「蠱毒の美食家……ね。あんまいい噂を聞かない魔道具師ギルドねえ」


 王都の貧民街にも、確か出店してたと思う。人工臓器とか、寿命が延びる薬とか、そんな怪しげな魔道具を高値で取引してたっけ。


 ……あれ? というか、まだあったのね、あの闇ギルド。

 500年前からあったし……。やはり悪はなかなかしぶといのねえ。カビみたいに。


「新国王さまになってから、蠱毒の美食家たちはこの国に工房をたくさん建てました。排水を垂れ流し、土壌を汚し……その結果山の緑も、空気も、地面も水も……瘴気によって汚れてしまっているのです」

「おねえちゃんおねえちゃん、瘴気ってなんなのです?」


 はいはい、とダフネちゃんが手を上げて質問してくる。


「魔道具を作るときに必ず出る有毒なガスよ。より正確に言えば、魔道具の核となる魔力結晶を削った時に発生する微粒子、それが瘴気なんだけど……」


 ぽかん、ゼニスちゃんとララちゃんが口を大きく開けている。

 あれ? どうして驚いてるのかしら?


「す、すごいです聖女さま! 瘴気の正体を解明してるなんて!」

「……さすがセイ様です。国の宮廷魔道士様でも、瘴気の正体についてはわからなかったのに」


 エルフちゃん二人が私に、尊敬のまなざしを向けてくる。


「あ、あれ? 先生から習わなかった? こんなの魔道具作成の初歩でしょ?」


 ふるふる、とエルフちゃんズが首を横に振る。あれぇ~?

 ま、まあとにかく、あの毒沼の正体が、魔道具師ギルド【蠱毒の美食家】たちの工房の仕業ってことはわかったわね。


 原因を絶たない限り公害はなくならない。とはいえ……。


「ララちゃん。あなたの住んでる村ってこの辺かしら? もしかして公害で苦しんでる人たちがいるんじゃない?」

「は、はい……! 近くに村があってそこで暮らしています。おっしゃるとおり……みんな苦しんでいます」

「ん。OKじゃ、まずは目先の人たちを助けることからはじめましょう」

「た、助けてくださるのですか!?」

「ええ」


 何度も繰り返しになるが、私は別に善意で人助けをしているわけじゃあない。

 私はただ、気持ちよく旅がしたいだけだ。目の前で苦しんでる人のをよそに、楽しい旅行なんてできないものね!


「うう……ぐす……ありがとうございます……聖女さまぁ……」

「いいって。ほら、案内してちょうだいな」


 ララちゃんを馬車に乗っけて、私たちは彼女の住む村へと急行した。

 そんなの離れたところではなかったので、すぐに到着。


「うう~……くさいのですぅ~……」

「うむ……これは……相当酷いでござるな……」


 五感に優れるダフネちゃんとトーカちゃんは、村を包み込む異様な空気を機敏に察知したみたいだ。

 ……確かに酷い。瘴気が可視化してる。

「マスター、大気中の瘴気濃度を測定しました。人体に多大な障害をもたらすレベルまでに達しております。以上」


 シェルジュには測定機能もついている。彼女から告げられた数値に私は驚愕した。

 こんなところでまだ暮らしてるなんて……。


「ララちゃん、村長さんのところへ連れてってくれない?」

「は、はい……で、ですが……その……」


 と、そのときだった。


「ララ! ごほごほ……何をしておるのじゃ!」


 結構な美青年エルフが、こちらに駆け寄ってくる。その美しい顔つきが、怒りにゆがんでいた。

 村の青年かしら?


「長老さま」


 さ、最長老ぅ……? どう見ても20代の美青年じゃないの。

 あ、そっか。彼女たちエルフだったわね。若く見えてもうん百才とか歳食ってるんだわ。


「ごほごほ……! 人間なんぞつれてきよって……! げほっ! ごほっ! 今すぐに出て行け!」


 あらら、あんまり歓迎されてない感じ?

 もしかして……エルフって人間が嫌いなのかしら? 500年前は社畜ってたから、あんまりエルフと交流持ったことないし、知らないのよね。


「出て行け! 村から……げほごほごほ!」


 あーあー、無理しちゃって。瘴気を大量に吸い込んだことによる、健康被害が出てるじゃないの。

 ま、無理にとどまる理由はないけれど、苦しんでる人たちをほっとけないのよね。旅が楽しくなくなるもの。


 ということで、何を言われようとも私は私のしたいようにする。


「初めまして&食らえポーション!」


 ぱしゃっ! と私は浄化ポーションを、長老さんにぶっかける。

 浄化ポーションは下級ポーション(簡便に作れる薬)の一つ、汚れを落としたり、毒や呪いを解除する。


「き、貴様人間……! いきなり何をするのだ! 魔法で消し炭にしてやろうか!」

「まーまー。それより長老さん。体……楽になってない?」

「何を貴様言ってる……なっ!?」


 体の変化に遅まきながら気づいたみたいね。顔色もさっきより良くなってるようだわ。


「し、信じられん……体の中の瘴気を取り除いたのか……?」

「まーね。それで、村の人の治療をしたいんだけど、いちいち突っかかってこられたら面倒だから、あなたみんなを説得してきてここに連れてきてくれない?」


 長老さんは私に疑念のまなざしを向けてきた。まあいろいろ聞きたいことは多いだろう。

 おまえは誰だとか、そのポーションはどうしたのかとか。


「ほらほら、急いで。早くしないとみんな死んじゃうわよ」

「わ、わかった……!」

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