25.英雄の村
セイたちが村を出発して半月ほどが経過したある日のこと。
彼女たちを追跡するSランク冒険者、フィライトが、ふらふらとなりながら悪魔の塔を踏破した。
「フィライトさん! ご無事でしたか!」
恋人のボルスをはじめ、同行してきた冒険者達は、塔の入り口で待っていた。
フィライトを抱きしめてあげるボルス。大分お疲れのようだった。なにせクリアに2週間もかかったのだ。
「お疲れ。そんで、手がかりはつかめたのか?」
「ええ、ボルス……ここは、聖女さまのお師匠様の塔でしたわ……」
「師匠?」
「ここで聖なる御技を鍛えた、とのこと。塔の最上階にいた、侍女様より聞きましたわ……」
フィライトはこの塔であったことをボルス達に語る。中には難解なトラップ、強力なモンスターなどがうろついていた。
聞いただけでボルス達は震え上がるほどの、恐ろしい罠が仕掛けられていたのである。
「聖女さまはこの塔をなんと、数秒でクリアしたと、侍女様よりうかがいましたわ!」
「おお!」「すげええ!」「フィライト様が2週間もかかった試練を数秒でなんて!」
セイへの評価がまたも爆上がりしていく。だが実際にはセイは転移ポータルを使っただけで、塔内のトラップなどは全くひっかかっていない。
そのことを知らない彼らからすれば、Sランク冒険者すら苦戦する危険な場所を、楽々と越えていった聖女すごいとなるわけだ。
「しかしよぉ、聖女さまここに何しに来たんだ?」
「見ればわかるでしょう、ボルス。この高い塔を見れば」
「いや、さっぱりだ」
「聖女さまはこの世界を高い場所から見下ろし、この暗黒に包まれている世界の窮状をなげき、祈りを捧げていたのです……!」
と勝手に妄想するフィライト。ボルスはそんなわけあるか、とわかってる。だがこの恋人、セイに関してだけはポンコツでかつ意固地なのだ。
ここで異を唱えたらおそらくは激怒するだろう。触らぬ神に祟りなしとばかりにスルーする。
「そんで、聖女さまはどこへ向かわれたって?」
「そのまま南下して行ったそうですわ」
「じゃあまっすぐエルフ国アネモスギーヴに向かったのかもな。行こうぜ」
と冒険者の一団を連れて、ボルス達は塔を後にする。そんな風に歩いていると……。
「な、なんじゃあありゃあ」
とても立派な村が……否。
城塞都市が見えてきたではないか。
なんとも見事な外壁が、荒野の中にぽつんとあった。すさまじいくらいの場違い感である。
補給の意味合いもかねて、ボルス達は都市に立ち寄ることにした。
「す、すげえ……」「なんて立派な城塞都市なんだ……」
そこは辺鄙なところにある都市とは思えないくらい立派で、整っていた。整地された道路に、整然と並ぶ建物群。
都市で暮らす人々はみな溌剌としていて、すさまじいスピードで都市開発が進んでいた。
ボルスは近くに居た都市の人に尋ねてみる。
すると数日前までは、砂蟲に襲われて壊滅寸前の村だったことを聞いた。
「たった半月でここまで立て直したのか? 一体全体どうやって?」
すると町の人は誇らしげに、彼らをとある場所へと誘った。それは都市の中心部にある噴水公園だ。
「なっ!? あ、あの嬢ちゃんじゃねえか……!」
「素晴らしい……! 女神像ならぬ、聖女像ですわねー!」
鉱物を削って作られた、巨大な聖女像を前に、フィライトは目を輝かせ、ボルスはあきれていた。
こんな物を作るなんて……。よほど、この町の人間達はセイに感謝してるのだろう。
「この元村は、砂蟲の被害を受け死にゆく定めでした。そこへ聖女さまがお仲間を連れて現れ、我らに無償で治癒を授けてくれたのです」
実際には作ったばかりのポーションの実験だったのだが、そんなことはセイしか知らない。
セイの偉業を次々と口にしていく。村人を治し、死者を蘇生させ、町を再生したと。
「そ、そこまでやってくれたんか、あの嬢ちゃん……すげえ……」
「ええ、ええ。しかも無償でございます! 我らが対価として、魔銀鉱山の採掘権をお渡ししようとしたのですが……」
「なっ!? 魔銀だって!? そんな高価なもんが取れるのかここ!?」
「ええ。この人外魔境の地には、いくつもの魔銀鉱山があります」
「まじか……採掘権をもらわないなんて、あの嬢ちゃん何考えてるんだ……?」
フィライトはやれやれ、とあきれたように首を振るった。
ボルスはまたか……とこちらもまたあきれたようにため息をつく。
「聖女さまのほどこしは無償の愛。お金など無用ということですわ。はぁ~……すばらしい♡ これだけの偉業をなさったうえで、しかも対価を求めない……まさに無償の愛!」
実際にはこれ以上長居すると、またいろいろ頼まれて面倒だ、という無償の愛もへったくれもない理由で出て行っただけだ……。
魔銀の採掘権についても、聞く前に出て行っただけである。
「そして我らに激励を与えてくださり、さってゆきました……。その後、聖女さまの聖なる力を受けた我らは、この通りすっかり元気になりまして!」
「で、このご立派な町をあんたらが作ったって訳か」
セイが彼らに与えたのは通常のポーションだった。しかしただのポーションでも、並の錬金術師が作るものより遥かに高品質な物。
セイのポーションは彼らの細胞を活性化させた。おかげで、うちに秘めた潜在能力すらも開花。この村の全員が、才能を開花させ、結果このような立派な都市を作り上げることに成功したのだ。
「この都市は【聖女都市】として、この人外魔境の地を訪れた人たちに、無償で施しを与える都市として、この先も運営していこうと思います!」
それを可能にするだけの人材が、この都市には集まってると言うことだ。
全員がセイの出来立てポーションを飲んで、英雄レベルにまで、潜在能力を引き上げられた英雄たち。
「素晴らしい……聖女街道に聖女都市! これほどのものを作り上げるなんて……聖女さまはやはり素晴らしいですわー!」
フィライトのなかで聖女セイの評価は、天上に届くレベルでガンガンと上がっていくのだった。




