22.立ち寄った村で神扱い
砂蟲を爆殺したあと、私たちは南へ向かってまっすぐ降りていく。
ロボメイド・シェルジュにはコンパス機能も搭載されている。
師匠が作った魔導人形を、そのままトレースしているから、私がつけたっていうより師匠がくっつけたのよね。
塔を守るメイドに、なぜコンパス機能(無駄な機能)をつけたのかー……はわからない。
まああの変人のことだ、常人には理解できない理由があるんだろう。あんま深く考えないとこー。
さて。
「村を発見しました。立ち寄りますか? 以上」
「おー、村ね。そうね、泊めさせてもらいましょうか」
日も傾いてるし、ちーちゃんにも疲れが見える。
私は前職のお局BBAからパワハラを受けていた。
だから、私は絶対に、労働者に対して無理な労働を強いることはしない!
それがたとえ、竜車であってもだ!
「ぐわぐわ、がー!」「【姐さんまじやさしぃ~! 神!】だそうなのです!」
動物の言葉がわかる、ラビ族のダフネちゃんが、ちーちゃんの言葉を代弁する。
まー別に神って訳じゃないんだけど。私はただ、人からやられていやだったこと(過剰労働)を、他人にしたくないだけよ。
ほどなくして村に到着した。しかし……。
「ううむ、これは酷いでござるな……ボロボロでござる」
「……モンスターの襲撃でも受けたのでしょうか?」
村は、まるで嵐が来たかのように、ぐっちゃぐちゃになっていた。
建物は壊れ、道はめくれ上がり、あちこちで怪我した村人達が寝かされている。
これは、泊めてーって言える状況じゃあないなぁ。参ったなぁ、野宿? やーよ、屋根のあるとこで寝たいもの。
と、なると……。
「ゼニスちゃん。トーカちゃん連れて、村長探してきてくれない? ダフネちゃん、シェルジュ、ふたりは私のお手伝い」
「「「はいっ!」」」
奴隷ちゃん達が、うふふと笑う。
え、なに?
「やっぱり主殿は慈悲深いかたでござるなぁ!」「怪我してるひとたち、助けるのです! お姉ちゃんやさしいのです!」「……セイ様。事情聴取はお任せください。治療にご専念なさってください」
ゼニスちゃん達は一度離脱。
残った私、ダフネちゃん、シェルジュは近くに居た村人の元へ。
「あのー、こんばんわ~」
「な、なんだあんた……?」
近くに居たその村人は、右手を失っていた。
獣か何かに食いちぎられたようだろうか。
「私は旅の者です。治療させてくださいませんか?」
「ち、治療……? あ、あんたら天導教会のやつらか?」
またでた。天導。
最近工房に引きこもってたから、聞かなかったけど、こんな辺鄙なとこにも天導の名前って伝わってるのねぇ。
まあそれは今どうでもいいんだ。
「天導は関係ないですよ。単なるよそ者です。シェルジュ」
メイドのエプロンから、ポーション瓶を取り出して、私に手渡してくる。
キャップを開けて、中身を掛けようとすると、村人が抵抗。
「な、何する! やめろ! そんな得体の知れないもんを……ぎゃっ!」
びくんっ! と村人が体を一瞬こわばらせると、くたぁ……と倒れる。
シェルジュの親指と人差し指の間に、電流がビビビと流れていた。
こいつ電気を流して気絶させたな……。
「マスター。治療を。以上」
「まー、いっか。やりやすくなったし」
私はポーションの栓を抜いて、とくとく……とけが人の腕にぶっかける。
するとちぎれた右腕がみるみる再生され、元通りになった。ついでに悪いとこ全部治った。
「はいはい起きてー」
「う、うう……うぉ! う、腕が治ってる!? あ、あんたがやったのか?」
「ええ。どう、気分は?」
「あ、ああ……おかげさんで。す、すげえ……体がどっこも痛くない……!」
するとそこへ、ぞろぞろと村人がやってくる。
「お姉ちゃん! 動けるけが人つれてきたのです!」
「お、ダフネちゃんナイスぅ~。はいはい、並んで並んでー! 治してくからねー!」
村人達は半信半疑のようだった。
だがさっき助けた村人が、自分の腕が治ったことを告げると、みんな信じてくれた。
私、シェルジュ、ダフネちゃんは手分けしてポーションをけが人たちにぶっかけていく。
治癒魔法と違って、ポーションは瓶あけるぶっかけるだけで、相手を治せるから便利よねー。
治療した村人に、瓶をわたし、別のけが人にぶっかける。
そんな風にしていけば、あっという間に、けが人はゼロになった。
「こ、これはどういうことじゃ……」
「お、あなたが村長さん?」
ゼニスちゃんとトーカちゃん、はげたおっさんを連れてきた。
多分村長さんね。上手く話を通してくれたみたい。さすがゼニスちゃん。
「村人は全滅しかけていたのに……けが人が誰もおらぬ! き、奇跡じゃ……」
「いやいや、こんなの奇跡でもなんでもないから」
ただポーションぶっかけただけだからね。
ゼニスちゃんが近づいてきて私に言う。
「……どうやらモンスターが数時間前に襲ってきたそうです。負傷者多数、死者もかなりの数がいるそうで……」
村長から聞き出した情報を、ゼニスちゃんが私に報告する。
ふぅむ、死人もでてるか。これだけ村がぐっちゃぐちゃなら、そりゃでるわな。
「よし、行くわよ。村長、死体ってどこにある? まだ埋めてないわよね」
けが人の治療でいっぱいいっぱいだったし、まだ埋葬だの火葬だのはされてないだろう。
「い、一体何を……?」
「ま、数時間ならこれが使えるでしょうからね。シェルジュ。No.1を」
メイドのポケットから、赤い液体のポーション瓶を取り出す。
さっそく、上級ポーションの出番か。
私は村長に案内してもらい、死体の元へ行く……。
「うええええええええん! おかーさーん! おとーさーーーーん!」
小さな女の子が大泣きしてる。
そのそばに、すでに事切れて動いていない、男女の死体が転がっていた。
この子の両親だろう。何があったかしらないけど、まあ……痛ましくて見てられないや。
それは奴隷ちゃん、特に、ダフネちゃんもそうだったらしい。
たっ、とダフネちゃんが駆け寄って、幼女ちゃんのことを抱きしめる。
「泣かないでなのです。お姉ちゃんが、治してくれるのです!」
「……なおしてくれる? ほんとぉ?」
「うん! だから泣かないで! ね!」
いきなりよそ者から、こんなこと言われても困るだけだろう。
大人の村長さんですら、困惑していた。死体をどう治療するのかって、猜疑心に満ちた瞳を私に向けてくる。
でも、この幼女ちゃんは違う。
ダフネちゃんにそう言われて、こくん……とうなずいた。
多分年の頃が近かったのと、この子の持つ優しい心の光が、幼女ちゃんに届いたのだと思える。
ダフネちゃんは幼女ちゃんの手を握ると、両親の死体から幼女ちゃんをどける。
私はしゃがみ込んで、No.1【蘇生ポーション】を、夫婦に向かって振りかけた。
その瞬間……激しい光が周囲を包み込む。
「な、なんじゃあああああああああ!?」
驚いてる村長。奴隷ちゃん達もびっくりしてるわ。
やがて、光が収まると……あらふしぎ。
怪我はすっかり元通り、そして死んでいた両親の顔にも、血の気が戻っている。
「こ、これは……」「あたしたち、生きてるの……?」
「おかーさん! おとーさーん!」
幼女ちゃんは両親に抱きついて、わんわんと涙を流す。
二人は状況を飲み込めていない様子。そりゃそうだ、いきなり死んだらね。
「し、信じられん……か、神の奇跡じゃ……」
村長が声を震わせながら、私の前にしゃがみこむ。
「め、女神さまー!」
村長が深々と頭を下げる。幼女ちゃんもそれを見習って、同じように頭を地面につける。
ちょ、ちょいちょい……そこまで大げさにすることないでしょ。
「あなた様は我らをお救いになられるため、天上の世界よりこの地に舞い降りた、女神様に違いございません!」
「ありがとー、お姉ちゃ……めがみさまー!」
ううん、なんか妙なことになってしまった。
ただ、ね。これだけは訂正せねばなるまいて。
「あのね、私女神じゃありません」
「え? で、では……?」
「私、ただの錬金術師ですから」
私の台詞を聞いて、村長さんも、そして幼女ちゃんも目を丸くして、ぽっかーんとしていた。
誰も何も言えないなかで、ぼそっとシェルジュが言う。
「死者を蘇生させておいて、神ではないと否定するのは、さすがに無理があるかと思います。以上」
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