211.人体錬成
シェルジュたちは地上へと降りる。
そこで待っていたのは、ダフネたち奴隷、そして……。
「聖女様!」
Sランク冒険者、フィライトとボルス。
ふわり、とシェルジュ達は着地。
「聖女様!? どこにいるのですの!?」
セイ信者であるフィライトがシェルジュに尋ねる。
奴隷達も、愛する主人がいないことに不安を覚えているようだ。
シェルジュはうなずいて、すっ……と手に持っている黄金の石を見せる。
ああ……と全員が暗い顔をした。
「そんな……」
「セイ様……おなくなりになられたのですね……」
ゼニスが涙を流す。
どうやらこれが、セイの遺品だと勘違いしてるようだった。
そのときである。
『いや生きてるから』
と、黄金の石からセイの声が聞こえてきたのだ。
「セイ様!?」「聖女様!?」「おねえちゃんっ!?」
この場に居る全員が驚愕する。
『ただいまー、ふいーつかれたー』
「あ、あの……セイ様? どうなってるのですか? 死んだのでは?」
『あ、うん。肉体は滅びたよ。でも意識はこんなかにはいってるの』
「意識が?」
『そ。これは賢者の石。これに私の意識をうつしてる状態。肉体は木っ端みじんになったけど、もんだいなーし』
誰もが首をかしげていた。
それはそうだ。この人がやってることを、誰も理解できるわけがない。
それに……。
「肉体が滅んだのでしたら、死んだのと同然では……?」
『そんなことないよ。ないなら作ればいんだし! シェルジュ!』
シェルジュはうなずいて、ストレージからたらいを取り出す。
そして、必要となる素材をたらいの中にいれる。
「な、なんですかこれは……?」
『人間の素だよ』
「に、にんげんのもとおぉ!?」
ゼニスがたらいの中を見やる。
『水、炭素、アンモニア、石灰、リン、塩分、硝石、硫黄、フッ素、鉄、ケイ素、その他少量の元素……これが、人間を構成する要素だよ』
「は、はあ……そして、いったい何を……?」
その場にいないはずなのに、セイがどや顔してるのが、シェルジュにはわかった。
『今から……復活します! シェルジュ!』
「はいはい」
シェルジュはセイの意識の入った賢者の石を、たらいの中に放り込む。
『こらー! 雑に扱うなー!』
「良いからさっさと人体錬成してください」
そう、主が行おうとしてるのは、人体錬成。
人を錬金術で作る禁術。
セイの立てた作戦は、死んだ後自らを人体錬成して、復活するというとんでもないものだった。
『んじゃ、いっきまーす!』
空中に、立方体が出現する。
錬金工房。この中に素材を入れることで、錬成を行うのだ。
立方体の中にすべてが入る。
かっ……! と光り輝くと……。
金だらいのなかに、セイ・ファートが現れた。
完全な肉体を持って、帰ってきたのである。
「よし、完璧っ! って、うわああああ!」
セイを慕う女達が、一斉に彼女に抱きつく。
「ちょちょ、なによ?」
「おねえちゃああああん! 無事でよかったああああ! ふぇえええええええええん!」
ダフネが泣いてる。他の子たちも皆、セイの帰還を喜んでいた。
……シェルジュも、また心中でこっそり泣いていた。
セイはダフネの頭を撫でながら、笑顔で皆に言う。
「ただいまっ!」
「「「「おかえりなさいっ!」」」」
……かくして、ニコラス・フラメルが引き起こした、事件は、これにて一件落着となったのだった




